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矢沢永吉ディスクレビュー パート6 東芝EMI編 (2)

 ハードボイルド、大人の色気、湿度の高いアルバムをリリースし続けた、東芝EMI期90年代前半から50歳を迎えどの様に日本でロックを新しい技術を伴ってクリエイトし、若いロックミュージシャン、リスナーを巻き込み、クラブサウンドやHR/HMへのアプローチなど大きく舵を取り続けるアルバムをリリースし続けた、97年〜2007年の10年間、東芝EMI編後半の永ちゃんのディスクレビューを2回に分けて掲載したいと思います。

東芝EMI編 (2)

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YES 1997年8月8日
1.だから、抱いてくれ
2.China Girl
3.しなやかな獣たち
4.Still
5.DANCIN' CRAZY
6.こんなにも
7.心の言葉
8.ピリオド
9.想いがあふれたら
10.Monkey Game
11.Moon Light Song

 公開レコーディングの前作から1年ぶりの「YES」は、ジョージ・マクファーレンとの共同プロデュースでロンドンでのセッションが中心だがBOWWOWの山本恭司、今剛、元レベッカ、POW!の小田原豊などの日本人ミュージシャン、LAのミュージシャンを起用し、永ちゃん自身がCubaseで製作したトラックに肉付けしていく作品となっています。モダンR&Bスタイルながらハードロック的なギターサウンドを持つミドルテンポの「だから、抱いてくれ」、ムーディなサックスのイントロが印象的な「China Girl」もギターサウンドこそ歪んでいますが、コーラスの感触やサビでもメロウさリズムは、97年的なR&Bのリズムを持っています。

 ギターリフが心地良い「しなやかな獣たち」ではアップテンポながらもタイトなドラム、反復するギターリフ、シンセサイザーのフレーズの組み立てによるサウンドが「東京ナイト」の時期を思い起こさせます。シングルカットの「Still」は、「もうひとりの俺」路線ののロックバラードですがよりエレクトロタッチのであり、歪んだファンキーなギターを聴けます。地味ながらリズムギターとなっているアコースティックギターのサウンドが非常に爽やかに聴こえます。

 このアルバムが非常にブラックミュージック的なフィーリングが強いと思うのですが、冒頭の2曲とこの曲「DANCIN' CRAZY」の印象でしょう。ゴスペルライクなコーラスとバックビート、後ろに引っぱるタメの効いたドラムのグルーヴがこの曲をリードし、ジワジワと迫る永ちゃんのボーカルも非常にグルーヴィーです。続く「こんなにも」でも跳ねたグルーヴのナンバーで、コンプレッサーの効いたリズムギターが完全にソウルミュージック的なサウンドです。「心の言葉」もゴスペルライクなコーラスが印象的で、ゴムまりのようなサウンドのベースがグルーヴを作りサックスのリードも非常にスウィートソウル的に迫ります。

 このアルバム最初のブギーナンバー「ピリオド」では、80年代後半のストーンズ的なノリを持った曲で、コーラスのメロディなどはプリティ・シングスの60年代のナンバーを思い起こさせます。間奏でのテンションコードを使ったリズムギターなんかは地味にファンキーで気が効きまくりです。スローブルースなイントロからシンセサイザーが煌びやかなシャッフルナンバー「想いがあふれたら」でもゴスペルコーラスが出てきますが、ビートルズ経由のエモーショナルなソウルバラードと矢沢永吉1997年アウトプットという気分で非常に染みる曲になっています。

 辛辣な歌詞を盛り上げるような攻撃的なサウンドでメタリックなギターが印象的な「Monkey Game」、そしてアルバム最後はリズムマシーンに導かれる幻想的なバラード「Moon Light Song」です。久々のオリエンタルなサウンドメイクが子守唄の様に響きます。


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LOTTA GOOD TIME 1999年8月6日
1.Oh! ラヴシック
2.風の中のおまえ
3.THE STRANGE WORLD
4.フォーチュン・テイラー
5.ヘヴンリー・クルーズ
6.ロックンロール・バイブル
7.寂しくてたまらない
8.バーチャル・リアリティー・ドール
9.永遠のひとかけら
10.金ピカのドレス
11.I have no reason.

