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Yale Summer Session Law Seminar (3/8) - Law Seminar Part 1

今回は、YSSの主要科目であるLaw Seminarについて詳細を書きます。それなりの量になりますので、2回に分けます。

(なお、写真は、Yaleの施設であるPayne Whitney Gymです。4階の有酸素エリアを移していますが、同じ階にウェイトトレーニング用のマシンもたくさんあります。)


概要

目的・スコープ

最初に受領したSyllabusによると、以下のような感じです。すべて終わった後に読み直してみると、書かれていることは概ね正しいように思います。要は、米国法の様々な分野の基礎を学ぶための科目です。どこのロースクールのサマーでも同じよう内容が教えられているのではないかと推測します(ただ、後日、University of Texas のサマーについて聞いてみたところ、法律というより、academic English一般の習得に力点が置かれていたようです。ロースクールによって違いはあるかもしれません。)。

This content-based class is taught by an attorney and professor of law. The lectures and Socratic method of teacher-student dialogue are intended to provide an authentic learning situation that mirrors a lecture class in a U.S. law school.
Students are introduced to the American system of law and its legal structure. Students will gain an overview of several areas of law including Constitutional Law. Class content include several sources of American law including the Supreme Court Case Law, Civil Procedure, Constitutional Law, Criminal Law, Torts, Family law, among others. Contemporary US legal principles and their historic origins are presented including the right to freedom of speech, religion, privacy, and civil rights.
Students also prepare their own arguments based on their reading of an actual case and participate in teams of four in a Legal debate before a panel of student judges and the professor.

Course Structure
• This is primarily a lecture-based course.
• Professional guest speakers will enhance course material.
• Field trips for experiential learning.
• Students will prepare a legal argument and participate in a moot court debate.
• Students will prepare a short case brief
• Final written assessment.

Learning Outcomes
• Identify the basic components of the American Legal System and how they work together.
• Identify the variety and levels of courts that exist in America.
• Express an awareness of the importance of the United States Supreme Court.
• Develop a working knowledge and understanding of Constitutional Law and Supreme Court Cases.
• Define basic legal terminology and basic legal doctrines.
• Identify the various stages of a civil lawsuit.
• Develop legal argument and debating skills.
• Develop a working knowledge of the core principles of several areas of civil and criminal law.

Syllabusより

以下、Syllabusについて、いくつかコメントです。

Socratic Methodが謳われていますが、これは本当にそのとおりでした。授業は、かなりインタラクティブに進行しました。学生は常に発言の機会を伺っており、あらゆる質問・意見が飛び交う白熱した授業でした。これに対し、講師は手際よく各発言を捌いており、かつ、学生を泳がせつつも締めるところは締めるという感じで、その手腕には感服しました。

Debateについては、最終週に行いました。Law Seminarのクライマックスです。私が参加したグループは、Affirmative Actionをディベートのトピックに設定しました。この点は、次回書きます。

Filed Tripや、Guest Speakerについても次回書きます。

講師

Professor Robin Espositoが講師です。元々private practiceをやっていたようですが、今は研究のみとのことでした。現在は、Quinnipiac Universityに所属しているのだと思われます。実務家としては、Juvenile court prosecutorなど、児童関係の実務に携わっていたようです。

なお、講師は、YSSのLaw Seminarを担当するのが今年で2年目とのことでしたが、担当するにはあらゆる法分野に精通していないといけないので、知的に楽しいとおっしゃっていました。この点は、非常によく理解できます。私自身も、YSSでは、日本のロースクールに通っていたとき以来初めて(およそ10年ぶり)憲法等の基礎科目に触れ、知的好奇心を大いに刺激されました。特に、憲法については、日本国憲法の沿革上、日米で似ている条文はあるものの(もちろん天皇制など全然違う規定もありますが)、社会的文脈が異なる以上、議論のあり方が異なるなど、比較憲法の観点から大変興味深かったです。日本の憲法を学び直すと更に面白いのではと感じたので、日本の憲法の基本書を買いました(←日本のAmazonで買ってリモートでスキャンした)。副読本として度々参照しました。具体的には、日本評論社が出している「憲法」という本ですが、私が学生のときにはなかったように思います。

教科書

"The American Legal System for Foreign Lawyers"というテキストを使いました。私はKindleで買いました。なお、昨年の受講生にも聞いたところ、同じテキストだったようです。

授業においては、同書から予習箇所を指定されるものの、講師が授業用のプレゼン資料(パワーポイント)を事前に配布してくれるので、実際は購入しなくても問題ないと思います。ただ、テキストの内容は非常に面白かったです。タイトルにあるように、Foreign Lawyer、特にCivil Lawのバックグラウンドを持つLawyer向けに書かれているので、問題意識がわかりやすく説明されていたと思います。

