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【第29回】推定と検定

本記事では、情報Iと数学I・Bにおける推測統計学の扱いについて、今一度考え直してみたいと思います。

つまり、数学の授業との連携を考えていく際に、情報Iで扱う推測統計学の内容としてよりふさわしいのは「区間推定」か「仮説検定」かというテーマで記事を書いてみます。

前回記事まで

これまで、本シリーズ記事では高等学校における統計・データ分析に関する学習内容を次のように捉えて考えてきました。
青が記述統計学、赤が推測統計学、黄が確率論、緑が機械学習の領域を表しております(おおよその分類)。

図1: 数学I・A・Bと情報I・IIにおける統計・データ分析-前回提示-
(高等学校学習指導要領解説をもとにkensty作成)

仮説検定の授業実践から

上記のような捉え方のもと、数学Iの「仮説検定の考え方」の内容を情報Iの授業で導入部分から扱う試みのご報告が前回までの記事(第13~26回)でした。

そもそも、このようなことを考え始めた理由は次の2つです。

  • 数学Iは「分散・標準偏差」から始まり「相関関係」で記述統計学の領域が完結している。推測統計学の「仮説検定」の考え方を、データの分析の最後に扱うよりも自然な流れを模索してみたかった。

  • 仮説検定の「考え方」を直感的に捉えながら理解をするのならば、情報Iの授業の中でモデル化とシミュレーションを学んだ流れで、コンピュータを利用しながら考えていくほうが理解しやすいのではと考えた。

仮説検定の指導上のハードル

数学Iで学ぶのは記述統計学が中心であり、確率分布を未習の状態で推測統計学の「本丸」である仮説検定の考え方を指導していくのは、予想以上に困難がありました。詳しくは下記の記事にまとめておりますので、よろしければご覧ください。

仮説検定の考え方の理解を難しくしている原因はどこにあるのでしょうか。
それは、標本の性質を利用して母集団の性質を推測しているプロセスが分かりにくいところにあるのかと考えています。
Pythonや表計算ソフトを用いればp値は簡単に求められますが、そのp値が何を指しているのかが直観的な説明にとどまっているために、理解が曖昧になりがちになります。
その結果、帰無仮説を棄却するときの根拠となる統計的な推測の部分がぼやけてしまい、意味を理解しないまま、機械的にp値と有意水準の比較で判断をしてしまっているように思えました。

次回記事から

2021年度の仮説検定を扱った授業実践を通して得た反省点から、情報Iの授業における推測統計学の扱いについて、もう1つのアプローチを考えてみることにしました。

端的に言うと、数学Iで「仮説検定の考え方」を学ぶ前に、情報Iで区間推定の基本的な考え方を扱うというものです。

すなわち、上の図を次のように修正してみます。

図1: 数学I・A・Bと情報I・IIにおける統計・データ分析-今回修正-
(高等学校学習指導要領解説をもとにkensty作成)

それでは、なぜこのように考えたのかをまとめて参ります。

区間推定とは

まずは区間推定についておおよその考え方をまとめます。
推定とは、母集団の特徴量(母平均や母分散)である母数を標本のデータをもとに推測することをいいます。
標本はあくまで母集団の一部を取り出したデータであることから偏りが生じてしまう可能性がどうしてもあるため、母数の値が高い確率で含まれるような範囲を推測をするというのが区間推定です。

区間推定の考え方を学ぶ意義

区間推定は、母数を標本のデータをもとにして、確率に基づいて推測するという流れであり、推測統計学を初めて学んだときに、その基本となる考え方を受け入れやすいと思います。
仮説検定が帰無仮説という「棄却されることを目指している主張」に基づいて確率分布を考えるのと比較して、標本のデータから母集団の確率分布を推測するというのは直接的で分かりやすいものと思われます。
また、視聴率の調査や選挙の出口調査など、日常的にも推定が役立つような例が豊富にあることも理解の助けになります。
ほとんどの統計学のテキストが「推定」、「検定」の順に説明がされているのも納得ができます。

区間推定における、推測統計学の基本的な考え方がきちんと理解できれば、信頼度と有意水準、信頼区間と棄却域の対応は表裏の関係ですので、仮説検定の考え方がより理解しやすくなるのではないかと考えます。

ただし、数学Iのデータの分析の分野で扱う内容はあくまで「仮説検定の考え方」です。
したがって、情報Iで「区間推定の考え方」をコンピュータを活用して学び、数学Iで「仮説検定の考え方」を学ぶときの理解の基盤を作ってみようというのが今回の提案になります。

このような考えのもと、次回の記事から区間推定を「情報I」の授業で学ぶような設計を考えて参りたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。