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シンギュラリティを超えるための人工意識

この世界に残る大きな謎の代表格といえば、宇宙の誕生、生命の誕生、意識の誕生であろう。どの誕生も興味深いが、この3つのうち、昨今の人工知能のブームを考えると意識についての謎は議論の的であろう。私は「意識」についての謎を3年以上追いかけている。前回の記事からかなり経ってしまったが、さらなる情報を仕入れ、自分の中でまとめたいと思ったので、ここにまとめたいと思う。


今回まとめる本

「意識はどこから生まれるのか」(マーク・ソムーズ著)、「ロボットに心は生まれるか」(谷淳著)の2冊である。それぞれ神経医学者と認知科学者と血筋は違うものの、最終的に行き着く「意識」についての理論には共通点があり、それぞれ人間の意識についての真理に近づいていると思われる本になっている。

意識はどこから生まれてくるのか

この本は、フロイトが1895年に立ち上げた「プロジェクト」に立ち返り、そして意識を人工的に生み出すことができるという立場を示している。そのうえで、この本では大きな意識に関する主張として、以下の4つをあげている。
1.意識は脳幹上部で生成される
2.意識は基本的に感情的なものである
3.意識はホメオタシスが拡大された形のものである
4.自由エネルギー原理

意識研究をみると、クリック以後、意識の神経相関物を発見するように呼びかけ、研究が発展した。しかし哲学的な観点で、デイヴィッド・チャーマーズは、神経相関物(Where)の探究は「イージープロブレム」であり、意識がどのように(How)発生することは説明できない「ハードプロブレム」であると述べた。

1.2.本書では脳の機能ではなく、そのきっかけとなる「感情」に着目している。大脳皮質の機能が意識を伴うのは、脳幹上部の網様体賦活系(もうようたいふかつけい)によってその能力をあたら得られた場合に限るという点に、着目し、感情が意識の基本的な要素であると述べている。そして感情(基本情動)はパンクセップの分類でLUST、SEEKING、RAGE、FEAR、PANIC/GRIEF、CARE、PLAYの7種類に分類できることが述べられている。

3.感情が欲求を快楽的に評価し、ホメオタシス(自己組織化によって自然に生まれた生物学の基本メカニズム)的な定常点からの逸脱が大きくなると不快、小さいと快と感じることから、感情は拡大されたホメオタシスであると述べている。またこの「逸脱」という概念が自由エネルギー原理でいう「予測誤差」に対応している。

4.欲求は一度にすべて感じることができず、中脳による優先づけがなされる。「現在の欲求」が、「現在の機会」との関係でランクづけされ、動作が実行される。

この欲求の優先づけは次のようなプロセスで行われる。
Qη:内部状態(システムの内部状態によってモデル化された外部状態)
Q:外部状態
φ:感覚状態
M:能動状態
ψ:予測
ω:精度
e=φ(M)-ψ(Qη):予測誤差
F=1/2(e•ω•e-log(ω)):自由エネルギー
と定義。

その上で、
(1)感覚Φを予測ψと一致するために動作Mがなされる(変化する)
(2)よりよい予測(ψ)を生み出すために、Qηへ感覚が働きかける(これが知覚φ(M)になる)
(3)予測と知覚の差として、予測誤差(e=φ(M)-ψ(Qη))に最適に一致する様に精度ωを調整する

図に関しては独自に整理

この(1)〜(3)はそれぞれ方程式が対応している。そして、この(3)こそが意識であると述べられている。特に(3)は、意識が動作と知覚のモデル更新にどう貢献しているかを定量化したものである。

3つはそれぞれの方程式に対応している。動作・知覚・精度の変動は自由エネルギー原理の変分で整理されている。

https://discovery.ucl.ac.uk/id/eprint/10057681/1/Friston_Paper.pdf

ロボットに心は生まれるか

先ほどの本とはかなり共通点があり、先ほどは脳科学に準拠した自由エネルギー理論の方程式として意識を整理したが、こちらの本ではより実践的にそれを工学的、構成論的に論じられている。

1.概観、2.認知モデル、3.哲学(フッサール、メルロ=ポンティ、ハイデガー、ジェイムズ)、4.脳科学を参照。
その後5.力学系や、身体化した認知のモデル化におけるダイナミックアプローチを紹介。特にブライテンベルグの移動体モデルやルンバを開発したブルックスの包括アーキテクチャの説明がされている。各種の目標指向タスクが、脳内の神経系身体=環境力学との間の感覚運動カップリングを自己組織化することで実現できることが示される。特に5章の内容は、池上氏の「動きが生命をつくる」にも紹介されていた。

そして新しい提案として次のようなものが提案されている。

  • 脳で起きている非線形神経ダイナミクスがカオスとして状態軌跡を生成

  • そのポアンカレ断面が下位ダイナミクスへとして、視覚・体性感覚状態を予測

  • 実際の結果と照らし合わされて、その予測誤差が計算される。

  • そして逆伝播として誤差信号が最小化する方向する方向として修正される

またこの対応関係を主観的な心と、客観世界に絡めると次のように整理される。

本から図を抜粋、一部改変

意図から予測されたものと感覚が混ざり合う空間(左)が、相互作用して、知覚と行動をもたらす(中央)。それにより客観世界は改変され、相互作用して心も改変される(右)。

このモデルを様々な実際のロボットを使って、実験・観察している。その観察により記号や概念、言語的思考における高次認知が生まれることや、自己意識、自由意志についても論じられている。

まとめ

マーク・ソムーズの本では意欲的に人工意識に対する展望が書かれていた。改めて人工知能の発展系として人工意識が作られない事を実感した。 感情を擬人的にモデル化し、その感情の取捨選択として意識が作られるはずで、根本から作り方が違う。ロボット工学や身体性が意識と結びつくのは環境の変化にそって、感情や意思決定がなされるモデルが多いのでそのためだと思った。

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