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雑草と官報

実家の近くに公園がある。子供たちだけでなく、保育園の外遊びや、犬の散歩コースとしても使われている、それなりに大きな公園だ。一面の広いグラウンドの周りには、散歩道が設けられ、その道を進んでいくと、ローラー滑り台などの遊具がある、もう1つの公園へと繋がっている。もともと雑木林だった場所を切り崩して作ったのか、ローラー滑り台のある場所と、グラウンドのある場所の間は、小高い雑木林で隔てられている。

小学生の頃はここでよくサッカーをしていた。長方形のグラウンドは、長辺の一方に石積みの壁があり、そこに向けて無心にボールを蹴り込んでいた。しかし、あまり強く蹴り込むと、反対側に存在するヘドロのようなものが浮かぶ、赤茶色に濁った池にボールが飛び込んでしまうことがしばしばあった。

ある時、公園にこんな立て看板が出された。「公園内でのボール遊び禁止」。おそらくそれは、公園を犬の散歩道として利用している人からのクレームによるものだった。グラウンドの周りに散歩道があるためか、そこを利用している人たちが、野球やサッカーをしているボールが、道に飛んでくるのではないかということを危険に思ったのだろう。道はグラウンドよりも少し高いところにあるため、そこまで頻繁にボールが飛んでいくわけではないにも関わらず、ボール遊びをしてはいけないという号令が出されたのは、小学生高学年くらいのことだった。

さすがにそれはおかしいのでは、ということになり、ボールで遊ぶことが禁止されることはなかったものの、だんだんと、公園で遊ぶ子供たちが少なくなっていったのは確かだった。それは、自分自身が年齢を重ね、公園から疎遠になるにつれて、より一層感じるようになった。確かにそう感じたのは、ローラー滑り台のある方の公園の芝生が、雑草で覆い尽くされている光景を見た時だった。普段、子供達が遊び、地面が踏みならされていれば、雑草がここまで野放図に伸びることはない。それから、数ヶ月毎に公園管理の下請け業者が来ては、草刈機で雑草を刈り取り、公園は元の姿に戻る、ということの繰り返しだった。

そんな折に、たまたまツイッターを見ていると、この公園の名前が目に入ってきた。台風の情報を得るために地元のことを検索していた時だった。しかし、それは全く台風とは関係のない情報だった。その内容は以下のようなものだった。

2017年1月25日 本籍・住所・氏名不詳・推定年齢50歳から65歳くらいの男性、身長181cm、小太り、禿げ、遺留品なし          上記のものは、●●公園内で死亡しているのを発見された。死亡時期は、平成29年1月25日午前1時頃。

いわゆる官報による身元不明者の行旅死亡人の情報だった。

なぜかこれを見た時に、私の心の中で、時の流れとともに公園が色褪せていく風景の、最後の1ピースが埋まってしまったような気がした。それは単に、今まで私が公園の陽の部分しか知らなかっただけで、初めて陰の部分を垣間見たにすぎないのだが。しかし、このことは、偶然この時だったということ以上に、なにか時代の流れを映し出している気がしてならなかった。

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