 過去の作品を今のサウンドで再現したいと制作したセルフカバーアルバム「SUBWAY EXPRESS」を挟んでリリースされ50歳を迎える年にリリースされた「LOTTA GOOD TIME」。久しぶりのジョン・マクフィー、ガイ・アリソンとの共同プロデュースで、LAとNYでレコーディングされております。大人の余裕のあるAORないしモダンなR&Bテイストから一転、シンプルなR&Rへの回帰を感じ、肩の力の抜けたアルバムの印象です。また、ザ・コレクターズの加藤ひさしが作詞で初登場かつ全曲の作詞を担当。作詞スタイルの変化が古くからのファンから賛否両論あるが、常にフレッシュな作品をリリースしたい永ちゃんのフィーリングと加藤ひさしの青春期を強く感じるリリックが合致し新しいフェイズへの移行期のアルバムの様に聴こえます。

 ルーズにリズミックなギターカッティングとホンキートンクピアノが心地よい「Oh! ラヴシック」では70年代のFacesの様なR&Rスタイルで、アダルトな永ちゃんからフレッシュな永ちゃんをアピールするにはバッチリなトラックです。70年代キャロル時代リアルタイムではこういったR&Rをプレーしていなかった永ちゃんがここでスワンプなスライドギターやホンキートンクピアノなサウンドをプロデュースするのが過去との決別を印象付けます。続く「風の中のおまえ」でも60年代や70年代初期のロック的なテイストを持った疾走感たっぷりの曲でカントリーロック的な匂いもナイスです。

 ロウファイなR&Bテイストの「THE STRANGE WORLD」ではシンセサイザーやゲートリバーブのドラムサウンドも聴こえるもスライドギターがサイケデリックブルース的に響きSFな歌詞を盛り上げます。ヒリヒリとした雰囲気をもったアコースティックギターが印象的な「フォーチュン・テイラー」、続くファンキーなシェイクナンバー「ヘヴンリー・クルーズ 」はR&Bテイストながらギターを中心のアンサンブルと12弦ギターのサイケデリックなリフが無国籍感を演出しています。
 
 この後にも続くアルバムにおける一番最高のロックチューンがこの「ロックンロール・バイブル」です。噛みつく様なメロディラインとシャウト、矢沢永吉の生み出すものがロック&ロールと証明できる曲です。ワウペダルの入力をインとアウトを逆さにつないだ時に出るカモメの鳴き声の様なサウンドが聴こえたり、ワウカッティング、複雑なイントロのギターのアルペジオなど演奏面の聴き処も多く、ただの8ビートロックでは終わらない曲となっています。

 サイケデリックでメロウな空気感を持ったイントロが今までの曲にないハードブギーの「寂しくてたまらない」、Aメロこそハードブギーですが、Bメロの泣きでの楽器の弾かない具合が素晴らしいです。ハープによるソロも現代版ヤードバーズという感じで素晴らしいです。ドラムマシンのビートがリードする「バーチャル・リアリティー・ドール」、ブラックミュージック的なコーラス、ファンキーかつハードなギターリフなど、スティーヴィー・ワンダーの迷信をジェフ・ベックとは別の角度からハードロックアプローチにした様なグルーヴを持っています。ホーンの使い方もモダンR&B的です。

 「バーチャル・リアリティー・ドール」で激しく踊った後は、幻想的なスローナンバー「永遠のひとかけら」が最高のチルアウトになります。後半へジワジワと盛り上がりゴスペルライクなコーラスもリッチなアレンジで素晴らしいです。「金ピカのドレス」では再び70's R&Rが登場、ルーズなリズムギターが心地よくグルーヴし、ドラムのリズムもR&Bフィーリングたっぷりです。

 アルバム最後は、自身が主演した映画「お受験」のエンディングテーマにもなった「I have no reason.」です。永ちゃんならではの切ないグッドメロディがノリの良いギターに絡まり映画のエンディングに相応しいフィナーレ感を演出しています。


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STOP YOUR STEP 2000年9月27日
1.THE TRUTH
2.リナ
3.ラヴ・ファイター
4.Brother!
5.向日葵
6.愛のいたみ〜LOVE HURTS〜
7.ハートなんてクソくらえ
8.パナマに口紅
9.#9おまえに
10.ロンサムシティ

