フルサイズセンサーで撮るモノクロの面白さ
どっちが好きか?
と問われたら間違いなく「モノクロ」と言うくらい、光と影だけの世界は好きだ。
写真への入口がモノクロフィルムであり、現像もモノクロだったから、暗室の中で浮かび上がってくるその世界の魅力に魅了されたままなのかも知れない。
プロの世界に足を踏み入れた瞬間から「カラーはプロラボ、モノクロは自前」というスタイルにドップリと浸かって、カラー写真の現像を楽しむ気にもなれなかったのは今思うと残念ではある。
今はPC上でかなりの加工が目視でできるようになり、デジタルの弱点を克服するメーカー(ハード&ソフト)の努力もあって、デジタルインプット/アウトプットに何の違和感も感じなくなったのは、アナログアウトプットの画像を見なくなって忘れてしまった日常の為せる技なのかも知れない。
センサーサイズの違いはどこに出るのだろうか?
被写界深度とノイズ耐性、というのはある程度の知識のある方ならわかると思うが、それが写真になった時にどう出るか?というのは説明がしにくい。
感触というか質感と言うべきか。
私としてはその時の「空気を撮りたい」という思いが強いので、その質感に頼りたくなるのは当然の帰着。
今使っているR5はノイズも手ブレも出やすい方だが、高画素機ならではの質感があるので、夜景撮影にはRの方が適しているとわかっていてもR5を使う事が多くなった。
街のスナップは、そこにしかない光景の記録でもあり、その日その時のリアルがあるからこそ意味がある。
そしてその1枚の撮影意図が引き出せるように加工するのが、現像時の重要な作業となるのだが、モノクロ化する際に色を抜くだけでは面白く無い。
撮影時にフィルターをかけて撮った様な効果、プリント時に露光中に一部を覆い焼きしたり、短時間だけ紗をかけた露光を加えて柔らかい中に芯があるような画像にするなど、自分で銀塩プリント作業をしていた時の経験を生かす事も今のソフトでは可能になっている。
この写真は一次現像で、撮影時にオレンジのフィルターをかけた状態から、フィルムのトーンをかけてモノクロ化した。
二次現像ではリサイズ後、黒と白の階調を調整したレイヤーを作って原版と合成した後、クラシックカメラ特有の弱いボケと周辺光量落ちを再現したレイヤーを別途作って合成している。
この作業を行うと、髪の毛の部分に特に出る柔らかな感じが出るのでわかると思うが、ピンボケ部分の荒れも柔らかくできるので、ボケ味がうるさいタイプのレンズにはマッチしやすい。
この写真の場合の加工手順は以下の通り
①DXO PhotoLab(一次現像)
→輝度、ノイズ、パース、トーンカーブなどの基本調整を、
FilmPacのトーン(Ilford PAN f+ 50)をかけながら実施。
→tiff形式でアウトプット(16bit:サイズ変更なし)
一次現像で得られた画像は以下の写真。(リサイズのみ実施)
見比べるとわかると思うが、影の部分が黒つぶれし、輝度が高い部分は飛び気味な写真になっている。
これを元画像として二次現像を行う。
②Adobe PhotoLab(二次現像)
→リサイズ(第1レイヤー)
→プラグイン:NIK-CollectionのSilver Efexで黒と白の階調調整
(第2レイヤー)
→第1及び第2レイヤーのブレンド(加工済みレイヤー)
→プラグイン:NIK-CollectionのColor Efexで
・プロコントラスト
・周辺減光
・クラシックソフトフォーカス(拡散モード)
の調整を行う(第3レイヤー)
→加工済みレイヤーの輪郭補正実施の後、第3レイヤーとブレンド
→ブレンドされた確定レイヤーに色調補正:レンズフィルター(セピア)加工
→プロファイル変換(AdobeRGB→sRGB)
→モード変更(16bit→8bit)
→jpeg形式でアウトプット
カラーの場合は一次現像時にカラーで処理し、二次現像ではプラグイン加工はColor Efexのみで行う事が多い。
モノクロの方がカラーデータが無い分加工耐性が強いが、やり過ぎるとトーンジャンプが発生するので、注意が必要となる。
この写真も同じフローで現像していて、ソフトフォーカスされたレイヤーと輪郭補正されたレイヤーのブレンドで少し固い感じの仕上げにしている。
こういった加工をすると、こんな正対した構図では特に現場の空気感が消えやすい傾向があるが、フルサイズセンサーのカメラで撮ると被写界深度が浅い分、絞っていても奥行き感が出る。
斜め構図や三角構図など、写真の基本と言われる立体感を感じさせる構図でなくても、立体感が出やすいと感じるからこそフルサイズセンサーで撮り続けているのだが、最近のAPS-Cやマイクロフォーサーズのカメラを使ってないので、フルサイズセンサーでしかできない!とは言えそうに無い。
商業写真においてはパンフォーカスで明るい画像が求められる事が多いので、その分加工自由度が高いモノクロで、趣味的な加工をする事も多かったと記憶しているが、染み付いたハイキーな加工は抜けきらず、情景描写をする場合にどこまで暗くするかは毎度悩むポイント。
そしてそれは、現像の楽しみの一つなのだろうと思っている。
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