取り扱った法分野(Topic, Case)

Constitutional Law

Topic

Topicは、以下のとおりです。憲法における最重要論点はやはりFederalismだと思いますが、その他のものについても総花的に触れていたのではないかと思います。

  • Federalism (Article 1, Section 8 of the U.S. Constitution, Supremacy Clause)

  • Structure of Judicial System; federal and state court jurisdiction

  • Common law and Stare Decisis; judicial review

  • Source of law (equity and common law); restatement(*1); hierarchy of binding authority

  • Common law v. Civil law

  • Juries

  • Bill of Rights

  • Freedom of Press; Campaign Finance

  • Second Amendment

  • 14th Amendment; Discrimination Test (judicial scrutiny)

(*1) Restatementは、Case Lawの積み重ねから生成され、定着した規範を成文化したものです。かねてよりその存在は認識しており、果たしてどれほどの粒度の規定になっているのか(特にCivil Lawにおける実定法との比較において)、興味を持っておりました。そこで、WritingのFinal Project(別途書きます。)のリサーチの際に、TortsとAgencyのRestatementを読んでみました。私が読んだ限りでは、全体的にイマイチ整理されていないような印象も受けましたが、成文化の努力は成功しているように思います。

Case

扱ったCaseは、以下のとおりです。いくつかは、以前から私も認識していた事例です(なお、一応、法学部で英米法を履修した経験があります。また、米国最高裁の動向については、その政治的ダイナミクスから、一人のウォッチャーとしてかねてから関心を寄せてきたところです。例えば、日本語でも以下の文献を数年前に読みました。)

  • Gonzales v. Raich:連邦政府が、ドラッグをどこまで取り締まれるか(interstate commerce clauseの射程)という論点。Federalismが、米国憲法における一大論点であることは、YSS通じて痛感することになりますが、本判決は、そのことを如実に表し、かつ、比較的最近の事例(2005年)なので、最初に取り上げられたのだと思います。

  • York v. Wahkiakum School District :学校スポーツでのドーピング検査について連邦憲法・州憲法の保護(due process)が及ぶかという論点。結論は、「連邦憲法では保護されないが、州憲法では保護される'という興味深い対比を示すものになっています。Implicationとして、米国の実務家は、当然ではあるものの、州法にも精通していなければならないということのようです。

  • Arizona v. United States:アリゾナ州法上の移民の取り扱いが連邦法に反しないか。これもまたFederalimsの難しさを伺わせる事例です。最近だと、連邦政府がTexas州の国境制限措置が許容されないとしてTexas州を訴えたという件が話題になっており、非常にactualな問題であることが分かります。https://www.texastribune.org/2023/07/24/texas-border-rio-grande-floating-barrier-greg-abbott-lawsuit/ なお、本判決において、Arizonaがいかなる原告適格で連邦政府を訴えたのか、付随的違憲審査制の建前との関係もあり、気になったので質問したのですが、講師に問題意識をうまく伝えられず悔しい思いをしました。なお、実務家の習性か、Caseを読んでいると、結構procedural posture(なんでそういう訴訟に至ったのか)が気になるのですが、授業のFocusは、むしろsubstance(実体法上の論点)にあるので、途中から私もあんまり気にしないようにしました。

  • Texas v. Johnson :政治的な意図をもって国旗を燃やす行為が表現の自由としてFirst Amendmentで保護されるかという論点。「行為」がspeechに含まれるかという著名な論点です。次回、少し補足で書きます。

  • New York Times v. United States :公人に対する名誉毀損がいかなる場合に成立するか。著名なactual maliceの法理に関する判決です。

  • Citizens United v. FEC :法人による選挙キャンペーンが、表現の自由の保護を受けるかという論点。次回、少し補足で書きます。

  • Roe v. Wade :中絶の権利を認めた判決。最も著名な最高裁判例の一つ。当該判例は、昨年、Dobbs判決(後述)で覆され、その結果、中絶に関する論点は司法の場から立法府(ひいては住民の意思)に議論の場を移すことになります。各州の動向については、日々紙面を賑わせています。例えば、最も最近だと、abortionの権利を認めるかが実質的な争点になったOhioの住民投票で、pro-choice派が勝ったようです。https://www.nytimes.com/2023/08/09/us/politics/ohio-election-abortion-voters.html#:~:text=Abortion%20is%20legal%20in%20Ohio,proceeded%20%E2%80%94%20which%20it%20still%20is.

