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#04 ニット製品のつくり方(カット編)


前回は、成型編みで編まれたパーツをリンキングで縫製して作る方法を解説しました。


第2弾となる今回は、編み地を裁断(カット)して作る方法についてです。縫製方法の面で、布帛と似た部分が多い作り方になります。

前回に引き続き、こちらも作る際の流れにそってお話ししようと思います。


- 編み立て -


・編地のかたち

カットで製品を作る場合、どう編地を編むかというと、基本的に四角形で、パーツごとに編地が編まれます。ベージックな丸衿のプルオーバーだと、前身頃で1枚、後身頃で1枚、袖は左右各1枚ずつの合わせて2枚、それと衿。

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布帛のように反物にせず、どうしてパーツごとに編まれるのか、ちゃんと確認したことはないのですが、たぶん以下の理由だと思います。

・編み終わった後、裁断する前にアイロンや加工の作業をする際(後述します)、いくつもパーツが入るような大きい編地だと加工ムラが出たりアイロン作業がしづらい

・編地の大きさを抑えられるので大きい裁断スペースを確保する必要がない

・針不良による編みキズ(特に目落ち)が出ることがあり、長く編んでキズが出るとキズを直したりほどいて編みなおす作業が大変。逆に考えると、キズが発生してもほどけば糸の再利用が可能。

・パーツごとだと編み出し(裾や袖口のリブや袋編みなどになっている部分)が使える。(これが一番の理由だと思います。)編み出しは、ほどける心配がないので仕末する必要がなく、製品のでき上がりもきれいなので、ニット製品の多くは編み出しをそのまま使用しています。

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布帛のようにはめこみで裁断はできませんが、パーツごとに編みデータが作れるので、裁断する際の補助線や印などをつけることができ、量産時の時間短縮につなげることもできます。(この方法は成型でもされています)

また、ポケットや衿周りの比較的小さいパーツは、編地1枚で10着分取れるようにしたり、身頃や袖の空いている部分で裁断したりもします。


・編地の大きさ

編地をどのくらいの大きさで編むかは、おそらくニッターさんによってまちまちだと思います。理想の大きさは、カットロスがもっとも少ない型紙のタテヨコと同じ大きさですが、

S,M,Lなどサイズごとに編みデータを作ると手間がかかるので、極力サイズはまとめたい

一番大きいサイズに合わせるとカットロスが多くなる(=使用する糸の量が増えるので製品単価が高くなるし、廃棄する量も増える)

ニットは乱寸が出る可能性があるので、型紙と同じ大きさにすると型紙が入らないことがある(できあがりの寸法にばらつきが多少出てOKならいいが、寸法重視だと乱寸を見越した多少の余裕が必要)

いくつかのサイズはまとめる(S,Mは同じでLだけ別など)
orサイズごとにデータつくる
or全サイズ同じデータで編む

以上のことを、量産でつくる枚数、サイズ展開数、それぞれのサイズの枚数、裁断や縫製のしやすさ、納期などを考慮しながら編地の大きさを決定します。

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担当者の作業時間や機械の稼働率、糸の発注数などにも関わってくるので、それぞれのバランスを考えて生産性が上がるようにニッターさんは考えている部分です。


- 加工〜アイロン(編地) -


編み立てが終わると、成型の場合はすぐ縫製でしたが、カットの場合は加工がある場合は加工をしてアイロン。加工していなくてもアイロンをかけて目面を整えます。

どうしてアイロンをかけるかというと、編む時ちゃんと編めるように下方向に力を入れて編むので(機械の場合はローラー、手横などの場合は重りなどで)、編み終わりの編地は目が伸びたりぐちゃぐちゃな状態で裁断がしづらいです。加工の場合も、加工してすぐはぐちゃぐちゃな状態であがってきます。

ニットには、アイロンのスチームをかけると一番安定する状態に戻る性質があるので、加工の有無に関わらず、目面がゆがんでいてもきれいな状態に戻ります。また、糸の種類によってはスチームをかけると縮む性質の糸もあるので、アイロンはかけた状態で裁断した方が良いです。

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また、全くないわけではないですが、成型とは反対に製品の形での後加工は基本的にはしません。メリットの面で詳細は書きますが、先に加工して裁断した方ができ上がりの寸法が安定しやすいためです。


- 縫製 -


カットは、成型やホールガーメントと違って編地を裁断するので、裁断した箇所は必ずほつれてこないように仕末しないといけません。ほつれたり目が落ちたりすると、とっても目立ちます。

基本的にはロックミシンで仕末しますが、滑脱しやすい糸が使われる場合は捨てミシンも併せてしますし、前端や袖口などが裁ち切り仕末の場合は捨てミシンだけのこともあります。

また、布帛では見返しなどの縫い合わせて隠れる部分は基本的に仕末しませんが、ニットは伸びやすいので、本縫いミシンをかける際に伸びてしまう分、ロックをかけて縮めてあげます。

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縫製方法は、布帛と同じ本縫いミシンで縫い合わせて、ロックミシンで縫い代を仕末、衿や見返しなどの付属は本縫いでつける場合もありますが、成型と同じようにリンキングでつけることが多いです。

