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かわいそうな黒豹


何日も忙しくて
寝ていなかった。

そして
フラフラの体で
ボクはふとんに入ると
ベッドがボクを吸い込んだ。

そんなぐらい
奥の深い眠りについた。

-

目が覚めると
1ヶ月とちょっとが経っていた。

ベッドで
眠りすぎて元をとったのか

ベッドは消えてなくなっていた。

-

体が軽い。
信じられないぐらい
軽い。

ベッドがボクの
疲れを全て飲み込んで
死んでしまったんだ。

風のように
軽い体。

まるで
ボクは風だ。

-

洗面台の
鏡で一瞬映った自分を
見たら

黒豹だった。

だからこんなに
体が軽いのか。

どうせ今月で
会社をやめるし
夢もないので
別に黒豹になっても
ボクは知ったこっちゃなかった。

-

ボクは
ドアに向かって
駆け出した。

ださいドアは吹き飛び

ボクは
一瞬でださい駅に着いていた。

黒豹になって
ださいからださいは一瞬だった。
しかし

-

たった一回の
ダッシュで死ぬほど
腹が減った。
使うエネルギーが凄まじい

黒豹として
生きるのに
慣れないといけない。

-

どの店に入っても
人が逃げる。

全ての
食い物がただに
なった。

現金主義のボクは
やっとキャッシュレスに
なれたのさ。

-

満員電車に乗ったら。

みんなボクを避け
ボクの周りが不自然に空いた。

だからその
辻褄あわせのために

似たような2、3人の
おっさんが1人の人間になった。
これによって
電車のスペースは保たれた。

-

会社に着くと
もちろん
全員が逃げた。

いつも特別
エレベーターを
つかっていた社長も

非常階段を
飛ぶように降りていった。
ズボンのケツも
爆発的に破れた。

-

ボクは社長になった。

もともと何の
仕事をしていたのか
わからない会社だ。

なのに
ビルは凄まじく
高かった。

社長のプライドが
高すぎて
ビルだけは上に
建て続けていたんだ。

ビルの屋上を
見てみたい。

屋上で吠えるんだ。
ボクは人生の勝者だ。

-

ボクは
ビルの屋上に
登っていった。

風のように
駆け上がる。

風のように
駆け上がる。

-

だけど
おかしい。

こんなに
風のような
速さで登って
いるのに

終わりが見えてこない。

意味がわからなさすぎて
笑った。

黒豹は笑った事が
ないので、
一回だけで
顔が筋肉痛になった。

-

1時間
2時間

7時間登っても

終わりが見えてくる
気配は訪れなかった。

めちゃくちゃおもしろかったけど、

ボクの体は
もうボロボロだった。

もちろん食料などなく

帰る体力は
残っていない。

早くも黒豹としての
エンディングが見えてきた。

-

戻れば
途中で

死ぬだろう。

先へ行っても
命の保証はないだろう。

あぁボクは
人間でも黒豹でも一緒
こんな人生なんだなぁ。

-

そして
ボクはその瞬間に気がつかなかったが
死んだ。

だって倒れた黒豹を今
目の前にしているんだ。

会社の広さだけが
黒豹を殺した。

そして
背後から吹いてきた
夜風に乗って
黒豹は運ばれて
消え去った。

-

ベッドの次に
ボクは
黒豹を使いきった。

馬鹿みたいな
すごい日だった。
もっと黒豹として
いい生き方があったんじゃないか?

だけど
死んだらもう
他人事で
すごく楽しかった。

こんな経験きっと
誰もできないだろうから。

-

ものすごい確率で
ボクはこの体験を
したのだろう。

クモに噛まれて
ヒーローになって、とか
多分そういうのが

ボクに今日きたんだ。
ただ、ボクを黒豹にした
神様は馬鹿を見た。

それだけの事だ。


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