  • Dobbs v.Jackson Women's Health Organization :上記Roe判決を覆した判決。中絶を規制する権限について、 “returned to the people and their elected representatives"という言葉が有名です。これを読んだときは、「それは各州の人民が決めること」という風にそれっぽく装っているが、結局、その意見を書いているJudgeが中絶に反対しているだけじゃね?、という印象でした。いずれにせよ、非常にControversialな判決であり、世界中で議論されています。最後に行ったDebateでもこれをトピックにしたチームがありました。

  • Snyder v. Phelps :他人の葬儀を妨害するような態様で行われた政治的言論がFisrst Amendmentで保護されるか。

  • McDonald v. Chicago:2nd Amendment (right to arm)に関係する判例。

  • Brown v. Board of Education :公教育の場における黒人差別を撤廃した(=従来のsegregate but equalという法理をrejectした)著名判例。

  • Roper v. Simmons :犯罪実行時に18歳未満だった少年に死刑を科すことができるか。Due Processの論点。

  • Commonwealth v. Robertson:・・・なんだっけ?

Civil Procedure

Topic

扱ったTopicは以下のとおりです。民訴特有の細かい手続論というよりは、連邦裁判所と州裁判所の管轄が主な問題意識であり、これは畢竟憲法の問題なので、Consitutional Lawの一部として説明されたように思います。

  • Subject matter jurisdiction and Personal jurisdiction

  • Diversity of Citizenship

  • long arm statute

Case

扱ったCaseは以下のとおりです。

  • Cegilia v. Zuckerberg :FacebookのZuckerberg氏のdomicileが争われた著名な事例です。domicileとresidenceの違いは、外国人にはいまいち分かりにくかったです。

  • Dailey v. Popma :インターネット上の名誉毀損行為についてどの州の裁判所が管轄を持つかが論点。日本法だと不法行為の発生地ということで条文は割と明確であり、上記名誉毀損行為においては、各被害者の所在地の裁判所が管轄を持つということでいい理解ですが(←当該理解でよいのかは、未調査です。)、米国だと、それだと被告の防御が各州に拡散しすぎてしまうので、そのような考えは取り得ない、と考えられているようです。被告が故意による不法行為者であることを考えると、中々違和感ある結論のように思うので、もうちょっと分析してみてもいいかもしれません。

Torts

Topic

Topicは以下のとおりです。

  • Intentional Torts (assault, battery, false imprisonment, defamation, invasion of privacy, intentional infliction of emotional distress, trespass) :日本の実定法では民法709条一つだけで済ませていますが、これと比べると、非常に細かく類型化されているのが印象的でした。なお、日本の民法でも、コンメンタールなどを見ればわかるように、ちゃんと不法行為の類型ごとに解釈論が展開されているのだとは思います。ただ、アメリカの故意不法行為の類型化は、損害賠償額などの効果とも結び付けられていると聞き、この点は特殊と思いました。また、故意不法行為の一つであるDefamationについて、Common LawのDefamationは摘示した事実がfalseである必要があるとのことでしたが、本邦では、true/falseは名誉毀損の成否には関係なくて、せいぜい公人相手の言論において真実証明による免責が認められるかという限度でしか問題にならないので、これも相違点かと思いました。

  • Elements of Negligence (duty, breach of duty, causation, harm)

  • Proximate Causation; intervening superseding cause:相当因果関係のような議論です。なお、言語の問題ですが、因果関係の論点は、事柄の性質上、仮定法(あれなければこれなし)を用いて英語をしゃべらないといけないので、中々辛かったです…。Writing のClassでは、一度、そのためだけの練習(but for を使った英作文)をみんなでしました笑。

  • Defense of Negligence (contributory negligence, etc.)

  • Strict Liability (ultra-hazardous activity, product liability) (*2)

  • Remedies

  • Respondeat Superior:使用者責任のことです。この論点は、WritingのFinal Projectでも検討することになりますが、追って書きたいと思います。

(*2) Ultra-hazardous activityの法理が、無過失責任を根拠付けるものとして一般的に是認されているのが興味深かったです。この点、日本だと、工作物責任(民法717条)や、動物の占有者の責任(民法718条)など断片的に条文化されているだけのように思いますが、上記法理はこれを更に一般化したものだと思います。背景を推測するに、米国では、ultra-hazardous activityに対する規律のあり方として、公法的な事前規制(一般的禁止又はライセンスの導入など)よりも、不法行為法による事後調整が好まれているのではないかと想像しました。これに対し、日本だと、ultra-hazadous activityは、一般に公法の規律対象になるような印象です。この辺は、学部のときに読んだ、「法の実現における私人の役割」にそのようなことが書いてあったような気がするので、いつか読み返してみたいと思います。

