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[すこし散文詩的なものを] 0007 冷たいベゼ

手で探るとざらついた冷たい表層が一面に広がる。
その硬いざらつきが、肌に引っかかる。
擦りつければ、きっと痛みの伴う摩擦が肌に残るだろう。

この見果てぬ、冷たい壁はどこまで続いているのだろうか。
ふと、手つかずの場所に手を当ててみる。
僕のぬくもりを奪い、一段と冷たく、体にしみた。
冷淡なまでの冷たさは、深海の青に似ている。
このまま、死への旅路を自ら目指しても、何の苦痛もないだろう。
とは言っても、何の手はずもない。ただ身を任せて、体のぬくもりを奪ってもらう以外に方法はない。

だったら、いっその事、この状況を愛してみよう。
僕は、唇をそのざらついた冷たい表層に押し付けてみる。
手のひらで感じたそれとは深みが違い、一段と冷たく、その波が湿った口の表面から心の奥の方まで波打った。
届いたすべての欠片は、青色に染められ、ただ心地よかった。

世界の片隅の、壁に寄り添う自分は、なぜかとても幸せだった。

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時に壁は、なんとも愛らしい存在になりうる。
部屋の片隅でたたずむ時、きっと壁に目をやるだろう。
道端で持て余していたら、きっと近くの壁に寄りかかるだろう。
だから、僕は壁を潜在的に愛しているのだ。

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