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フーコー『知の考古学』を読む①

フーコー『知の考古学』を原書と付き合わせて読んでいきます。フーコーの文章はなかなか読みづらいので、要点を箇条書きにまとめていきます。概要を把握するときなど参考にどうぞ。


フーコー『知の考古学』慎改康之訳、河出文庫、2012年。
Michel Foucault, L'Archéologie du Savoir, GALLIMARD,1969 

序論


数十年前から(1940ぐらい?)歴史家は,長い期間への関心を強めている。
(アナール派の動向)
長い期間をの変化を明らかにする歴史家のもつ分析の道具
・経済成長のモデル
・貿易フローの分析
・人口増減の記録
・気候と変動のついての研究
・社会学的な恒常的特徴の標定(repérage des constantes sociologique)
・技術的調節とその普及,存続についての記述

→歴史の線状の継起に代わって,深層における連結解除の作用(un jeu de décrochage en profondeur)が研究されるようになった。

統治,戦争,飢饉によって切り分けられる歴史の背後に,もっとゆったりとした歴史を見出す。海路の歴史,穀物,金鉱の歴史,などなど

伝統的な歴史学の問い
・様々な出来事の間にどのような結びつきを見出すか
・出来事の間の必然的なつながりとは
・出来事の総体的な意味作用
・一つの全体性を定義できるのか,それとも出来事の連鎖を再構成するだけなのか

近年(1960年代)の新たな動向
・いかなる層(strates)を他から切り離して考えるべきか
・どのようなタイプの系列(série)を設立すべきか
・どのような時代区分の基準を採用するか
・系列同士にどのような関係のシステム(ヒエラルキー,優位,階層,一義的決定,円環的因果性)を描くか。
・どのような系列の系列を描くことができるか
・年代記的に大きな,一覧表(tableau)のなかで,出来事(événemaent)をどう区別するか。

この歴史学の動向と同じ時期に,思想史,科学史,哲学史,思考の歴史などにおいて,断絶の諸現象(phénoménes de rupture)へと関心が移った。

中断によってもたらされる効果を研究する諸研究

・認識論的な行為と閾(Actes et seuils épistemologique)
バシュラール Bachelard,L’Actitive rationalite de la physique contemporaine,1951
認識の進歩,成熟が打ち砕かれる。新たなタイプの合理性と,それがもたらす様々な効果を測定すること

・概念の転位,変換(Déplacement and transformation des concepts)
カンギレム Canguilhem,La Formation du concept de réflexe, 1955

・微視的尺度と巨視的尺度 
études d’histoire et de philosophie des sciences,
『科学史・科学哲学研究』金森修訳,法政大学出版,1991 

概念の歴史は,相次いで登場する使用規則の歴史であり,完成するまでは,様々な理論的な場の歴史である。単純に概念が洗練されたり,合理性が増大したりするだけではない。

・再帰的な再配分
複数の連鎖形態、ヒエラルキー、決定のネットワークなどが、1つの同じ科学のために、科学の現在に変容が生じるのに合わせて出現する。よって歴史的記述は知の現在性によって秩序づけられ、知の変換とともに多様化して、絶えず自分を断ち切る。

・建築術的統一性

・文学分析
分析として扱うべき統一体は、「グループ」「学派」「運動」「世代」などではなく、一つの作品や書物やテクストに固有の構造。


これらの形態の歴史研究が提出しようとしている問いは、いかなる基準において、対象として扱う統一体を他から切り離せば良いかということ。狭義の歴史学は、変化の少ない構造を強調し、出来事を消し去っているようにみえ、一方では、思考、認識、哲学、文学の歴史では、非連続性を探し求めているように見える。


これら双方において提起された問題は同じもの。
ドキュメントの問題化
これまでの歴史学の問いは、1つの目的を持っていた。それらのドキュメントが由来する過去を、それらドキュメントが(ときには仄めかしによって)語っていることから出発して再構成するということである。消えてしまった過去の声の痕跡として、ドキュメントは扱われていた。

歴史学は、ドキュメントを解釈して、ドキュメントが真なることを語っているのか、その表現的価値はいかなるものか、その表現的価値はいかなるものかを決定するだけではない。歴史学の人間学的正当化を見出してきたイメージから歴史学を切り離さなければならない。
ドキュメントの織物の中で、統一性、集合、系列、関係を明らかにしようと努めること

伝統的歴史学が企てていたのは、過去のモニュメントを「記憶化」し、それをドキュメントに変換すること。それ自体として言語的でない痕跡や、密かな仄めかしの痕跡を語らしめること。日付を持った諸々の事実ないし出来事の間の諸関係(因果関係、敵対関係など)を明らかにすること。つまり、所与の系列について、各要素の隣接関係を明確にすることが歴史学に任務であった。
今日の歴史学は、人間のかつての姿を認めようとしていた場所に、無数の要素を繰り広げて、それらを他から切り離したり、グループ化したり、関係付けたり、諸々の集合体として構成したりする。系列を形成することが問題となる。諸要素を定義し、関係のタイプを明るみにだし、その法則を定式化すること。系列の系列、もしくはタブローを構成するために系列の間の関係を記述することが問題となる。

非連続性による帰結
・「包括的歴史」のテーマが消え始め、「一般的歴史」が現れる。
包括的歴史とは、一つの文明の総体的形態や、一つの社会の原理や一つの時期に共通の意味作用や法則を復元すること。
一般的歴史は、系列同士の相関関係や優位関係のシステムはいかなるものかを明らかにし、「系列の系列」「一覧表」を構成すること。


新たな方法論的問題


・ドキュメントの等質的で整合的なコーパスを作ること。
・選択原理を定める(総体を網羅的に扱う、統計的なサンプリング、代表的な諸要素を決定するなど)
・分析のレヴェルとそれに関与する要素を定める(数値上の指示。出来事、制度、実践への参照。用いられた語とそれらの使用規則、それによって描かれる意味論的領野。命題の形式的構造と、それらの命題を合わせる連鎖のタイプ)
・分析方法を種別化すること(量的処理、相関関係を研究すべきいくつかの特徴に基づく分解、解釈的読解、頻度と分布の分析)
・研究材料を分節する集合や部分集合の境界を画定する。(領域、時期、統一的プロセス)
・一つの集合体を特徴づけることを可能とする諸関係を決定する。(数的、論理的関係、機能的、因果的、アナロジー的関係、シニフィアンとシニフィエの関係)

歴史的分析を連続的なものに関する言説に仕立てることと、人間の意識をあらゆる生成及びあらゆる実践の根源的主体に仕立てること、これは同じ思考システムの両面である。フーコーは、このような思考から脱却を図った。


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