見出し画像

精霊流し

この猛暑だと、カメラを持ってぶらりと出かける気になれない。
毎朝、熱中症情報は危険と伝え、外出は控え運動はできるだけ中止・・・とスマートフォンに上がってくる。
毎年気温が上がってるように感じるのは錯覚では無いようで、今年はとうとうエアコンの室外機が壊れて、死にそうになった。
なんでも古いエアコンの室外機は35度以上の気温には対応してない、とか。
予定外の出費に泣かされたけど、新しいエアコンになったら冷えるし電気代も安くなったので、なんとなく諦めがついた。
 
夏と言えば、夏休み。
お盆休みで帰省したり旅行に出る人は多く、かく言う私もお盆休みで帰省する人を避けてちょっと早めに旅行したのだけど、そんな時には「記憶の鍵」としての記録撮影をしたくなるワケだ。
 
旅先で見る風景は「見慣れていない風景」なので、全てが新鮮に見えて面白い。
自宅周辺の風景は自分の生活が透けて見えるので、どこかで隠したいとさえ思うほどの日常的な匂いがする。それでも、面白いと思えるモチーフを見つけるのが大切だけど、それはもう苦行に近いと感じているので、どこかで練習のための行動になっている。

EOS R5 RF70-200mm F2.8L IS USM
ISO6400 f/4 1/100s 172mm

去年、長崎の「精霊流し」を撮影をした。
 
旅先の地で1年のうちでその日しか行わない「伝統行事」を撮るのは、まさに非日常の最たるもの。
「精霊船」を仕立て、親類縁者と故人に縁のある人、さらには応援のため呼ばれた人が決められたコースを曳いて歩く。
「精霊船」は信号も優先的に通され、ゴールとなる「流し場」まで練り歩くが、追悼行事であるため「精霊船」を曳くメンバー以外はコースの中には入れず、揃いの法被やTシャツなどを纏って一緒に行動する場合にのみコース内での撮影ができるようだ。
勿論、報道には許されると思うが、故人を偲んでいる人達を無遠慮に撮影する様な動きはほぼ見えなかったので、報道関係者はテレビ中継がある場所で撮っていたのかも知れない。

EOS R5 RF15-35mm F2.8L IS USM
ISO6400 f/2.8 1/200s 15mm

私は、友人からの誘いがあって彼の母上を乗せた精霊船に同行したのだが、おりしも台風接近による天候不順の日。
防水対策も考えて防塵・防滴構造ではないSIGMA製レンズの使用を諦め、RF15-35mmF2.8LとRF70-200mmF2.8LをメインにEF50mmF1.8STMをバックアップにした軽装で撮影にあたった。

EOS R5 RF15-35mm F2.8L IS USM
ISO6400 f/4 1/400s 15mm

魔除けの意味もある爆竹をひたすら鳴らす。
小さなリアカーに積んだダンボール箱いっぱいの爆竹は、かなりの勢いで消費されていく。
一束ずつ着火して投げているうちに慣れてきて、一箱一気に着火して箱を持ったまま鳴らしたり、帯状に編まれた爆竹にそのまま着火して手持ちで鳴らすなど、豪快な所作があちこちで見受けられた。

EOS R5 RF70-200mm F2.8L IS USM
ISO6400 f/2.8 1/160s 200mm

鐘の音と「どーい どーい」という掛け声、そして爆竹の音。
それ以外の音が無い独特の空気は故人への追悼の思いに満ちていて、穏やかささえ感じる不思議な世界を構成していた。
そして行列は「流し場」へ先頭が到着した後、順番待ちの渋滞となる。

EOS R5 RF70-200mm F2.8L IS USM
ISO6400 f/2.8 1/200s 200mm

スタート時、喪主から渡されたのは耳栓。
そしてその耳栓があっても、絶え間なくなる爆竹の音は厳しく、あたりに漂う火薬の匂いと煙の凄さは、形容しがたい世界を見せてくれた。
最低限のルールとして、打ち上げ系の花火は使わない事になっているが、それでも派手にやりたい人はいるようで、警察官が途中で禁止されている花火が無いかをチェックにしに訪れる。

EOS R5 RF15-35mm F2.8L IS USM
ISO6400 f/2.8 1/50s 19mm

歌手のさだまさしが「グレープ」でデビューし初ヒットした「精霊流し」は、アルバムバージョンで爆竹の音や鐘の音が街録されて挿入されているが、それでも楽曲を聴いただけでは実際の雰囲気は伝わらない。
ただ、この精霊流しの現場にいて初めて、さだまさしが何を伝えようとしていたかが、肌でわかったように感じた。

EOS R5 RF15-35mm F2.8L IS USM
ISO6400 f/2.8 1/200s 15mm

精霊船が動かなくても、爆竹は鳴らし続ける。
手持ちの花火を持って華やかに振る舞う人達もいて、祭りに見えなくもない。
だが、まぎれもなく追悼行事であるため、歩道から見る人達も静かにしているのは言わずもがな。
そして動かない精霊船の周りで走り回って爆竹を鳴らす人達も多くいて、だんだんとカオスな状態になっていった。

EOS R5 RF15-35mm F2.8L IS USM
ISO6400 f/2.8 1/60s 15mm

若い男女が曳く精霊船は、急逝した同級生のものだと聞く。
誰もが故人を偲んでいる事は表情から見てとれて、中学校時代に海で遭難して無くなった同級生の事が蘇った。
葬式で焼香をするしかできなかった自分から見れば、葬式の後に精霊流しでもう一度お別れができる事は、故人を大事に送る事ができる喜びにも似た感情を醸成するのかも知れない。
 
この交差点の先には坂があってテレビ中継が行われていたが、坂を越えた先にある「流し場」へ向かう途中でずぶ濡れになるほどの大雨となった。
さすがにもう撮影は難しく、沿道の軒下に避難。
カメラをバッグにしまって「流し場」へ向かって5時間にわたる「精霊流し」の撮影は終了となった。 
 
翌日、長崎に来たら絶対食べる「トルコライス」を「ツル茶ん」で楽しんだ。
旅の目的の一つに、その地でしか食べられない物を味わうってのがあって、その味わいがもう一つの「記憶の鍵」になる事を知っているので、自分にとってはある意味最重要ミッションにもなっている。

EOS R5 RF15-35mm F2.8L IS USM
ISO1600 f/5.6 1/13s 35mm

「昔懐かしトルコライス」という名でメニューに載っているこいつは、豚カツとピラフ、ナポリタンとサラダが盛られ、カレーソースがかかった一皿。
 
「ツル茶ん」ではトルコライスにかなりバリエーションがあって、ステーキや海老フライ、ハンバーグが乗ったものなどがメニューいドバッと載っているから、つい他の物をオーダーしたくなる。
でも、やっぱり王道なコイツを食べずして、長崎でトルコライスを食べたって言えない気分になるので、いつもこれを頼んでしまうワケだ。
 
RF15-35mmはこういった撮影にも使える利点があって常用しても良いのだけど、とにかくデカい&長いので目立ち過ぎるのが難点。(オマケに重い)
今回はRF35mmを持っていかなかったので諦めて使ったけど、飲食店で撮る場合は極力小さいレンズがありがたい。(RF28mmとかね) 
 
それにしてももうちょっと気温、下がりませんかね?
ふらっと撮影に出かける気になれないままいきなり冬になりそうで恐いけど、日本の四季っていつまにか二季になっちゃってるように感じているのは、私だけでしょうかね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?