衿などでリンキングミシンを使用する以外は、布帛やカットソーに似た作り方になります。布帛のように縫い代の仕末の方法が多くないので、布帛を扱ったことがある人にとっては作りやすい方法かなと思います。


- アイロン(仕上げ) -


編み終わった後に一度アイロンをかけていますが、もう一度仕上げにアイロンをかけて、きれいに整えて完成です。


ここからはカットで作る場合のメリットとデメリットについて書いていきます。

- カットで作る場合のメリット -


・その①:編地のバリエーションが圧倒的に多い

カットの場合編地を四角形に編むため、形をつくりながら編む成型やホールガーメントに比べて、度目や糸道(キャリア)の数、糸の形状などの自由度が高いです。

編地によって、成型やホールガーメントでつくれなくても、カットだとつくれる場合が多々あります。

個人的には、これがカットで作る上での最大のメリットだと思います。


・その②:作れるかたちの自由度が高い

成型やホールガーメントだと、どうしても編めない角度(例えば肩線の傾斜)や寸法の細かい調整ができなかったりしますが、カットは型紙にあわせて裁断するので、布帛でつくる場合と同じような様々なかたちが作れますし、カーブなどのラインもきれいに出せます。


・その③:編地の多少の乱寸に対応しやすい

ニットを扱う人はみなさん悩む『乱寸』ですが、成型やホールガーメントと比べると、カットが一番対応できるかなと思います。

成型やホールガーメントは、編んだものがそのままでき上がり寸法になってしうので、別の機械で編んだり糸のロットによって状態が変わったりして乱寸が出てしまうと、MサイズがSサイズより小さくなってしまうこともあります。

カットの場合、編地に乱寸が出ていても、型紙が編地に入れば(目立つような柄物は別ですが)基本的には対処できると思います。


・その④:生産にかかる時間が短い

これは成型と比較してになりますが、生産にかかる時間が短く済みます。

編立では、もとになるリピートの柄があれば、基本的にはそれを必要な編地のサイズに編めば良いです。また、裁断しやすいように編みで様々な工夫をする事もできるので、量産などで枚数が多い場合は裁断時間の短縮が望めます。

縫製では、一番かんたんな丸首のプルオーバーでも成型の半分くらいの時間で縫えますし、複雑なアイテムや切り替えが増えるほど、より成型よりも速く縫うことができます。

生産効率を考えると、編み立てでは柄の修正が成型よりもかんたんですし、縫製では枚数が多くなるほどカットの方がより早く縫い終わることができるので、トータルの生産期間は成型よりもカットの方が短く済みます。


- カットで作る場合のデメリット -


・その①:縫い代が広くなる

ロックミシンなどで仕末に必要な縫い代巾が成型に比べると広く、布帛に比べて編地に厚みがある(厚いもので1cmくらいのものもあります)ので、縫い代が成型と比べて目立ち、多少のゴロつきが感じられます。

縫い代巾比較-06

アイテムによって縫い代の見え方が気になる場合、カットでなく成型が選択されることが多いようです。


・その②:カットロスが発生する

成型編でも書きましたが、カシミヤのような糸値が高い糸を使用する時は、カットロス分も製品の単価(下代)に含まれてしまうので、注意が必要です。

また、昨今のアパレル業界の廃棄問題等、製品だけでなく原料などの廃棄は大きな関心を集めています。いくら減らそうとしても、カットの場合どうしても裁断くずは発生してしまうので、その問題とどう向き合うかも大切なことだと思います。


・その③:目立てを入れにくい

カットでも目立てを入れることはできます。

あらかじめでき上がり予定位置に合わせて編地に目立てを入れ、裁断する時に予定した位置に目立てがくるよう型紙を置けば、カットでも目立ての入った製品をつくることができます。

ただ、メリットだった乱寸への対応ができなくなるので、成型と同じように寸法が安定しない可能性があります。なので、カットで目立てを入れる場合は、そのリスク込みで考えないといけないです。


- 終わりに -


カットは、ニットの作り方の中では一番自由度が高い作り方です。布帛を勉強してた人にとっては取っ掛かりにしやすい作り方ですし、編みを勉強し始めた人も、まずは四角く編むことから始めると思うので、そんな人にもカットでの作り方は有効だと思います。

カットのデメリットが少ないにもかかわらず成型が好まれる理由は、おそらくデメリットに書いた縫い代の見え方やゴロつき、カットロス分単価が上がってしまうということが大きい問題なんだと思います。(もしくはニットらしいという理由かもしれませんが)

ただ、作る製品や使用する編地によって、縫い代が目立たなくなったり、縫製面で目立ちにくくすることもできますし、製品単価については製品ごとにロス分の原料代と縫製や編立の工賃を比べてみないと、カットと成型のどちらが安いとは言いにくいと思います。

見た目にこだわるのか、着心地にこだわるのか、製造方法にこだわるのか。どこにこだわりを持つかは各ブランドによるので、作りたいものにあわせて作り方も選択してもらえたらと思います。


今回もお付き合いありがとうございました。
次回#05は『ニット製品のつくり方(ホールガーメント編)』になります!



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