ありがとう那須川天心

那須川天心選手のキックボクシング引退試合とういうことで、東京ドームに行って観戦した。

天心と武尊。ファンの間では誰もが待ち望んだ試合で、6年以上もどっちが最強なのかと議論されてきた。この試合は、どっちが強いかの長い論争が終わる、大げさに言うと時代の節目でもある試合だった。だから、何が何でも見たかった。そんな中、運良くチケットが当たって見に行くことができた。こういう運の強さには自信がある。

東京ドームの僕の席からは天心選手が米粒みたいに小さくて、リングなんてほとんど見えなかった。でも、そんなのはどうでも良かった。あの雰囲気を味わえただけで最高だった。

天心選手は天才だ。キックボクシングに那須川天心というジャンルを作ったと思わせるぐらいに天才だ。今までに「ついに天心に強敵あらわる」と言われた人たちに対して、圧倒的に勝ち続けた。強すぎて勝ちが当然。対戦相手を探すのも難しい。勝っても勝ち方が悪いと称賛されないこともある。まさに孤高の天才格闘家である。

そんな姿に僕は憧れてきた。僕みたいな凡人には、恵まれない環境から成り上がったストーリーのほうが共感しやすいし、感情移入もできる。でも、天才と呼ばれた選手だって、僕には想像さえできない苦しみやストーリーがあると思う。とんでもないプレッシャー、見失いがちな目標、モチベーション低下。それを乗り越えて常に勝ち続けた姿に僕は憧れた。自分の知らない世界の住人。天心はビッグマウスで口下手なとこもあるけど、何があっても結果を残し続けた。

試合が始まったら心臓はずっとバクバク。手に汗を握って大型モニターとリングを交互に見ていた。3Rの試合はあっという間に終わった。相手の良さを消してスピードで相手を翻弄するいつもの試合運びで、天心の完勝。殴り合いに乗らず、打たせずに打つスタイル。これが天心のスタイル。それが存分に出た試合だった。会場中から歓声が止まなかった。僕も試合が終わったら「ありがとう」って声を出してた。キックボクシングの引退試合で本当に良いものを見させてもらった。彼は最高のエンターテイナーだ。ありがとう天心。

こんなに熱狂したのはいつぶりだろうか?
最近、メインストリームでに物事を楽しめない、感動することが減った自分が悲しかった。映画を見ても、伏線がどうなんだろう、画の構図が良いね、とかを考えちゃって、純粋に楽しめない。ジブリ映画を初めて見た時の、何とも言えないあの感じに戻りたい自分がいた。

そんな僕だけど、この試合は我を忘れて熱中できた。勝つか負けるかで人生が大きく変わる。負けたら何も残らない残酷な世界。そんな男たちの生き様を見ることができた。ベタだけど、筋書きのないドラマほど面白いものはない。久しぶりに感情が揺れ動く経験ができて、久しぶりに本気で楽しめた。まだまだ純粋に感動できる自分が自分の中に居て、すごい嬉しかった。でもこんなレベルの出来事なんて、滅多にないよね。

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