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DeepX 冨山翔司氏 インタビュー(後編)~建設機械自動化ソフトウェア開発で変革する建設現場の未来~


【はじめに】

前回に引き続き、株式会社DeepX(ディープエックス)冨山翔司氏のインタビュー記事をお届けします。インタビュー後編では、建設機械の自動化が建設業界にもたらすメリットや今後の課題についてお伺いしています。

冨山翔司
株式会社DeepX 代表取締役
東京大学工学部を卒業後、同大学大学院工学系研究科修士課程を工学系研究科長賞を受賞し卒業。学部3年より東京大学松尾研究室にて深層学習の研究に打ち込み、また企業との共同研究プロジェクトをリーダーとして多数牽引。DeepX入社後、油圧ショベル自動操縦プロジェクトなど、従来自動化が困難とされてきた領域での自動化プロジェクトを手がける。2019年6月に取締役就任、2023年1月より代表取締役に就任。車両系建設機械運転免許保有。

建設機械の自動化によって、現場の安全性・生産性向上が期待できる

岡本:インタビューの前半では、ケーソンショベルやバックホウ、移動式クレーンの自動化に取り組まれているとお伺いしましたが、今後は他の建設機械の自動化にも取り組まれていくのでしょうか?

冨山:幅広い建設機械に対応できる汎用性を確保していることが、当社の自動運転システムの特徴です。ひとつの基盤システムからクレーン用、バックホウ用にカスタマイズして構築していますので、他の建設機械の自動化も最小限のコストでの開発が可能です。現在では、重機や建設機械であれば、どんな種類でもご相談を受けられる開発環境がおおむね整ってきています。

自動化に対応した建設機械のバリエーションは増やしていけますが、当社が開発している自動運転システムがフィットしやすい現場というのはやはりあります。前半でご紹介したニューマチックケーソン工法の現場は、地下の閉鎖された作業空間で使用されるため、人に及ぼす影響が少なく法的な課題をクリアしやすいことが特徴です。また、下へ下へと掘り進めていくルーティンのタスクで進行していく現場なので、自動運転システムの価値が発揮しやすい現場でもあります。山を切り拓いて造成していくような刻一刻と状況が変化していく現場では、定型的かつルーティンのタスクがなかなか作りにくいのが現状です。

岡本:建設機械の自動化の実現はハードルの高いチャレンジだと思いますが、実現したら建設業界のさまざまな課題が解決できそうです。

冨山:まず安全性は確実に向上すると思います。人と重機が混在し、密接に関わっている危険な現場はまだまだありますので、そういった現場と人とを分離し、快適な部屋で自動運転システムを監視するような作業環境は作れるでしょう。

また、熟練の技術を持つオペレータに支払う人件費を抑えられたり、長い時間をかけてオペレータを訓練していく採用教育コストも削減できます。オペレータの技量によって左右される品質を一定化できることも大きなメリットだと考えています。

また、LiDARで点群データを取得しておけば、夜でも現場の形状を把握できるので、夜間作業が可能になります。建設機械の自動化は、現場の生産性向上にも寄与できると思います。

現場の可視化が自動化に向けたファーストステップになる

岡本:建設機械の自動化にあたって、今後業界として取り組むべきことはなんでしょうか?

冨山:お客様と一緒に数多くの建設現場を回らせていただいていますが、やはり建設業界には、属人的な作業や職人の感覚に頼るような作業など、可視化できていない部分が多くあると感じています。まずは、こうした作業のデータを定量的に測れるような仕組みを導入し、可視化していくことが重要だと考えています。

私たちが自動運転システム開発に取り組む時は、まず建設機械が「現場でどのような動きをするか」を把握した上で、「どのようにシステムを開発していくか」を考えていきます。ただ、建設機械や人がどのような動きをしているか可視化できていないことが多く、「まずは可視化する段階から一緒に取り組みたい」といったお声もいただきます。すでに取り組みを始めている企業もあるかとは思いますが、まずは建設機械の動きや職人技のような作業の可視化から取り組むことが重要なファーストステップになると思います。

「建設業界はデジタル化が遅れている」とよく聞きますが、私は、建設業界の皆さんが努力をしていないわけではなく、単純に可視化が難しい業界だから手をつけづらいのだろうと感じています。
例えば、工場は閉鎖された空間の中で同じ作業を繰り返しますから、センサーやカメラを付ければ人の動きを可視化して分析しやすい現場と言えます。一方、建設や土木の現場は、オープンな空間かつ広大であり、そもそもセンサーをつなぐための電気をどこから引くかといった問題が出てきたりもします。また、掘削現場などでは「急に岩盤が出てきて爆破しないと掘り進めない」など、始めてみないと分からない事態も頻繁に発生します。

不確実性の高い業界だからこそ、建設業界はデジタル化が進んでこなかったのだと思います。ただ、最近はAIも進歩しており、アルゴリズムの汎用性も高まっています。今後は今まで可視化できなかった部分にも汎用性の高いアルゴリズムを適用できるようになるのではないかと考えています。

岡本:最後に読者の方々へメッセージをお願いします。

冨山:建設機械の自動化は、労働力不足・熟練作業者不足が進む建設業界にとって、将来的に必要不可欠になる技術だと考えています。国土交通省も、i-Construction2.0として、建設現場の自動化を強く推し進めています。自動化した建設機械が実際の現場で使用され、生産高にしっかりと貢献していくことが私たちの目指すゴールです。開発に時間はかかるかもしれませんが、今まで困難とされてきた領域を変えていくロマンのある開発だと感じています。

私たちは建設機械の自動化を得意としていますし、現場に足を運び、現場に寄り添った開発をしていく姿勢を大切にしています。「作業を自動化したい」といったご要望があれば、ぜひお気軽にご相談いただければ嬉しいです。

当社には現在社員約40名が在籍していますが、4分の3がエンジニアで、そのほとんどが外国籍のメンバーです。グローバルな環境で最先端のロボティクスシステムの開発に取り組んでいますので、興味があるエンジニアの方もぜひお声がけください!

【おわりに】

後編では、他の建設機械への展開可能性や、建設機械の自動化について建設業界として取り組むべきことなどについてもお伺いしました。

建設現場は刻一刻と状況が変化する、とよく伺いますが、こうした可変的で不確実性の高い現場環境だからこそ建設機械の自動化の難しさがありますし、同時に、建設機械の自動化の需要があるのだと感じました。
労働力不足・熟練作業者不足がますます深刻化する建設業界において、建設機械の自動化に寄せられる期待はますます大きくなっていくのではないでしょうか。

本研究所では、今後も建設DXに係る様々なテーマを取り上げてご紹介しますので、引き続きよろしくお願いします!