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万事オーライ

ごきげんよう。

”万事オーライ”

先日、植松三十里『万事オーライ』(2021年 PHP研究所)を読んだ。
この本は「大分合同新聞」などで連載されていたもので、
別府観光の父・油屋熊八の生涯を描いた長編小説である。

「油屋熊八」と聞いて、別府に馴染みがある人はピンと来ると思うが、具体的に熊八がどんな人生を経て、別府にやって来て、何を成し遂げたというのは別府に馴染みがない人たちはもちろん、馴染みがある人たちでさえ多く知らないと思う。

この本の素晴らしいところは、熊八について熊八視点で描いているため、人物の心情変化が分かりやすく、たいへん読みやすいこと。
また、登場人物が豊富かつ個性的で、それぞれの人物の特性を表すエピソードがバランス良く盛り込まれているため、主人公の熊八を追い続けることに集中していても飽きることがない。
そして、挫折→成功→挫折→成功と熊八の生き様が忠実に展開されているため、物語の構成はシンプルだが、読みごたえがある。

油屋熊八は明治維新の5年前、1863年(文久3年)に愛媛県宇和島市に生まれ、
実家は米屋で、藩に米を卸したりするほどの名門だった。
熊八は10代の頃から店を手伝い、一升桝を片手で扱っていた。熊八の右手が異常に大きいのはこれが原因である。
その後、熊八は父親に連れられて行った大阪で米の先物取引を目の当たりにし、
投資や株に興味を抱き、一生懸命に勉強した。
そして、明治維新後ということもあり、日本各地で経済が混乱していたにも関わらず、
勉強の成果を活かし、大阪から米を安く仕入れることに成功する。
熊八は、下向きだった店の経済を立て直し、地元ではやり手のビジネスマンとして名声を浴びた。
その勢いで、市議会議員にも当選した。
ただ、熊八は議会を通さなければ事業投資ができないことや政治的な派閥による意見の食い違いなど、納得できない部分が多く、議員を早々に辞職してしまう。
辞職後、念願の大阪に拠点を構え、親戚の紹介で新聞の経済記者をやりながら、株や投資を次々に成功させる。
熊八は、一躍「油屋将軍」として東京や大阪で有名になり、大金を得ることになるが、
熊八のお金の使い方は成金そのもので、豪邸を建てては芸者たちを呼んで豪遊し、豪華な鞄やネックレスなどをプレゼントしまくった。
しかし、そんな日々も長くは続かず、日清戦争や日露戦争の時に、情勢の読みを誤ってしまい、熊八は全財産を失うことになってしまう。
そこで、熊八は出直すためにも海外で心機一転を試みようと考えた。
実は、熊八はボロ儲けしていた頃、現在の大河ドラマ「青天を衝け」でお馴染み、晩年の渋沢栄一と会っており、渋沢から海外渡航を薦められたことがあったのだ。
熊八は海外渡航の資金調達のため、妻のユキを頼り、別府の亀の井旅館の主から出資してもらうことに成功する。
そのお金で単身アメリカに行き、そこで3年間、下働きをしながら図書館や教会に通いつめ勉強した。他にもアメリカを北から南までヒッチハイクで横断し、観光名所を訪れることで後に別府で観光事業を進めていく上でヒントになる知識やアイデアを得た。
帰国後、48歳の熊八は妻のユキと共に亀の井旅館を経営しながら、別府で第二の人生を歩むことになる。ここからは先は本の中にたくさん描かれているので、詳しく知りたい方は読まれることをオススメする。

この本には熊八の挫折や成功のエピソードが教訓としてたくさん描かれている。
熊八の人柄や行動を通して、われわれ現代人にも見習うべきところがあるといった自己啓発的な読み方もできると思う。

別府市長の長野さんも御自身のFacebookで仰られていたように、
私もこの本を原作にNHK朝の連続テレビ小説でドラマ化するべきだと思う。
こんなにも紆余曲折がある人生で、人の縁にも恵まれており個性的なキャラクターが次々と登場し、それぞれに笑いあり涙ありのエピソードが詰まっている。
東京・大阪・宇和島・別府という舞台の幅広さ、時代背景も含めて、こんなに朝ドラにもってこいな作品は他にはないと思う。
本当に朝ドラとして実現することを祈っているし、実現のためであれば私は何でも協力させて頂く所存である。

ちなみに、私がこの作品の登場人物の中で好きなのは「原北陽」である。
北陽は東京から別府にやって来た写真家で、ハンチングを斜にかぶって、白シャツの袖をまくりあげ、ネクタイの裾をくるりとねじってシャツの前合わせの中に押し込んでいる。ズボンは短めで、足元は白と茶の二色使いの靴をはいており、かなりの洒落者である。
熊八が北陽と初めて出会うシーンで「モボ」であると紹介される。モボとはモダンボーイの略称で対義語として「モガ」がある。いわゆる、モダンガールのことだ。
モダン好きな私にとって北陽はセンスの塊のような人である。
北陽は後に、熊八と共に別府宣伝協会を運営する主要メンバーにもなる。

とにもかくにも、『万事オーライ』は熊八のことを知らない人でも笑いあり涙ありで楽しめる作品となっているので、一度読んでみるのをオススメする。
そして、NHK朝の連続テレビ小説でのドラマ化を期待している。

本日もここまでお付き合い頂き誠にありがとう。

ごきげんよう。
さようなら。

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