勇気の曲「Aurora」を読み解く【BUMP OF CHICKEN】
ロックバンドBUMP OF CHICKENによる「Aurora」は、勇気の曲だ。
劣等感と孤独感
もし、言葉にするのも憚られるようなネガティブな感情をあえて単語として表現するなら、「劣等感」「孤独感」といった形になると思う。孤独感は「寂しさ」と言ってもいい。
ウルトラマンでも、戦隊ものでも、勧善懲悪の世界ではいつでも正義の味方が現れて、ピンチを救ってくれる。でも、救われる主人公を自分に投影することができないし、ヒーローが悪役をやっつけても気分は晴れない。
理由は明白。それは、自分のところにヒーローが決して現れないことに気付いているからだ。
窮地に陥っている自分を正義の味方が常に見つけて助けてくれるわけではない。ピンチの時に救ってもらうのにもきっと資格がいる。
見つけてもらえる人と見つけてもらえない人。
そこには明確に線が引かれていて、見つけてもらえる人は何度でも見つけてもらえるし、見つけてもらえない人は永遠にその存在が明るみにされないままだ。
自分は常に正義の味方に見つけてもらえない側にいると繰り返し認識させられる。
周りよりもうまくいかない自分、ぱっとしない自分の存在はいつしか劣等感として積み上がり、誰からも認められない孤独感に苛まれる。それでも、人は自分の力でどうにか生き抜くしかない。
勇気
ネガティブな感情についてはじめに書いたが、曲を聴いてまず飛び込んでくるイメージはむしろ逆で、冒頭に込められた歌声のやさしさとポジティブな感情だ。この曲は決して負の感情で固められた暗さを持つものではない。
負の感情から解放される希望にあふれ、未来に繋がる強い意志が表現されている。
何度も絶望したり、無理だと思ったりしても諦められなかった思い。本当に欲しいものは、たとえ自分自身にすら嘘を吐いたり見えないふりをしていたって、心の奥底では分かっている。
ただ、その思いは簡単に形を伴って常に自分のそばにいてくれるとは限らない。答えを探し続け、手に入れたい答えを磨き続けるのは簡単なことではない。
確かな明かりもなく、足元しか見えない暗い道を彷徨いながら、明け方になってようやく見えてきたまだ薄暗い後ろを振り返って気付くのは、自分が作ってきた、とても美しいとはいえない足跡。
未来は現実の形になってみて初めて、それを自分が欲していたものだったと気付くのだ。
白い手紙には宛名は書かれていない。書く必要がないからだ。それは未来の自分に向けて出されたもの。未来の自分は正しく受け取ってくれるだろうか。飛び立った時点では、脆く儚い祈りに過ぎない。
欲しいものを欲しいと言え。
格好悪くても、自分の足で、その姿で前を向け。
たとえ挫けても、何度でも未来を描き直せ。
自分の意志で一歩踏み出すことで初めて光の羽根は与えられる。
Auroraは、そう鼓舞してくれる勇気の曲だ。
ノスタルジーの正体
バンプの曲を聴いていてよく感じるのは、幼少期の懐かしさや遠い過去の記憶を呼び覚ますノスタルジーだ。それを感じさせる楽曲は挙げればきりがないほどある。
それこそ、バンドの名刺代わりの代表曲「天体観測」にだって感じるし、尻尾の生えた内緒の友達が出てくる「R.I.P.」、「君の願いはちゃんと叶うよ 楽しみにしておくといい」と歌われる「魔法の料理~君から君へ~」、一本のコーラを挟んで座った「記念撮影」など、郷愁あふれる歌詞がいつも胸に刺さる。
ノスタルジーがあらゆる楽曲に通底する想いといってもいい。
この曲にも全編通じてそれが漂っている。懐かしいような、くすぐったいような、ふわふわするような心地よさがありつつ、それでいて不安も伴う落ち着かない気持ち。
説明のしようもないけれど、自分の中に確実にあるものの、普段はどこか奥のほうにしまわれていて思い出すこともない感情。それが一瞬で引き出されてしまう不思議な力が彼らの曲にはある。
Auroraの中にも、散りばめられた「魔法」「クレヨン」といったキーワードが郷愁感を掻き立てる。でも、単体の言葉によって郷愁感がよみがえるというより、それはまるで楽曲全体から立ちのぼる湯気のようだ。
普段は見えない場所にあるけれど、常に自分とともにあるもの。それがノスタルジーの正体。
その一歩を踏み出せ
大人になってすべてを理解したような顔をして、やりたいことを押し殺し、理性的に振る舞うことに意味なんかない。
いつだって自分の心の動く方へ。
理不尽と戦い、思い通りに進まないことが繰り返され、自分の気持ちが正しく伝わるのか、本当にこの道でよいのか何度も自問自答する。
本当に大切なことも、魔法の使い方も、実は最初から知っていた。勇気をもって、自分自身の言葉で、その一歩を踏み出すべきだと教えてくれるのがこの楽曲。
自分の持つクレヨンで自由に描かれたもの。その象徴がタイトル「Aurora」に表現されている。
何度聴いても色褪せない名曲。
自分の気持ちと向き合いながらもう一度聴こう。
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