ぶっちゃけどうなの?日本のハカセ 前編

書こう書こうと思っていましたが、やっと書けました。3月に博士を取得しましたので、学生時代を振り返りたいと思います。大学名は伏せます。

なぜ書こうと思ったか

専門は半導体なのですが、日本の博士で半導体、、、というと残念ながら明るいニュースは少ないですよね。B4からD3まで日本の大学の同じ研究室でやってきた身としては、だからこそ、実際の学生はこんな感じで(学振なしで)生き延びて、こんなファーストキャリアを選んで、今こう思ってますよってことを、記憶が鮮明なうちに書き記しておこうと思い、筆をとりました。あとは、日本の研究レベルが~とか、論文数が~とか言っても、そもそも博士学生のことを知らない人が多いと思うので、少しでも知ってもらえればと思っています。少しでもリアル感を出したいので、文章多めに、エピソードも織り交ぜながらになります。ご容赦下さい。

どんな研究をしていたのか

新しい半導体材料を扱ってまして、この新材料でムーアの法則の限界説を打ち破ろうぜとか、もっとストレスフリーに使えるデバイス作ろうぜ、みたいなテーマに設定して研究をしていました。年中クリーンルーム(空気中の不純物が少ない部屋)で、防護服着て、トランジスタ作ってました。基礎研究なので、実現までの時間軸は長めになってしまいますが、パイオニア感が強く、やりがいのあるテーマでした。

結論、メッセージ

さて、基本情報も共有できたことですし、ここで、結論として日本の大学で博士課程を経験して思ったことを先にまとめたいと思います。
※あくまで工学分野に限定されます。理学や文系になると、また状況は変わってくると思います。
※長くなるので、今回は③までにしたいと思います。

①研究、金、教授の三つがそろった研究室にいるべし
②博士は20代で世界一を狙える、成長できるいい環境
③日本で博士学生への経済的支援が劇的に増えることはない。早めの準備を
④金がないことは、時間と心の余裕を何よりも奪う。
⑤一方で、自分で金をとってくるプロセスを通じて、自分の研究を見つめなおせる。
⑥支援が少ないのは、学生側にも原因がある。

①研究、金、教授の三つがそろった研究室にいるべし

まず前提として、私の博士生活は自分を成長させてくれた本当に充実した期間でした。そしてその要因は、良い研究室に入れたことが全てでした。それでは「何が良かった」というと研究、金、教授の3つのポイントでした。
研究というのは、自分が面白いかどうかという意味です。当然ですが、面白くなかったら絶対に博士進学はやめるべきです。人それぞれ面白さを感じるポイントは違いますが、自分で面白いと思えればそれでOKです。なんやかんや言って、研究は研究者個人の思いや好奇心が全てのスタートです。
次に金というのは、その研究室が資金が潤沢か、予算を積極的に獲得しているかという意味です。理系の研究にはお金がかかります。何億円の装置や分析1回100万円などが普通にあります。逆に言えば、お金があれば研究の自由度やスピードも上がってきます。また、予算を積極的に取ろうとしているかは、その教授がガンガン研究を進めようとしているか、引いては研究室に勢いがあるかの判断基準になります。
教授というのは、一言で言うと「就職するより、この教授の下にいたほうが鍛えられそうだと思えるかどうか」という意味です。博士課程は、20代の中盤という自分の基盤になる大事な時期です。だからこそ、尊敬できる人、成長機会を与えてくれる人の下にいるべきです。
私は自分の研究は面白いと思っていましたし、研究室の予算は潤沢で、分析や新しい装置を買うことに金銭的なハードルはあまりありませんでした(もちろん、研究手段としてその分析をすべきかどうかは別)。教授は、指導は丁寧でロジカルでしたし(優しいとは言ってない笑)、性格も前向きで尊敬できる方でした。(睡眠時間4時間くらいで、土日も働くという鉄人のような人でした笑)。
もし、これから研究室選択をする学生さんがいたら、ぜひ所属前に研究室を見学しまくってください。その時に、まずは教授とフィーリングが合うか判断するといいでしょう。また、
・学生にPCは支給されているか、スペックはどれくらいか
・ディスプレイは2つ使えるか
・実験装置は、同じ専攻の別の研究室に比べて充実しているか
などを見ておくと、その研究室が予算をもっているかどうか判断できると思います。尚、見学時に教授が会ってくれない研究室は問答無用で選択肢から除いたほうがいいです。単純に予定が合わなかっただけかもしれませんが、情報不足すぎて選択肢に入れるリスクが高いです。

②博士課程は20代で世界一を狙える、成長できるいい環境

さて、ここまで博士生活を通じて成長できたという話をしましたが、どう成長できたのかについて掘り下げたいと思います。
まず、国際学会を通じて視座が高くなりました。自分の研究室で、閉じこもってやってた研究成果を海外の研究者と議論した時に、「あーつながってんだなー、俺の研究って世界中でやってんだな、こいつらに勝たなきゃいけねーんだな」って強く実感しました。同時に、世界と戦える環境にいることにとてもワクワクしたのを覚えています。20代の中盤に自分の仕事を、世界に向けてアウトプットするのって社会人だと中々難しいと思うので、これはほんとによかったなと思います。
また、「自分で」その研究を進めるしかない、進めないと卒業できないという状況にも鍛えられました。生まれて初めて、成果というものを締切までに出さないといけない、そして、締め切りを過ぎると明確に自分の生活に大きな影響がでる(卒業できない)という状況に置かれました。ですので、研究を通じて、「如何に最小の実験回数で、最大の成果を出すのか」というトレーニングを知らず知らずのうちに積んでいたように思います。また、そういう状況にいて、なんとかしようと熱狂して研究していると、、、
次第に結果が出てくる
→後輩の中でも気概のあるやつが、俺だって!と研究頑張りだす
→その子とよく議論するようになる
→別の後輩もだんだん議論に参加してくる
→研究室が活性化する
→後輩が進めてくれた成果を応用して、自分の研究が進む
といった好循環を生むことが(意図的ではなかったですが)できました。自分の熱狂で他人が動いていくプロセスを見ることができたのは今後に活かせると思っています。

③日本で博士学生への経済的支援が劇的に増えることはない。早めの準備を

さて、①、②はポジティブな話でした。しかし残念ですが、やはり厳しい話もしなければなりません。まず初めに、この③です。こう思ったのは、教授や助教さんが学生の頃と比べて、博士学生の経済的支援の手段は増えていなかったからです。10年以上たっても未だに主要な経済的支援は、合格率2割を切る学振なのです(貸与ならJASSOもありますが)。個人の方や民間企業が運営されている奨学金などはありますが、年間の採用数が1桁だったり、母数としては依然少ないかと思います。私も色々探しましたが、応募できそうなのは、5,6個だったと記憶しています。ただ、(大変失礼ですが)月に3万円とかの小口の奨学金も含めての5,6個なので、自分で賄うとなると、かなり厳しかったです。こんな状態でしたので、経済的支援が劇的に増えるとは到底思えません。
ですので、これから博士進学を考えている人は、とにかく早めに応募する奨学金をリストアップしたり、申請書を書き始めて下さい。もらい始めたい時期から最低でも一年は逆算して考えるべきです。

それでは、もうすこし突っ込んだお金の話は次にしたいと思います。続く。


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