 ジョージ・マクファーレンとの共同プロデュースの「STOP YOUR STEP」では前作のR&R回帰から一転、LAのミュージシャンのみを起用し、クラブミュージックへのアプローチの多いアルバムとなり、更にある種「顧客」となった従来のファンへの挑戦と切り離しを感じるアルバムとなった印象ですし、ステージでマイクスタンドを振り回し汗だくに歌う矢沢永吉を非常に想像しづらいアルバムとなっています。
冒頭「THE TRUTH」からヒップホップ的なトラックメイクとなり、力強いマシンビート、サンプリング的なホーンアレンジ、ワウギターなどブラックミュージックの影響と切り離せないナンバーです。まるでマイルス・デイヴィスの遺作「Doo-Bop」をリマインドせずには入られません。ハウスナンバーの「リナ」での疾走感と陶酔感あるグルーヴ、エレキギターのソロでのハモリなど泣かせかつ躍らせる曲です。

 ハードロック的な「ラヴ・ファイター」ですが、グルーヴやビートが完全にレッド・ツェッペリン的な癖とスケールを持っています。レッド・ツェッペリンがダンスグルーヴを持つハードロックバンドでストーン・ローゼスのようなダンサブルでフロア向けのロックバンドがそのフィーリングを受け継いでいた事を考えると、ハウスナンバーの「リナ」とハードロックな「ラヴ・ファイター」の間に断絶が無いことが理解できます。アウトロで打ち込みのドラムがフェイドインしてくるあたりもダンスグルーヴ理解があるなと思います。更に次の曲「Brother!」でハードロックのダンスアプローチが続きます。ジョン・ライドンがPublic Image Ltdの「Album」でやろうとしていたハードロックサウンドとダンスグルーヴをよりポップス的に矢沢節で披露したのがこの曲では無いかと推測しています。もちろん永ちゃんがどこまで意識しているかはわかりませんが、2000年にこういった試みをしている事が遅いと捉えるか、再考察かは聴く人の印象やリアルタイム感もあると思いますが、ひとまずここでは非常に意欲的なと感じます。

 ヘヴィーな2曲が続き、ここでアコースティックな「向日葵」が爽やかに響きますが、ビートはあくまでもロック的でアコースティックギターもカラッと乾いたフォークロックチューンです。また久々に作詞にちあき哲也が登場しています。ハウスナンバーの「愛のいたみ〜LOVE HURTS〜」ではTR-808が産むマシーングルーヴとシンセサイザーアレンジが完全にフロア向けなトラックとなっており、言葉数の少ない譜割のメロディもクールに響きます。ザラついたようなR&Rナンバー「ハートなんてクソくらえ」でのダークな空気感はゴス期のダムドを思わせ、デジタルサウンドとハードロックが融合した「パナマに口紅」はR&Bのグルーヴを持ったノリの良いトラックとなっています。スライドギターのソロも非常に不良感があって素晴らしいです。

 バラードナンバー「#9おまえに」は肌触りこそ従来のピアノバラードの延長ですが、ギターサウンドはよりロウファイ響きます。アルバム最後の「ロンサムシティ」ではR&Bグルーヴとニューウェーブ的なギターサウンドがファンキーに響き、コーラスもブラックミュージック的なアプローチとなっておりメロウな曲でもグルーヴへのウインクを忘れません。

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ちなみにアルバムの中のフォトの女性はアンミカさんです。


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YOU,TOO COOL 2001年9月27日
1.雨に打たれて
2.New Century Boy
3.フリーダムライダー
4.背中ごしのI LOVE YOU
5.パセオラの風が
6.Little darling
7.金曜日のフリーズ・ムーン
8.ミッドナイトファイティングボーイ
9.ピ・ア・ス
10.Please, Please, Please

 前作に引き続きジョージ・マクファーレンとの共同プロデュースでアメリカでの録音となった「YOU,TOO COOL」、クラブミュージック、ハウス的なアプローチは抑えられ、「LOTTA GOOD TIME」でのシンプルなR&Rテイストをより押し出しハードロック的に迫った印象のあるアルバムです。「雨に打たれて」でパワフルに幕を開けます、前作では聴けなかった手数の多いギターソロなど、HR/HM的なアプローチが痺れます。跳ねたビート感を持つ「New Century Boy」での二本のギターの絡みなど非常に心地の良い演奏です。さらにハードロックナンバーは続きます。シンプルなハードロックサウンドと永ちゃんの声そのものの音圧が力強い「フリーダムライダー」でのスタジアムロック感、ギターリフと随所に存在感を出すハモンドオルガンが大変熱いトラックとなっています。

 静かなイントロから、永ちゃんならではの泣きのメロディとパワフルなビート、ルーズなギターが心地の良いR&R「背中ごしのI LOVE YOU」は正当なストーンズスタイルのR&Rですが、永ちゃんの歌心を堪能できます。アコースティックギターが引っ張るバラード「パセオラの風が」でチルアウトし、続く「Little darling」ではTR-808のマシーンビートとガットギターが軽やかなサウンドアプローチで永ちゃんのソングライター的な側面を強くアピールします。

