ヴィーガニズムから考える思想の折り合いと妥協点
日本よりもベジタリアン人口の多いアメリカでは、植物性オンリーのメニューがある飲食店が多くあると聞く。マクドナルドでもマックプラントという代替肉を使用したハンバーガーが販売された。(あんまり売れなかったみたいで現在は販売終了してるらしい)
このマックプラントについて、菜食主義者達の反応は二つに分かれた。
一つは「ヴィーガンやベジタリアンの人でも食べられる!」と宣伝や紹介をした人達。
もう一つは「マクドナルドで食べること自体がヴィーガニズムに反する」として反対した人達。
自分はヴィーガン(完全菜食主義)ではないが菜食生活を続け環境保護や動物福祉に関心を寄せる人間のひとりなのだが、先日この二つの反応を知り色々と思うところがあった。
ヴィーガニズムというのは飲食、衣類その他あらゆる目的のための動物の搾取と虐待を、現実的で可能な限り生活から排除しようと努める哲学と生き方である、とされる。この定義に基づけば、僕もヴィーガニズムの信奉者と言っても差し支えないかもしれない。
二つの反応のうち、より厳格なヴィーガンは後者である場合が多いように思う。
マクドナルドは言わずと知れた世界有数の超巨大外食企業だ。1940年に創業者のマクドナルド兄弟が立ち上げ、ファストフードという概念を確立した最初の企業ともされる。
世界一の食肉消費量を誇り、世界中どこで食べても同じ味、同じ品質、低価格になるよう工場式の製造方法を確立させた会社でもある。牛肉、豚肉、鶏肉、トマト、レタス、ポテトなど多くの食品で契約農家を持ち、その大きな影響によりアメリカでは畜産業や農業が外食産業と契約する数社のみでほぼ全てのシェアを独占する状態になっているらしい。
(日本では農家と言うように家単位で農業をしてるイメージだけど、アメリカでは一農家の平均雇用人数が100人以上の大会社なんだって!)
なのでヴィーガンの中には環境破壊を繰り返し世界一食肉を消費してるマクドナルドに金を落とすことに反対する人も多い。
この話を聞いて、僕も気持ちはとてもわかる。
調べれば調べるほどにマクドナルドの悪行は目につくし、僕もとても食べる気にはならなくなった。ただ、ヴィーガニズムの目的達成に近づくためにはどうすべきなのかを考えると、代替肉を広めることは賢い選択になるかもしれないとも思う。
マクドナルドがヴィーガニズムを企業理念に掲げることは永遠にないだろう。(だってハンバーガー屋だもんね)
しかし、思想が食い違うからといって一切歩み寄る姿勢を示さないのでは、ヴィーガニズムの広がりは停滞するだろう。
マクドナルドが代替肉のマックプラントを開発したのは消費者の多様なニーズに応えることが企業利益につながると踏んだからなのは容易に推察できる。決してヴィーガニズムに賛同してるからではないが、それでも植物性バーガーのシェアが増えればメニューも増え、緩やかだが植物性中心の企業に舵を切るかもしれない。
ならば我々ヴィーガニズムの信奉者も、感情的な嫌悪感や抵抗感で反対せずに、少しずつシェアを増やす方向で進めるのが利口な考え方かもしれない。
食品産業や外食産業の大企業が簡単に潰れるわけもないし、一部のヴィーガンが肉屋でデモを起こす度にヴィーガン嫌いの人が数を増やしてる現状を顧みても感じるが、菜食主義者達が逆立ちしたってマクドナルドのような巨大企業に勝てるわけないのだ。
もっとも、これは繊細な問題で代替肉の開発過程や環境負荷など、考慮すべき問題は山ほどある。なので安易に推奨することが正しいと言うのは憚られる。しかし自分が言いたいことは、食肉に加担してる企業だから植物性食品も買わない、金を落とさない、と反対していてはヴィーガニズムが広まらないんじゃないかという懸念である。
というかふと思ったけど、厳格なヴィーガンの人はスーパーでも野菜や果物を買わないのだろうか。僕は一般的なスーパーも利用するけど。肉や魚を取り扱っていても自分が選択しなければいいと思っていた。
僕はまず何より、自分自身が己の生き方を貫くことを大事にしている。そのための一つが菜食主義だ。次にそれが、微力なれど社会貢献に繋がればいい。
他の人や世間がどうあれ、自分はこうだという筋を持って生きていきたい。それは自分以外の他人にも言えることで、他の人が各々の価値観に基づいて選択する権利を害したいとは思わない。相容れない多様な思想が共存する社会の実現のためには、隣の客が肉を食べている横で気にせず野菜を食べるようなバランス感覚が必要なのかもしれない。
「私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」
と言ったのはフランスの哲学者ヴォルテールだ。
僕は僕のやり方でヴィーガニズムを広めようと思う。童話『北風と太陽』の太陽のやり方だ。
肉屋でデモを起こしても反発を招くだろう。そればかりがヴィーガンの実態だと思い込んでる連中の低脳ぶりには呆れるが、菜食は健康的で環境に優しく世界から飢饉を減らし動物の搾取をしないライフスタイルなのだと自分の生き方を通して広めたい。
健康も強さも賢さも手に入ることを俺が自分の能力で証明してやるぞ、と密かに燃えているのだ。
……料理は下手だから、菜食の美味しさは他の人に任せます。
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