見出し画像

人工知能(GPT-3 text-davinci-003)にネリ&フーの建築作品説明文を解説させてみた結果

OpenAIが作っているGPT-3という言語生成モデルで最近遊んでいるんですが、本当にいろいろなことができて楽しいです。で、ひとつ思いついてやってみたのが表題の件で、今回はそのご報告です。

なぜネリ&フー? そしてOpenAIとは?

なぜネリ&フー?
アジアの建築家が世界に向けて発信して、きちんと価値を認めさせて、大きくなっていった事例としてネリ&フーは日本の建築家のロールモデルのひとつになりうると考えているからです(ほかにもいくつか候補はあると思います)。

彼らの建築作品説明文のような説明文を書けるだけで、もっと海外で評価される日本の建築家がふえるのではないか、みたいなゆるい仮説を持っています。

それをGPT-3で支援することはできないか?というのが最終的な目標で、今回はその第一歩という位置付けです。

OpenAIとは?
OpenAIは、人工知能を研究・開発する非営利組織です。イーロン・マスクらが出資したことでも知られており、研究成果の一部をオープンソースにしてくれているので、僕のような非専門家でも高度な文章生成モデルを試すことができるという寸法です。

人工知能によるネリ&フーの建築作品説明文の評価

では本題に入りましょう。

評価対象の選定

ネリ&フーによる「南投市のゲストハウス(Nantou City Guesthouse)」を選んでみました。2021年12月竣工、グロス面積は1,370m²。日本でもなくはなさそうなプロジェクトです(ほんまか?)。

OpenAIによる評価手順

  1. 作品説明文をplaygroundに貼り付ける。

  2. 適当にpromptを書く。(今回は"Explain what is essential point of the above promotion text of the architectural piece in a view of the international promotion strategy:"としてみた)

  3. submitボタンを押す

  4. すると数秒で、以下のような感じにハイライト部分が生成されます。

生成された文章

では生成された文章を見てみましょう。

原文(すぐ下に日本語訳したもの置いときます)
The essential point of the above promotion text of the architectural piece is to showcase the unique urban village of Nantou City and to highlight the project's ability to reflect on its cultural heritage, celebrate its everyday scenes, and create a new public realm. The project seeks to capture the vibrant milieu of the alleyways and to create a dialogue between the past and the present. It also seeks to emphasize the embrace of fragments and the notion of urban layering. Lastly, the promotion text focuses on the rooftop gardens that provide a dramatic panorama of the street life below and the public spaces and service functions, creating a memorable experience for the visitors.

powered by OpenAI

日本語訳
この建築作品のプロモーション文章における力点は、このプロジェクトが可能にする効果を強調することに置かれています。すなわち、南投市のユニークな都市集落を紹介するものであること、文化的蓄積へと思いを馳せさせること、日常の風景を称え、新たな公共の場を創造すること、です。このプロジェクトは、路地空間の活気ある姿[1]を捉えることによって、過去と現在の対話を生み出そうとしています。また、(都市における)断片化されたものを受け入れるとともに、"アーバン・レイヤリング"という概念を強調しています。最後に、このテキストは屋上庭園を取り上げます。そこは眼下の街並みが一望でき、公共空間とサービス機能を備えられ、訪れる人の記憶に残る場所になっているのです。

訳:中村健太郎(kentnkmr.com

感想

率直に言えば、僕が想像していた以上に「読める」テキストでした。原文から「アーバン・レイヤリング」という(おそらく)ネリ&フーオリジナルの概念を抽出していたりしておもしろい。ふつうに勉強になります。

しかし、、

結論:失敗

結論としては、少なくとも現状のpromptでは当初の目的(ネリ&フーみたいな海外マーケット向け作品説明文を書く支援に役立つ)を果たせていないとおもいます。

出力結果はいわば元の作品説明文の中途半端な要約にしかなっておらず、そもそもPR文としてどうすぐれているのかという論理的考察が全くない。新たに生成された情報はひとつもありません。

原文は極めて優れたテクストになっており、たとえばざっと読むだけでも、

1. 海外の建築界やスタジオ課題でも使えそうな単語・造語をもちいた作品の説明("tectonic language", "vernacular add-ons", "capping"など)、
2. 欧米研の論者による概念の引用("Svetlana Boym’s writings on the topic of reflective nostalgia")、
3. 南投市の個別性の説明("アジア"の表明、欧米との差別化)

などが見て取れます。要するに、欧米建築界向けにきちんとリーダブルなテキストが編まれているのが重要である(と僕は思います)。言い換えれば、日本語で書いたテキストをただ英訳してもあんま意味ない可能性とかありそうです。

むしろ今回思い知ったのは、ネリ&フーのすごさだったのでした。

今後の展望

というわけで雑な失敗をひとまずやってみたというのが今回のオチなのですが、むしろ展望はかなり広がりました。

いくつかのアイデア

とりあえず今の雑なpromptを改善して、もっと的確にGPT-3にオーダーを出せるよう改善する必要があります。

またほかにも、とりあえずネリ&フーのサイトにある作品全部OpenAIに評価してもらう、みたいなアプローチもありそうです。そこから彼らの説明文の"クセ"みたいなものを抽出したり、「ネリ&フーみたいな説明文に変換する」とかできたらよいかもですね(人格のシミュレーションにあたってしまう?)」

あとは他の建築家でやってみるのも大事ですね。日本の建築家も分析するといいかもしれないです(日本語がどこまで分析できるかはわかりませんが)

論文にする?

あとうまく組み立てれば研究論文にもできそうだなとか思ったので、建築情報学会あたりに投稿してみようかしら(募集しているんでしたっけ?)。一緒に研究したいという方おられたらお気軽にご一報ください(末尾に僕のサイトはっておくので、そこから連絡ください)

面白かったので、シリーズ化するかもしれません。次を作ったらまたnoteでお知らせします。(フォローしてもらえたら嬉しいです。)

参考資料など

ネリ&フーのサイト

architecturephotoのネリ&フーまとめページ。56件もある。

訳註

[1] 作品紹介文でmilieuという単語が使われており、それがOpenAIによって再利用されている。milieuで引くとすぐにフランス語がヒットするが、同じ単語がオランダ語にもあり、台湾の歴史的経緯を考慮するとこれはオランダ語としてとった方が良いと判断した。直訳すると「環境」になるが、ここでは訳としてのなめらかさと、建築に関するテキストであることを考慮して「姿」とした。

・・・
ご連絡などお気軽にどうぞ


この記事が参加している募集

やってみた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?