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【野球】ようこそ横浜DeNAへ 大田泰示獲得の是非は


 さすがに翌日の(というか最早今日の)仕事に響くのでいい加減寝ようと思った2021年12月13日深夜。その報せは突如として飛び込んできた。横浜DeNA、大田泰示獲得決定的――。

 北海道日本ハムファイターズを〝ノンテンダー〟となっていた大田の獲得報道であった。事前の報道で具体的なライバル球団名を出していたのは一部のタブロイド紙のみだったものの、本人の「ハゲそうなほど悩んでいる」とのコメントから見ても、一応の争奪戦を制した形だ。

 率直に言うと、よく来てくれたなと思った。もし本当に、それこそタブロイド紙が報じた広島あたりが声をかけていたとしたら。仮にも佐野恵太、桑原将志、タイラー・オースティンと今季の成績だけでいえば、レギュラーが固まっているといって差支えないDeNAより、鈴木誠也が抜ける広島の方が魅力的に映ってもおかしくないはずだ。

 時を遡る。私はシーズン終了直後、オフの補強に対する考えをまとめるべく筆を執った。その時は、中継ぎや捕手、内野手に関しては触れたものの、外野手に関しては一切と言っていいほど触れなかった。前述のポジションに比べて急務ではなかったし、何より市場にこれといった外野手が出ていなかったからだ。

 しかし、その後状況は一変。日本ハムが秋吉亮、西川遥輝、大田の名前を保留選手名簿に載せなかったことで事態は一気に動いた。移籍の可能性を視野にFAを行使したのが結局、中日・又吉克樹だけだったこともあり、金銭と枠のリスクのみで獲得できる彼らは、がぜん注目の的となった。

 そのような中でいの一番に『DeNAが大田調査』の報道が出る。ここで私も一度先入観を取っ払って考えてみることにした。飽和状態の外野手を補強する、その是非について。


レギュラー外野陣にはいずれも不安が残る現実

 今シーズンのレギュラー外野手の数字は以下のとおりだ。

佐野恵太 .303 17本 72打点 OPS.842
桑原将志 .310 14本 43打点 OPS.843
オースティン .303 28本 74打点 OPS1.006

 3人ともOPSが.800を超えており、レギュラーとして申し分ない成績だ。ここに割って入るのは数字上で言えば至難の業と言える。しかし佐野は守備難、桑原は今年こそ復活したもののここ数年の不振、オースティンは故障と、三者三様のリスクを抱えているのは事実だ。また、ここ数年不動のレギュラーだったネフタリ・ソトも成績は下降気味。佐野、オースティンを一塁に回して外野を1枠開けるオプションも考えられる。

 外野が空いた場合、現状だと4番手は楠本泰史、細川成也、神里和毅、関根大気、蝦名達夫の争いで、この中から抜擢ということになるが、代打で輝きを見せた楠本はともかく、その他の選手には現状荷が重い。しかし楠本を抜擢した場合、代打に大穴があくことになる。

控えもペラペラ

 控え選手に目を向けても、層の薄さは大きな懸念材料だ。まず代打。今シーズンのDeNAの代打成績は打数の多い順に以下のとおり。

楠本泰史(左) 44打数 .295
神里和毅(左) 41打数 .171
関根大気(左) 39打数 .231
山下幸輝(左) 34打数 .235
倉本寿彦(左) 26打数 .231
細川成也(右) 26打数 .115

 万が一(というほど確率は低くないが)、レギュラー陣にアクシデントがあり、楠本が4番手としてそれなりにスタメンに食い込んだ場合、代打は悲惨なものとなる。そして異常なまでに左が並んでおり、偏りは否めない。
 ここに右の大田が加わることで、万全の状態であれば右で一発のある大田、左の好打者楠本でベンチワークがしやすくなる。レギュラーが1人欠けても、どちらかは代打要員でベンチに残るのだ。

 守備面にも期待が持てる。外野の守備固めは佐野とオースティンが対象だが、基本的にここには関根、神里、細川が入っている。ここに代打大田からの守備固めのオプションが加わるのは大きい。

