ウクライナ侵攻の「終着点」はどこに。原発への攻撃は「狂気の沙汰」、人類史初の暴挙
(上は2016年に私が撮ったチェルノブイリ原発4号機)
予想では、北京パラリンピック開幕(3月4日)前には、終わると目されたロシアによるウクライナ侵攻がいまだ続いています。複雑な心境です。戦争が長引くことに対し、ウクライナの独立や領土を守るという強い決意の現れだ、とたたえる声もあります。一方で、抵抗すればするほど犠牲者が増えるという悪循環ともとらえることができます。
前回の投稿でも指摘したように、結局、「終着点」をどこに見出すか。ウクライナもロシアも、国際社会も納得するような戦争の終え方をいまだ、誰も提示できていません。
今回の戦争では、環境・エネルギー問題の専門家として看過できないどころか、厳しく非難すべき事態が起きました。原発への攻撃です。これは人類史上初めてのことであり、これほどの暴挙があるのかと震えを感じました。
ロシアがなぜ原発を攻撃したのか。単純に見れば、国を動かす重要インフラである電力の制圧でしょう。ウクライナはヨーロッパでは、フランスに続く原子力大国です。国内には原発が4カ所、計15基あり、国内の電力需要の半分以上を担っています。電力をストップさせれば、国内不安や、戦意喪失、情報の遮断も可能かもしれません。
原発敷地内に設置されているカメラの映像が、テレビで放映されていましたが、ロシアの戦車部隊が入り口のバリケードを突破した後、敷地内に照明弾を放ち、ウクライナ側の警備隊がいる場所を把握したうえで、銃やミサイルの閃光が光っているシーンが見えました。いまのところ、原子炉に被害は確認されておらず、周辺の放射線の観測装置にも異常はないそうです。
そうはいっても、何たる愚行か。チェルノブイリ(1986年)や福島(2011年)で起こった惨事を見てきていないのでしょうか。
ザポリージャ原発には、出力100万kWの原子炉が6基あります。仮にこれらの原発が爆発した場合、チェルノブイリの10倍の被害になると、ウクライナの外相が心配していました。
チェルノブイリでも放射性物質がヨーロッパ中に拡散しました。その10倍となると、世界への汚染が想像できません。核の大惨事を引き起こす「狂気の沙汰(madness)」(トーマスグリーンフィールド米国連大使)であることは間違いありません。武力紛争に関わるジュネーブ条約でも、原発への攻撃は固く禁止されています。
ひるがえって、日本の原発の安全対策にも触れておきましょう。福島の事故を教訓に、2013年に施行された原発の新規制基準には、「テロ対策」も入っています。例えば、2001年の米国中枢同時テロのように、航空機を衝突させた場合でも、原子炉の建屋が丈夫なような造りを要求しています。
たとえ、原発をコントロールする「中央制御室」が破壊されたとしても、別に緊急時制御室を備えた「特定重大事故等対処施設」の設置も要求しています。
私は当時、新基準づくりの現場で取材しており、「戦争で狙われた場合はどうか」と質問したことがあります。そのときは「戦争は国の防衛に関わるため、管轄外」とそっけなく交わされた記憶があります。
日本もこうした有事にどう対応すべきか。もはや起こりえない想像の世界ではなくなったことに、怒りを覚えます。