1,000万円でもここまで違う!会社員 vs. 個人事業主『保険料負担』徹底比較
はじめに
これから独立を検討しているサラリーマンの方々にとって、「収入が同じなら、会社員時代と独立後でどれほどお金の流れが変わるのか」という点は非常に気になるところでしょう。
なかでも、社会保険料や国民健康保険料といった「見えにくいコスト」は、事前にしっかり把握しておくことが重要です。
将来の選択肢として個人事業主化(フリーランス化)を検討する際、その判断材料のひとつとして、保険料負担のシミュレーションは欠かせません。
本記事では、年収1,000万円クラス(30代男性・妻子あり・都内在住・ボーナスなし)という具体的なケースを例に、会社員時代と個人事業主となった場合の保険料負担を比較してみます。
この記事を読むことで、「独立後にどのくらい負担が軽減(あるいは増加)するのか」や、その背景となる制度の違いを理解でき、独立に向けた計画づくりの一助となるでしょう。
会社員時代の社会保険料負担のイメージ
まず、会社員として年収1,000万円(ボーナスなし)で働いている場合を想定します。
このケースでは、月給がおよそ83万円強となり、社会保険の標準報酬月額は高い等級になります。
会社員の場合、主な負担として以下が挙げられます。
厚生年金保険料
健康保険料(協会けんぽや組合健保)
雇用保険料
ここで重要なのは、厚生年金と健康保険については、会社と折半で支払っている点です。実際にはもっと大きな額を会社と折半しているため、個人の目に見える負担が抑えられています。
具体例として、30代男性、配偶者は専業主婦、3歳児がいる世帯、都内勤務とします。介護保険料は40歳以上からなので今回は対象外です。
厚生年金(個人負担):約91万円/年(標準報酬月額が高額なため)
健康保険(個人負担):約50万円/年(協会けんぽ想定)
雇用保険(個人負担):約6万円/年
これらを合計すると、1年間で約147万円もの保険関連負担が個人側にのしかかります。
とはいえこの背景には会社側の負担も同程度あることをお忘れなく。将来の年金給付や手厚い保障が見込める分、一定のコストを負担しているわけです。
個人事業主になった場合の負担感
次に、独立して個人事業主(フリーランス)となり、同じく1,000万円の事業所得(税引前利益)を稼いだ場合を考えます。
この場合、社会保険関連の選択肢は以下に変わります。
国民健康保険(国保)
国民年金
国民健康保険は自治体ごとの算定で、前年の所得を基準に保険料が決まります。高所得の場合、ほぼ最大限度額に達します。
東京都内であれば、国民健康保険料は上限が約90~100万円程度が一般的です。
加えて、国民年金は所得に関係なくほぼ定額で、年間約20万円強程度となります。
結果的には、
国民健康保険:上限付近で約100万円/年
国民年金:約20万円/年
合計約120万円/年となります。
つまり、会社員時代に約147万円ほどだった負担が、個人事業主になると約120万円程度まで下がる可能性があるわけです。
この差はおおむね20~30万円程度となります。
負担軽減だけで判断してよいか?
ここで大事なのは、単純な「今支払う保険料の差」だけで独立の判断をしないことです。
確かに、独立すると見かけ上は社会保険料の負担が下がるケースが多いかもしれません。
しかし、その裏には以下のような要素も存在します。
年金の受給額差:
厚生年金は、将来的な受給額が国民年金よりもはるかに手厚くなります。会社員時代の高額な厚生年金保険料は、将来の老後資金に直接反映される投資のようなものです。国民年金のみの場合は月あたりの受給額が大幅に減るため、老後設計には別途資産形成が不可欠となります。会社負担分の消失:
会社員時代は、実質的に会社が個人と同額の社会保険料を負担してくれていました。独立後は当然ながらその「見えない恩恵」はなくなり、全額自己負担または国民健康保険・年金の定額構造になるため、長期的なトータルコストは別の観点で増減します。保障内容の違い:
健康保険組合による各種給付(出産手当金や傷病手当金など)が利用できなくなる点も要注意です。国民健康保険にはこうした手当が少なく、民間保険で補う必要が生じるかもしれません。
これらを踏まえると、「独立すると保険料が下がってお得!」と一概には言えません。
むしろ、将来の受給や保障を自力で補完する必要があり、そのための資金積立や民間保険の加入で総合的なコストが変わる可能性もあります。
独立前に押さえておくべきポイント
独立前には、以下の点を押さえて自分なりにシミュレーションしておくとよいでしょう。
将来の年金受給見通し:
厚生年金加入期間が長いほど、将来の年金は豊かになります。独立後は国民年金のみとなるため、その差をどう埋めるかを検討しましょう。生命保険・医療保険の再検討:
会社員時代は手当てがあった分、独立後は民間保険での備えが必要となるケースがあります。医療費負担や休業補償をどう確保するか、保険商品を見直すタイミングです。税制・経費計上戦略:
独立後は、売上と経費を自分でコントロールできるので、節税策によって実質負担を抑えることが可能です。社会保険料自体は経費計上できませんが、ほかの経費を適正に計上することで手取りを増やす道があります。
まとめ
会社員から独立を考える際、年収1,000万円程度の場合でも、保険料の負担が20~30万円ほど軽減されるケースはあり得ます。
しかし、その「差額」だけを見て判断するのは危険です。
将来の年金水準、家族を含めた医療・生活保障、自力での資産形成コストなど、長い目で見たライフプラン全体の中で考える必要があります。
本記事が、独立を考えるサラリーマンの皆さんにとって、保険料負担の面から意思決定の一助となれば幸いです。
執筆者紹介
シード期のスタートアップに特化した会計士・税理士。資本政策と財務戦略の最適化を通じて、スタートアップの成長加速を支援。創業期特有の課題に寄り添い、適切な資金調達と持続可能な成長を実現するための伴走型アドバイザーとして活動。
実務に即した会計・税務・資金調達の知見を発信しながら、スタートアップエコシステムの発展に貢献できるよう日々奮闘している。
Twitter: @kandmybike
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