 DeNAのオーダーを考えた場合、佐野、オースティンは2~4番に入るケースが多い。実践的に考えると、9番投手のところで代打を使った場合、彼らのうち片方ないし両方の打席まで完了してイニングが終わるケースがままある。そこから継投となるが、このまま9番に投手を入れると、現代野球の継投タイミングから言っておおよそあと1回投手に打席が回る。そこでもう一度代打を消費するのであれば、打席が回ってこない佐野かオースティンのところに投手を入れ、守備固めでもある大田にもう1打席与えたほうが期待値は高いと言えるのではないか。

 守備の面でももちろん期待は高い。大田は2020年、ゴールデングラブ賞を獲得しており、来年32歳とまだ老け込む歳ではない。外野守備には大いに期待だ。また、ここは未知数だが、大田はもともと内野手でわずかながら一、三塁での出場もあり、適正次第ではそちらを試してもよいかもしれない。宮﨑のバックアップまでできればこれ以上ない補強だ。


東海大系列との関係修復

 最後に、これは憶測の域を出ないが、東海大系列との関係修復が目的ではないかとの見方がある。今からの話は複数のサイトの記述を総合したものであり、ソースとしては信頼性に欠くことに注意されたい。

 話は遡ること19年前。当時のドラフトはまだ自由獲得枠の全盛期。有力な大学、社会人の選手は事前に意中の球団と折衝し、ドラフト前に事実上入団を確定させることが可能な時代だった。

 各球団は2枠の自由獲得枠の中で、時には裏金や法外な契約金を駆使し戦力補強を進めていた。そんな2002年のドラフト。横浜は東海大の久保裕也(巨人-横浜DeNA-東北楽天・現東北楽天2軍投手コーチ)の獲得を目指していた。前年には同じく東海大の小田嶋正邦(横浜-巨人)を獲得し、根回しもばっちりだ。

 しかし、当然ながら選手たちには他球団もアタックを行うわけで、自由獲得枠の候補選手には、フラれてもいいように複数声をかけるのが基本である。このとき、横浜は久保のほかに日本大の村田修一(横浜-巨人-BCL栃木・現巨人打撃兼内野守備コーチ)、立教大の多田野数人(MLB-四国IL徳島-北海道日本ハム-BCL石川・現北海道日本ハム2軍投手コーチ)、法政大の土居龍太郎(横浜-千葉ロッテ)らに声をかけたと言われるが、なんと全員から内諾を得られてしまった。

 このとき球団内での評価は久保よりも村田、多田野だったらしく、横浜サイドは久保との約束を一方的に破棄し、久保へ指名順の繰り下げを打診したと言われている。これに激怒したのは東海大。久保は担当スカウトと一緒に巨人へかっさらわれ、以降、横浜と東海大系列の仲は冷戦状態へと突入した。余談だが、皆様ご存知の通り、このあと多田野は例の〝スキャンダル〟が発覚し結局指名できなくなってしまうのも皮肉である。

 結局このあと、多数あるはずの系列校からは2009年に東海大望洋高の眞下貴之、2016年に東海大北海道の水野滉也を指名する程度で、客観的に見て完全な雪解けとは言い難い状況だ。一方で、渦中の久保が巨人を戦力外になった際には手を差し伸べるなど〝贖罪〟は尽くしてきた印象はある。

 そんな折、ノンテンダーという形でいきなり放り出された東海大相模高卒の大田泰示が目の前に現れた。憶測が本当であれば、1軍戦力として計算できて、補償不要で、かつ出身校との関係修復の一助も期待できるとなれば、それはもう獲得に乗り出さない方がどうかしている。

 とはいえ、そんな打算的考えは選手たちには一切関係ない。一ファンとしては純粋な戦力として大田には頑張ってほしい。過去のオールスターのプラスワン投票で、1票投じたくらいには応援している。

 報道によると年俸は5,000万円だそうだ。もちろん、出来高は別途ついていると思うが。大田には是非出来高も満額受け取ってもらって、1億円プレイヤーに返り咲いてもらいたい。それで今度こそ正真正銘、胸を張ってのFA行使となるなら、それもそれで一興だ、と思う。

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