Case

扱ったCaseは以下のとおりです。

  • O'Connor v. McDonalds:帰宅途中の従業員による不法行為について使用者責任が生じるかという論点。FloricかDetourかという著名な論点のようです。当該論点は、WritingのClassでもFinal Projectの中で取り扱ったので、追って紹介します。

  • Aleo v. SLB Toys USA, Inc (product liability)

  • Anglin v. State Department of Transportation

  • Cabaness v. Thomas

  • Doe v. Miles Laboratories, Cutter Laboratories Div

  • Ewans v. Wells Fargo Bank, N.A

  • Katko v. Briney

  • Knight v. Jewett

  • Laaperi v. Sears, Roebuck Co., Inc

  • Palsgraf v. Long Island Railroad Company

  • Patch v. Hillerich

  • Sauer v. Hebrew Inst. of Long Island

  • Weirum v. RKO General, Inc

Criminal Law

Topic

Topicは以下のとおりです。

  • Conviction Formula (Mens Rea + Act + Concurrence + Proximate Cause + Beyond Reasonable Doubt):このFormulaは、実体法の問題と、証明の問題が混在しているきらいがありますが…。

  • Inchoate crimes (conspiracy, attempt, solicitation)

  • Defenses to crime (insanity, self defense, etc.)

  • Punishment

Case

扱ったCaseは以下のとおりです。

  • Commonwealth v. Carter:著名な事件らしいですが、「死ね」という趣旨のテキストを送信する行為と、被害者の死亡の間に、被害者の自殺という仲介行為があったときの因果関係の有無が論点でした。

  • People v. Goetz:正当防衛が論点。

  • People v. Wolff:責任能力が論点。たぶん日本語で聞いてもわからないような専門用語がたくさん出てきました。

  • Smallwood v. State:HIV感染者が強姦行為に及んだ場合、殺意の有無。

Criminal Procedure

Topic

Topicは以下のとおりです。

  • Grand jury

  • police investigation (stop and frisk; arrest)

  • Miranda warning

  • Search and seizure

  • Bail; arraignment

  • Sentencing

日本における刑訴の議論は、米国のそれを参照することが非常に多いので、全体的に頭に入ってきやすかったです。

Family Law

Topic

Topciは以下のとおりです。

  • Marriage

  • Premarital Contracts

  • Broken Engagements

  • Divorce

  • Child Custody

  • Surrogacy Contracts

Case

扱ったCaseは以下のとおりです。

  • Aronow v. Silver:婚約破棄の場合の婚約指輪の帰属。とてもAmericanな論点のように思いました。日本では、単に契約解釈の問題として、停止条件が成就しなかったんだから返せ、ということで終わるように思います。

  • Carroll v. Carroll:養育費支払わない親の親権を停止できるか。

  • In Re Petition of Doe

  • Loving v. Virginia:異人種間の結婚を禁じた法律の合憲性(結論違憲)。

  • Obergefell v. Hodges:同性婚は、Equal Protection Clauseに基づき、異性婚と同様の保護を受けると判断。これも非常に話題になった近年の判例です。判決文には、次のようなとても文学的な表現が出てきます。"No union is more profound than marriage, for it embodies the highest ideals of love, fidelity, devotion, sacrifice, and family. In forming a marital union, two people become something greater than once they were."

  • Terrel v. Torres:凍結精子の取扱いについて

Business Law

Topic

Topicは以下のとおりです。

  • Basic Forms of Business (sole proprietorship, partnership, LLP, corporation)

  • Employee v. Independent Contractor:不法行為法のトピックとも交錯しますが、使用者責任の論点です。Writing のFinal Projectでこの観点からも検討しましたので、別途書きます。

  • Title VII and Employment Law; EEOC

  • Harassment

  • Affirmative Action

Case

扱ったCaseは以下のとおりです。

  • Steelworkers v. Weber

  • Van Dyke v. Bixby:医療過誤のケースで、医者の間に組合契約が成立していたかが論点。

Business Lawは私の専門ではあるのですが、時間もそれほど割かれず、講師も教えていてつまらんとおっしゃっていて、学生も全然聞いておらず盛り上がらなかったので、まあ面白くはなかったです。LL.M.の方でしっかり学びたいと思います。

次回書くこと

次回は、Law SeminarのPart 2として、①Friday Classes (Field tripなど)や、②日々の宿題(Bluebook Topics)、③Final Debateなどについて書こうと思います。

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