見出し画像

道に落ちていた二重人格

暑い夏の日、男が道を歩いていた。
「仕事大変そうですね」
突然の声に男はあたりを見回すが、人の気配はない。
「ここですよ」
声は下から聞こえてきた。夏の太陽が男の黒い影を道に映し出している。
影は頭の部分に小さな白い丸があり、まるで口のようだ。
「大きな取引を抱えて、お忙しいでしょう」
影が話しかけていると分かって男は驚いた。
「残念ながらその取引は成功しませんよ」
「なんだと……」
影の白い丸はみるみる大きくなっていき、男は強い力で引き寄せられる。
男はこらえようとしたが、ついには身体ごとその口に吸い込まれてしまった。

しばらくすると影は男の身体に変化していった。

「パパ、一緒にすべり台で遊ぼう」
公園で子どもと遊ぶ男の姿を、妻は眺めていた。
仕事一筋で家庭をかえりみなかった男が、人が変わったように家族を大事にするようになり、妻は幸せを味わっていた。

「パパ、次は影踏みして遊ぼうか。……あれ、パパの影に小さな白い点があるよ」


たらはかに(田原にか)さんの企画に参加させていただきました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?