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失恋墓地 #毎週ショートショートnote

彼が、知らない女性と肩を寄せ合い、ジュエリーショップに入っていく。
楽しげなその姿に、私は背を向け立ち去った。

「HAKABar」という看板が目に入った。
彼とのディナーをすっぽかし、夕方から飲み続けていた私は、その店の扉を開ける。

「何これ?」
何杯めかのグラスを空けた私は、カウンターの隅にある、四角い箱に目をやった。
「先ほど来たお客様が、失恋の手向けにと残したものです」
私の声を耳にした、バーテンダーが答える。
「失恋?」
「はい。失恋されたお客様の、思いを断ち切るのもこの店の役目です」

私は箱に手を伸ばした。
「これ…指輪じゃん」
「彼女にプロポーズするため、妹さんと選んだそうです。ところがディナーの約束をした彼女が来なくて、振られてしまったと…」

一気に酔いが醒めた私が立ち上がると、バーテンダーが笑顔で言った。
「大丈夫ですよ。彼、思いが残っていたようです」
そのとき店の扉が勢いよく開き、息を切らした彼が、私の前に現れた。

たらはかに(田原にか)さんの企画に参加させていただきました。

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