読書ログ2 「統計学が最強の学問であるビジネス編」 西内啓著

2冊目は西内啓(にしうちひろむ)さんの「統計学が最強の学問であるビジネス編」

概要

2013年に、同じタイトルで一冊として発売したが、2014年から、ビジネス編、数学編、実践編と3部構成のような形で、再度発売されている。ビジネス編と題しているように、統計モデルのアルゴリズムの説明などは省略されており、ビジネスの場で、如何にデータを扱うべきかの考え方や方法を、経営戦略、人事、マーケティング、オペレーションの4つの場面でそれぞれ解説している。構成としては、第一章の経営戦略で、「どういう市場で戦うか」、「その市場では、どういう強みが重要か」を、第二章では、その強みの一つである「優秀な人材」の定義をどうすれば決められるのかを、第三章では、どういう商品をどう売ればいいのかを、第四章では、その商品の開発から販売までどういう風にオペレーションすればいいのかをそれぞれ解説している。

執筆の背景

西内さんは、多くの日本企業の統計学を用いたデータ解析、コンサルティングを行ってきたが、日本企業のデータリテラシーの低さに課題感を持ち、本書を執筆した。多くの企業で多額の投資を行っても、でてくるのはただの円グラフなどで実際の企業のアクションに繋がっていない様を何度も見てきたという。

印象に残ったキーワード、得られた示唆

①人が能力を発揮するかどうかの7割は求められる状況との相性で決まる
・1940年代からアメリカでは、キング牧師やマザーテレサ、J.F.ケネディなどをモデルに、リーダーの共通する資質を探る努力がされてきたが、結局、わからなかった。
・そこででてきたのが、状況適合理論。「どのような状況では、どのようなリーダーが機能するのか」という点に注目した理論である。大きく分けて4つのリーダータイプがある。
・つまり、どんな状況でも必ず活躍できる人はいない。逆に言えば、適材適所に人材を配置することが非常に重要。これが統計学を人事に活かすコンセプトになっているようだ。
・本書では、部署で活躍している人材の特長を統計学的に導き出し、採用や社員のトレーニングに活かすことができると述べている。Googleも採用。
・逆に、とりあえず高学歴でいい子そうだからという理由で、採用したり、配属先を決めたりする日本企業に警鐘を鳴らしている。
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最近は変わってきつつあると感じるが、「上司ガチャ」なんて言葉も残っている日本の就活なので、この警告には賛同する。ただ、学生側ももう少し見たほうがいいなーと思う。大手志向は今だにあるだろうし。

②マーケティングとは、売れないものを無理やり売ることではない
・マーケティングの本質は、「その人が欲しい商品」を「適切な値段」で、「その人が行きやすい場所」にあるということを、「知らせる」こと。product, price, place, promotionの「4つのP」。
・この4つがあれば、おのずと顧客は購入する。
・しかし、この4つのPを決める前に、セグメンテーション(誰に売るか)とポジショニング(何を売るか)の2段階の作業が必要(≒productの決定)。
・統計学を用いれば、経験や勘に頼らず、適切なセグメンテーション、ポジショニング、4つのPが決定できる。
・今まで考えたこともなかった市場開拓も可能。
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マーケティングって結局なんやねん・・・?と個人的に思っていたので、明快に述べてられていて、ありがたい。顧客を理解(創造)しなさいということなのかな。上にはないが、顧客が購入するかを決める要因の一つに、「周囲の人が購入していること」があるようで、これは納得。インフルエンサーマーケティングとか、この要因を利用しているのかな。

③企業の収益性の3~5割は、その企業がどういう強みをもっているかで説明できる
・市場規模や競合他者などの外的要因か、自社の強み(人材や開発、生産能力など)の内的要因のどちらが、その企業が成功するかを決めるのかについての議論は、現在も終わっていない。
・ただ、少なくとも参入障壁が低く、差別化がしやすい市場では、その企業がもつ強みが収益性の3~5割を決めるという。
・一方で、寡占市場や変化が非常に早いスタートアップなどでは、あてはまらない。
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しかし、米国のスタートアップが倒産する理由の7~8割が、「顧客がいると勘違いしてビジネスを始めてしまうこと」で、競合の存在は支配的な要因でないとも言われている。私としても、やはりスタートアップでも、内的要因が成功を決める割合が高いのではないかと考えている。それでも、本書の3~5割というデータは、私の直感をフォローする内容だったため、大変参考になった。

感想

本書の大きな目的が、ビジネスの場で、統計学が持つ可能性を示し、その正しい使い方を理解してもらうことだと私は理解している。そのため、文中の解析もそこまで難解ではなく、非常に読みやすかった。私自身わずかだが、データ解析の経験があるため、統計学はビジネスの場で有用であるということは、感覚として分かっていたが、なぜ有用なのか(Why)を歴史的な側面から示し、企業の場でどういうデータを(What)、どう集めるのか(How)まで示しており、自分の感覚をより具体的に、確実なものにしていくことができた。秘密保持の関係で、文中のデータ解析の例の抽象度が高く、本当にこれでデータ解析できるのか?という疑問は正直残ったので、実践編をぜひ読んでみたいと思う。


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