シルクロード貿易を支配したソグド商人
こちらの記事でも出てきた、ソグド人について記してみたい。ただ、その前にシルクロード貿易についてご存知の方も多いと思うが、あらためて説明させていただく。
正倉院宝物を見ても分かるとおり、シルクロード貿易の本質は奢侈品である。重くてかさばる食糧や生活必需品の大量輸送が可能になるのは、「大航海時代」と呼ばれる海洋の時代まで待たねばならない。
内陸の輸送である、シルクロード貿易においては、時と場所によっては塩・穀物などの生活必需品の短距離輸送もあったが、基本的には軽くて貴重な商品、つまり奢侈品や嗜好品の中〜長距離が主流であった。
ラクダや馬で運ばれた奢侈品や嗜好品として、
東の中国からは、
絹織物
紙
茶
西のペルシアからは、
胡椒
香木
宝石
珊瑚
象牙
犀角
鼈甲
藍
北のロシア、シベリア、満洲からは、
高級毛皮
朝鮮人参
鹿角
魚膠
中央アジアからは、
于闐の玉
バダクシャンのラピスラズリ
チベットの麝香やヤク牛の尻尾
さらに、特産地が複数にまたがる、
毛織物
綿織物
真珠
装身具
葡萄酒
蜂蜜
大黄
などがある。
それ以外の重要な貿易品としては、重くても自分で動く奴隷と家畜があることも忘れてはならない。
シルクロードでは、こうした活発な商業活動が行われてただけでなく、仏教・ゾロアスター教・キリスト教・マニ教・イスラム教といった宗教が伝播し、蓄積された富によって豪華な装飾や華麗な壁画を持つ寺院や教会が次々に建立され、惜しげなく喜捨される金銭財物によってそれが維持された。
なお僧侶や巡礼者は宗教活動と併行して商業活動にも従事するのが一般的であった。世俗的威信財だけでなく、宗教的儀礼用必需品(僧侶の衣装、香料など)も重要な商品としてシルクロードを駆け巡った。
このようなシルクロード貿易で活躍したのは、
アラム商人
インド商人
バクトリア商人
ソグド商人
ペルシア商人
アラブ商人
シリア商人
ユダヤ商人
アルメニア商人
ウイグル商人
回回商人
などが知られている。
このシルクロード商人のうち、紀元1000年紀を通じて最も活躍したのはソグド商人である。商業を得意とする民族で、現在も名を馳せている「ユダヤ商人」をも凌駕する民族であったのだ。
ソグド商人の本拠地であるソグディアナ(ソグド人の土地という意)の諸都市遺跡では、王宮や神殿、教会ではない一般の建物からでさえも壁画が発見されているのだ。
壁画というのは、ラピスラズリやトルコ石、金泥、銀泥などの一種の宝石ともいうべき高価な顔料を用いるため、莫大な費用がかかるものである。現在のタジキスタンにあるソグド人の都市遺跡「ペンジケント」は、ソグディアナのオアシス都市の中でも別に飛び抜けて大きいわけでもなく、規模としてはサマルカンドやブハラ、タシケントには、その足元にも及ばない。
それにもかかわらず、王宮や神殿、大寺院でもない多数の建物から壁画が見つかっている。となると、サマルカンドやタシケントなどの大都市を含めたソグディアナ全体では、どれほどの財が蓄積されていたのか想像を絶する。
さらに、敦煌研究でも名高いフランスのP=ぺリオによると、ソグド語が国際語になっていたという。
このシルクロード貿易を支配したソグド人は、最初は商人として入り込んでいった中国や中央ユーラシア東部の遊牧国家において、時間の経過とともに、経済のみならず、政治や外交、軍事、文化、宗教の分野においても、想像以上に重要な地位を占めていたとみられる。
実際、華厳宗第三祖の法蔵がソグド人であるということが、これを物語っているように思う。
(参考文献)
1. 森安孝夫『シルクロードと唐帝国』講談社、2016年。
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