「あなたが手放した夢が、他の誰かの夢の中で活躍してるかもしれません」

幼児は三歳くらいまでに育ててくれた人の優しい面と厳しい面の両方を自分の心に取り込みます。

心に取り込まれた養育者の優しい面が『あなたは存在するだけで価値のある大切な存在だよ』と言ってくれるので、子どもは自分の気持ちを大事にでき、それを主張することもできるようになります。また、この優しい面を他の人に向けることで、他の子の気持ちを大事にしたり、思いやりを示したりもできるようになります。

また、心に取り込まれた養育者の厳しい面が『悪いことしちゃだめ』と厳しく見張っていますので、三歳くらいから子どもは誰も見ていないところでも、自分のものでないおもちゃやお菓子をとらなくなります。また、この厳しい面を他の人に向けることで、正義感を示すこともできるようになります。

さて、この二つの面にガイドされながら、四歳くらいまでにいろんな人と接する中で、子どもは自分と自分以外の人の心は違うのだと気づき(心の理論の成立)、言葉を使って他者の気持ちを推測するようになります(また、四歳くらいまでに話し言葉の文法の基礎がだいたいマスターされ、他者の気持ちの推測に必要な言語能力もつきます)

その後、自分以外の心を推測するうちに、自分以外の立場になって考えるようになり、五歳くらいで『お母さんは、おばあちゃんにとって子どもで…、おじいちゃんはお父さんにとってお父さんで…』と他の人の視点に立つこと(視点取得)もできるようになります。

キャリア心理学者のサビカス(2011)によると、この視点取得ができるようになる五歳から六歳くらいの頃に憧れていたヒーロー・ヒロインが心に取り込まれ『なりたい自分』の中心をなすロールモデルの核となります。

視点取得は簡単に言うと『その人になったつもりになる』ということですから、ヒーロー・ヒロインになりきって遊ぶうちに、そのヒーロー・ヒロインの特徴のうち、自分が憧れているところが心の中に取り込まれて『なりたい自分』の核が作られる…というわけです。


そんなわけで、キャリア相談の場面では

『5歳から6歳くらいのころ、養育者以外で憧れていた人(ヒーローやヒロイン)はいますか?』

『その人のどういったところに憧れていましたか?』

『その人の活躍で一番印象に残っているのはどんなエピソードですか?』

という質問によってその人の「なりたい自分」の核を明らかにしようとします。

音楽大学でキャリア相談をしてみますと、この質問に対して『ピアノの先生』とか『コンクールで活躍していた同じピアノ教室のお兄さんお姉さん』とかがよく出てきます、また、習い事を始める時期でもありますから『そもそもその頃楽器を始めたのも、先に始めていたお兄さんに憧れて…』等もよく出てきます。

音大でキャリア相談する前は、音大生の人生最初のロールモデルにベートーヴェンとか、モーツァルトとかが出てくるんじゃないかなと思っていたのですが、身近な演奏者の方が出てくることが多かったです(過去の偉大な作曲家は、もう少し成長してからのロールモデルになるようです)

その様子を見ていてふと思ったんですが、ときどき『小学生くらいまではコンクールで結構活躍していたけど、中学校で勉強が忙しくなってやめちゃったんだ』という人がいますよね?

ひょっとしたら、その人の小学校時代の活躍は誰かの心の中でロールモデルとして生き続けていて、その誰かが音楽家となったとき、その音楽家の方と一緒に世界中で演奏し続けていたりすることがあるかもしれません。

一般化すると、誰かが途中で諦めた夢が、他の誰かの夢の中に取り込まれて活躍していることがあるということになります。


さて…あなたのヒーロー・ヒロインは誰ですか?

その人のどんなところに憧れてましたか?


そして次に、あなたに憧れていた人のことも思い出してみてください

(あなたに憧れていた人は、子どもでなくてもOKです。ロールモデルは一生のうちにいろいろな人が心に取り込まれて、上記のロールモデルの核に組み込まれていきます)

私に憧れてた人なんていなかったよ…という人もよく思い出してください、きっといるはずです

もし本当に今までそういう人がいなかった場合は、これから現れます。

人は一生に一度は誰かのヒーロー・ヒロインになる瞬間が訪れるからです。

あなたに憧れている人(憧れていた人)に、あなたが気付かない(気付かなかった)可能性もありますが…

あなたもきっと誰かのヒーロー・ヒロインとして誰かの心のなかで活躍してます(あるいは、いつの日か活躍することになります)

誰かのヒーロー・ヒロインとして胸をはって生きましょう(*^^*)

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