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Vol.10 「自浄作用」が働く組織

前回、風土改革は「心理的安全性の確保」で一点突破、という記事を書きました。
その中で、目指す姿は「自浄作用」が働く組織だと述べました。
これがどういう状態なのかイメージするのは難しいと思うので、今回は「発言」を事例に、取り組みの必要性と、具体的なシーンを書こうと思います。


「発言」の難しさ

風土改革の中には、自由闊達な職場づくりという狙いがあります。
この視点だと、忖度をなくし、壁を取り払い、とにかく何でも会話をすることを求められます。
これは、発言が増える力として働きます。

一方で、ハラスメント対策があります。この観点だと、発言は意図しない取られ方をするリスクがあるので注意しましょう、と教えられます。ダイバーシティも同じです。単に差別というだけでなく、気を遣っているつもりが逆効果になっていることもあり、発言に細心の注意が必要となります。

ところが困ったことに、ハラスメントやダイバーシティは、OK/NGの境界が曖昧です。ケースバイケースで結果が変わります。発言者によって結果が変わります。相手の取り方によって結果が変わります。

誹謗中傷も同じかもしれません。ちょっとキツめの発言でもNGなのか、答えはありません。

なので、発言を無難に抑えておくのが安全、ということになります。
そのため、これらは発言を減らす力として働きます。

お分かりでしょうか。風土改革という1つの活動の中で、発言を増やす力と減らす力の両方が働くのです。
このように、ただただ総花的に取り組むと、実は矛盾した活動になりかねないのです。

では、どちらかを優先できるものでしょうか。
自由闊達にならないと意味がないので、ハラスメントや差別、誹謗中傷はOKとするのでしょうか。そんなことは絶対にできません。
では、やはり細心の注意を払いながら、でも自由に発言するのでしょうか。これも難しいです。こんな状態で風土を健全化できるとは思えません。

となると、これらは両立できないことなのでしょうか。
そうではありません。これを両立するのが、自浄作用が働く組織なのです。

自浄作用が働く組織

言いたいことはこういうことです。
OK/NGの境界がない発言は、その場その場で結果が変わります。なので、気を付けるのは勿論なのですが、意図せず発言してしまっても大丈夫な空気を作るのです。

優先順位としては、自由闊達が上です。
まずはオープンな会話を推奨します。その上で、NGだと思ったら、その場で言える関係、指摘できる関係を社員の間で構築することに集中するのです。短絡的に処罰を解決策にするのは絶対にやってはいけないことです。

ケーススタディ

これは私の職場で実際にあった話です。
ある開発プロジェクトで、テストの被験者を部内チャットで募集したのですが、その後の進捗が良くないように見えていました。
すると、ある社員が「あまり人数が増えていないが、みなさん同じ部のメンバーとしてもっと協力的にならないとけないのでは?」という少し戒めようとする強めのチャット発信をしました。
それに対して、「1日にできる人数が限られているので、これぐらいで妥当なんです」という回答がありました。
この後が問題です。実は以下のようなことが起こったのです。

「チャットという公共の場で、こういう発信はすべきではない。問題児だ。」部門長がそう言ったのです。私はこの耳で聞いたので間違いありません。そしてその後、その発信はチャットから削除されたのです。指示されたのか、自主的かは分かりません。
そして発信した社員は、それが直接の原因ではないと思いますが、それから数か月後に、自ら異動先を探し出して、職場を出ていきました。

実は、この発信を見た時、私はこう思いました。
ちょっとキツイ言い方だけど、他のプロジェクトにも気をかけて、組織のことも考えていてスバラシイ。
同様に感じた人は他にもいたと思います。
後で周りに聞いてみると、「何も思わなかった」という人も多くいました。

そうです。実際にはさまざまな捉え方をされていたのです。
そのぐらいの些細なレベルの話だったのです。
なのにこんなことが起こる、そんな組織はダメだと思いませんか。

例えば以下のような会話(チャット)だとどうでしょうか。
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A「あまり人数が増えていないが、みなさん同じ組織のメンバーとしてもっと協力的にならないとけないのでは?」
B「1日にできる人数が限られているので、これぐらいで妥当なんです。」
A「そうなんですか。わかりました。」
C「Aさん、そんなところにまで気を配ってくれてありがとうございます。でもちょっと言葉がキツイかも。」
A「あ、そうですね。すみません。気をつけます。」
C「でも、そういう姿勢はありがたいので、これからもヨロシクです。」
B「私も、気にかけていただいてありがたかったです。」
D「ほかのテーマのことも考えるなんて素晴らしいと思います。見習いたいです。」
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大事なのは、指摘しつつ、決して次から発信をやめようと思わないようにフォローすることです。
発信や発言のひとつひとつを評価するのではなく、学びの種にするのです。そういう習慣を醸成するのです。

また、これが部門全体が見れるオープンなチャットで行われることも重要です。オープンだと、言う側も言われる側も、少なからず感情的にならないよう抑えます。冷静に会話します。

それでもチャットだと真意が分からない難しさがあり、熱くなってバトルが発生するかもしれません。そういう時はすぐに会話するという習慣も必要でしょう。
それ以上に、チャットの言葉をあまり深刻に捉えず、ちょっと変だと思ったら、それ自体も会話のネタできるような風土を目指したいものです。

まとめ

「自浄作用」のイメージは掴んでいただけたでしょうか。

困ったときに通報できる駆け込み寺は必要だし、容認できない事態に対する罰則も不可欠です。でもそれは最終手段であるべきです。

失言が発生することは避けられません。
でも、その芽を小さいうちに摘み取ることができれば、わざわざ通報する必要もないし、罰則を与える必要もありません。

人の体と同じです。病気は避けられないし、大病になれば病院に行くし、入院するし、手術もします。
でも、人体には自然治癒力があります。少し体調が悪いというぐらいであれば、自力で治します。これが組織における自浄作用です。

体が健康であるほど、治癒力も高まります。
会社組織では、健全なコミュニケーションが成立しているほど、自浄作用が強く働きます。
健全な組織は、もしかしてまずいかも、という初期段階で、周りが気づいて修正することができます。相手に直接言うこともできます。
被害者と加害者になる前に修正できるのです。

こう考えると、「建前」の風土改革ではとても実現できない高みだと分かります。風土改革こそ「本気」の経営課題として取り組んで欲しいですね。


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