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蛇口

11月3日、本日の予報は晴れ。
だけどヒートテックとジャケットを重ね着しなきゃ寒さで凍えそうな木曜日。
クラス移動のために数分外に出るだけで指先がかじかむ。

「みんなも流石に今日は厚着してるよなぁ」と思いキャンパスを見渡すと、ところどころに半袖と短パンで堂々と歩く学生の姿が見える。

小学校の時クラスに1人は必ずはいた、1年中薄着の彼らのことを思い出した。
「絶対寒いって」
そう思いながら、僕はポッケに手を入れてどこかにまだ残っているかも知れない温みを探す。

そんな中、次のクラスに移動する前に一回行っておこうと、
クラスの近くのトイレに向かった。
すぐに用を済ました僕は手を洗いにシンクまで行くと、そこに並んでいる、
センサーで水が出るタイプの蛇口の横の温度調節のバーが、
全て赤い方に傾いているのに気がついた。

きっと手動でノブをひねるタイプの蛇口だったら、僕はいつもの癖で右手側のレバーを回しただろう。でもセンサーに反応して出てきたのは温かいお湯。
思わず、いつもより長い時間手を洗っていた。

正直いうと、途中からは手を洗うのも忘れてかじかんだ手をお湯で温め始めていた。その時、ふとこのシンクを「温かい」に調節した人のことを思った。

きっとその人は、自分が手を洗おうとした時冷たい水が出てきて
それを反射的に避けて温度を調節したのだろう。
この時、この人が自分のために温度を調節したのが、まるでそのシンクに残された
その人からのささやかな贈り物の様に感じてなんだか少し嬉しくなった。

誰かのために残された優しさじゃなくても、結果的にそれは誰かの冷え切った手を温めてくれたのだ。

「ありがとう」というまでもない小さな気遣いが
日常には溢れているのかも知れない。

今日も1日。

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