 マシーンビートとハードなギターがファンキーな「金曜日のフリーズ・ムーン」における16ビート感覚もクラブミュージック通過したグルーヴとなっていますし、永ちゃんのメロディがより歌謡曲的というか日本的な情緒を持っていますがストーン・ローゼスやザ・ミュージックのグルーヴと同じ目線を感じます。リフこそレッド・ツェッペリンを思わせるも軽快なビートナンバー「ミッドナイトファイティングボーイ」でのカントリーロック感もアルバムの中での息抜き的に響きます。久しぶりに水っぽい曲調となった「ピ・ア・ス」ですが、サウンドはよりゴリゴリにベースの音も大きく、ギターの歪みも綺麗すぎないミドルテンポのロックナンバーです。
アルバム最後「Please, Please, Please」では、レコードスクラッチも登場し、ループっぽいビートなどヒップホップも匂わせながらもあくまで要素としてだけで尖ったバラードを聴かせてくれます。


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横顔 2004年9月1日
1.パッシングライト
2.年甲斐ない 関係ない 限界なんてない
3.Oh Yeah
4.灯台
5.Shake Shake Shake
6.ロックンロールドラッグ
7.答えの扉
8.メイク
9.ドクター!ドクター!
10.街路樹
11.時計をはずして
12.パッシングライト

 前作から3年ぶりのアルバムは、引き続きジョージ・マクファーレンとの共同プロデュースでLAでのセッションを中心に東京と二拠点で製作された。前作のHR/HM的なサウンドメイクは抑えられ、落ち着いた大人のロックアルバムという非常に渋い作品となった。筆者個人的にリアルタイムで聴いたアルバムで、この年に永ちゃんのライブも体験し印象に残る時期です。

 打ち込みのビートとシンセサイザーのバックトラックに導き彼艶っぽくクルーナーで歌うミドルテンポの「パッシングライト」では、ドラムが入ってくる瞬間のグルーヴと琴の音がオリエンタルに響き歌そのものをじっくり聴かせ、スウィートなエレキギターのソロも染みます。ファンキーロック「年甲斐ない 関係ない 限界なんてない」でのトリッキーなダブルトラックのボーカルアレンジが面白く、R&Bなグルーヴも心地よいです。ハッピーなポップチューン「Oh Yeah」ではチェンバロとピアノが響きが60年代のソフトサイケデリックサウンドて的に構成され、優しく歌う永ちゃんの声が素晴らしいです。また作詞は加藤ひさしですがこのアルバムの翌年2005年に自身のバンド、ザ・コレクターズの「夜明けと未来と未来のカタチ」に収録されている「恋することのすべて」と同じテーマの作詞となっており、個人的にはこの二曲に兄弟性を感じています。

 アコースティックナンバー「灯台」でフォークギターとパーカッションとバックグラウンド的に入ったシンセサイザーで幻想的な空気感を堪能し、ミドルテンポのキャッチーなハードロック「Shake Shake Shake」でシンセサイザーと歪んだギターの絡みに身体を委ね、ホンキートンクピアノと2:35という短さが潔いシンプルなR&R「ロックンロールドラッグ」でこのアルバム最初のハイライトを迎えます。間奏のワウギターも熱くさせ、ロックンロールが薬のようにクラクラと直撃してきます。

 スイートソウルな「答えの扉」、水っぽい「メイク」は「HEART」収録の「東京」的なアダルトな歌謡曲的なナンバーで、ファンキーに単音でバッキングするギター、グルーヴを繋ぐ印象的なベースのフレージングが聴きどころです。ミドルテンポの「ドクター!ドクター!」では、ハードなギターがダークに迫り、スローバラード「街路樹」では「灯台」よりも更にディープなバラードで、こちらではクリーンのエレキギターを中心にリズム、パーカッションの使い方に面白さを感じます。

 再び優しい雰囲気のナンバー「時計をはずして」はフォーキーなフィールを持ちつつコンプレッサーの聴いたクリーンなエレキギターのサウンドがファンキーに響きます。最後は再び「パッシングライト」がリプライズ的に登場し一説を歌いフェイドアウトしアルバムのエンディングとなります。


