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新アルバム「Iris」は壮大な物語だ【BUMP OF CHICKEN】

2024年9月4日、BUMP OF CHICKENの5年ぶりとなる新アルバム「Iris」がリリースされた。
収録されている13曲のうち11曲は、映画、ドラマ、アニメ、ゲームなどとのタイアップ曲で、NHK朝ドラ「おかえりモネ」のテーマソングとなった「なないろ」や同じくNHKのイベント「18祭」(フェス)の「窓の中から」が含まれる。
すべての作詞作曲を手掛ける藤原基央氏(以下「藤くん」)は、直近のインタビューで、このアルバムを「馬鹿正直な5年間のドキュメント」と語っている(音楽ナタリー)。
前回アルバム「aurora arc」リリースが2019年。本人たちにしてみれば、あれから5年の歳月をかけて、1つ1つの楽曲を集中して制作してきた結果、気付いたらそれがアルバムになっていたような感覚なのだろう。
この5年間、彼らの動向を常に気にしていた身としては、その言葉はよく理解できる。ただ驚くべきは、それぞれが異なる背景をもって書かれた楽曲群でありながら、アルバムとして全体を通して聴いてみると、まるで1つの壮大な物語であるかのような鮮やかな色彩とストーリーを纏って新しい世界が提示されていることだ。
ドキュメントでありながら壮大な物語でもあるなんて考えられる?


アルバム「Iris」収録曲

01. Sleep Walking Orchestra / 02. なないろ / 03. Gravity / 04. SOUVENIR /
05. Small world / 06. クロノスタシス / 07. Flare / 08. 邂逅 / 09. 青の朔日 /
10. strawberry / 11. 窓の中から / 12. 木漏れ日と一緒に / 13. アカシア

オープニングに「Sleep Walking Orchestra」がハマった

オープニング曲「Sleep Walking Orchestra」は、アニメ「ダンジョン飯」のテーマソングとして作られた曲だ。
曲調はアイリッシュの民族音楽とアフリカの要素が入り混じった大陸の風を思わせる乾いた空気感もありながら、どこか懐かしさが感じられる。
歌詞に散りばめられた「魔法」「悪魔」といったキーワードは、この物語を想起させる。
僕が好きなフレーズは、「さあ今 鍵が廻る音 探し物が囁くよ」という箇所。これから始まる物語への期待感とわくわく感を抱かせてくれて、たまらなく素敵だ。
すべての歌詞が終わったあとのアウトロに入るタイミングで転調がある。これも冒険の入り口として仕掛けられているものと思われ、目先が変わる印象が楽しい。
アウトロ中の「おう!」の掛け声は、「ダンジョン飯」の主人公ライオスの姿が浮かんでくる。個性豊かなメンバーがみんなで前に進んでいく感じがあってこれまた楽しい。
まさに新しい一歩を踏み出すアルバムのオープニングにふさわしい。
MVもRPGの世界のようで素晴らしいのでぜひ見てほしい。

エンディングの「アカシア」はリスナーと交わされた約束

他方、本アルバムでエンディングの楽曲として配されたのが「アカシア」。
2022年のROCK IN JAPAN FESTIVALや2023年のツアー「be there」においては、この曲がライブのオープニングを飾っていた。当時は、この曲こそライブの幕開けにふさわしく、もうこれしかないという気持ちで聴いていたし、次のアルバムのオープニングもきっとそうなるのだろうと思っていた。
だが、いざアルバムのラストに配置されてみると、また別のメッセージ性を帯びてくるから不思議だ。
すなわち、すべての楽曲がもう終わろうとするタイミングで鳴らされる「アカシア」は、僕らを繋ぐ絆は再びここから始まるのだと、また新しい道を一緒に歩んでいこうという、バンドからリスナーに向けたメッセージとなり得るのだ。
「アカシア」は、前回のアルバムツアー「Aurora Ark」の直後に作られた曲。ライブに集うことができた喜びから生まれた曲であるという趣旨のことを藤くんは以前インタビューで語っていた。あのツアーのきらめきが「アカシア」を生んだ。
アルバムの最終曲においてこのフレーズ。

どんな最後が待っていようと もう離せない手を繋いだよ

「アカシア」 by BUMP OF CHICKEN

こう言われたら、僕らにはもう明るい未来しかない。

「アカシア」と「Gravity」については、この楽曲が発表された2020年当時に書いた記事があるのでリンクを張っておきます。

「なないろ」も書いていました。こちらもどうぞ。

唯一の未発表曲「青の朔日」

ライブも含めてこれまで完全に未発表だったのはただ1曲、「青の朔日」(さくじつ)。これまた素晴らしい楽曲で、シングルカットされても売れそうだし、別のタイミングで何かの企画とコラボするなどして、どうか広く世に知られてほしい。(もっとも、アルバム自体は音楽ストリーミングサイトで既に配信されているので、「シングルカット」という改めて物理的なCDを販売する行為自体に意味があるのかどうかはこの際置いておくとして。)

歌詞の意味を咀嚼するよりも先に、歌そのものに込められた強い想いと楽曲の持つ力にとにかく圧倒される。よくよく聴きこんで体中に染み渡らせたい。そういう深みと味わいを持っている。
これは推測なのだけれど、「be there」ツアー中、藤くんがあちこちの会場で「今曲を書いているから、完成したら聴いてくれよな」「1フレーズ書けた」といった進捗を報告していた。その時の曲が「青の朔日」のことではないかなあ。

【追記】「青の朔日」について、Instagramで藤くんから「とある作品の主題歌として書いたものです」とのコメントが!be thereツアー中に制作されたとのこと。合ってた!

バンドの成長とともに僕らは歩む

近年の彼らの曲作りは、毎回何か新しい引っ掛かりを提示してくれる。
曲の構造にしても、一般的によくある「Aメロ+Bメロ+サビ」のような分かりやすい流れになっているとは限らず、「あれ、今自分はどこにいるんだっけ」と一瞬戸惑いを覚えたり、サビの後に「大サビ」が新たに提示される展開になっているものがある。
代表的なのは「窓の中から」。サビを歌い切り、そこで曲が終わるのかと思わせておいて、さらに「ああ君に出会えてよかった」と続く大サビの流れは、それまでの盛り上がりにダメ押しで感情を溢れさせるような広がりと勢いがある。

他方で、バンドとしてのサウンドはむしろシンプルに整理されているように思えてすごく好き。このことは、この30年近い音楽活動を続けてきてメンバー個々の技量が相当上がってきていることと関係がありそう。
最近特に思うのがヒロのギターの進歩。1つひとつの音の輪郭がはっきりしていながら、それでいて自由さを感じる。自分の思うままを音に表現できているような。「be there」ツアー以降、演奏がこれまでより明らかにワンランク上がった印象を受けた。
そしてもちろんのこと、藤くんの伸びやかな歌声は本当に心地よく体中にしみて五感を揺さぶる。ずっと聴いていたいよ…。

ツアー開幕

新アルバム「Iris」のリリースから3日後、2024年9月7日から3か月に及ぶツアー「Sphery Rendezvous」が始まる。この日をひたすら待っていた。
ライブでバンドと一緒にアクションを取れる曲が増えたことが素直にうれしい。先に書いた「Sleep Walking Orchestra」でのアウトロ中の「おう!」というのもそうだし、「SOUVENIR」の手拍子、「窓の中から」のシンガロング、「アカシア」のコール&レスポンスなどなど。
僕らはまた約束の場所で集える。1人ひとりが壮大な物語の主人公として。楽しもう!

【追記】ツアー初日のライブレポを書きました。こちらもどうぞお読みください。


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