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ONLY ONE 2005年9月14日
1.ONLY ONE
2.白い影
3.パンチドランカー
4.トワイライトにひとり
5.欲望の嵐
6.Sweet Winter
7.居場所
8.真昼
9.Be somebody
10.GO FOR IT!(やっちまえ!)
11.面影

  ソロデビュー30周年を迎え、ジョージ・マクファーレンとの共同プロデュースで永ちゃんのOdenスタジオで製作されたアルバムです。LAのミュージシャンも参加していますが、「YES」以来の山本恭司、アメリカでスタジオミュージシャンとして活躍するトシ・ヤナギ、 オルケスタ・デ・ラ・ルス、ペペ・トルメント・アスカラールの大儀見元が参加し、よりバンドサウンドのイメージの強いサウンドプロダクションになっており、アルバムリリース後にライブハウスツアーを行ったように、今までのスタジアムクラスを思わせるプロダクションよりも、ライブハウス的な荒々しさを目指したプロデューシングになっています。又、作詞では東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦が初登場しております。このアルバムとマキシシングル「夏の終わり」で東芝EMIを離れ自身のレコードレーベル、GARURUを立ち上げますが、GARURUでの贅肉を削ぎ落としたサウンドへの序章がこのアルバムに収録されている印象です。

 アルバム一曲目は極端に少ないコード数で展開するミドルテンポのロックナンバー「Only One」で幕を開けます。シンプルなアンサンブルアレンジ、ハイゲインだが繊細なギターサウンド、ワイルドなボーカル無駄なことは一切ないロックに痺れます。個人的に大好きなナンバー。続く「白い影」は、アコースティックな手触りもビートがしっかりとあるフォークロックで、泣きのメロディですが、しみったれた感じはありません。しっとりとした「白い影」のを振り払うかのように始まるアップテンポの「パンチドランカー」でもシンセサイザーのリフが太く響くものの4ピースのロックバンドのライブ感のあるサウンドが繰り広げられます。

 バラードの「トワイライトにひとり」でのメリハリのあるアレンジメント、ドラムが入ってくる瞬間と歪んだギターの入りなど、普通のバラードでは終わらせません。シンセサイザーブギー「欲望の嵐」ではヘヴィなサウンドが印象的ですが、感想のワウギターやビート感などヘヴィメタルにならない寸前の渋さがたまりません。泣かせの効いたアコースティックナンバー「Sweet Winter」は、ピアノと音数を抑えたアコースティックギター、切々と歌う永ちゃんのボーカルが非常に素晴らしく温もりのあるウインターソングです。「Last Christmas Eve」の21世紀版でしょう。

80年代のLA時代を思い起こさせるAOR「居場所」でもより地に足がついた演奏で現実を歌います。80年代当時よりもナチュラルなサウンドでギターのオーバードライブも優しく歪み、爽快感あふれるチューンです。サックスのゴージャス感も素敵です。続く「真昼」も80年代後半をリマインドするナンバーですが、シンセサイザーやベースとドラムのサウンドはよりナチュラルで地味に主張するギターも単音でファンキーなフレーズを奏でます。非常に都会的な空気感のあるこの手の曲を久しぶりに聴くことができます。

 イントロのスライドギター、軽快なビートがハッピーなR&Bナンバー「Be somebody」、ミドルテンポのR&R「GO FOR IT!(やっちまえ!)」の二曲は正にロックバンドサウンドと永ちゃんのボーカルが堪能できます。アルバムラストを飾るノスタルジックな「面影」でもあくまでバンドサウンドで大げさでは無い、ピアノでのコード感リズムが心地よく響きます。


 以上、矢沢永吉ディスクレビューパート6 東芝EMI編(2)でございました。自身がコンピューターでプログラミングしたトラックからアルバムを製作したり、クラブミュージックへのアピール、シンプルによりメロウに曲を聴かせるアルバムなど、50を超えたミュージシャンにありがちな自分が自分をリメイクするようなアルバム製作はせず、常に新しいサウンド、グルーヴ、コンセプトへ挑戦し矢沢永吉というブランドのロックを製作してきた東芝EMI編後半。キャロルのセルフカバー「夏の終わり」をシングルリリースし東芝EMI契約を終了、自身のレーベルGARURU RECORDSを立ち上げインディペンデントで、アルバムリリースを続けます。「Only One」で聴けるシンプルなロックバンドのサウンドからより贅肉を削ぎ落としR&Rを作り続け、新たな黄金期を迎えたGARURU RECORDS期、次回は2009年から現在の最新作までのアルバムをレビューしたいと思います。

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