見出し画像

その写真、CGでもいいですか?

 家具大手IKEAのカタログでは、75%以上もCGが使われているそうです。そのことを知ったマネージャーが「こんなCGなんて使うな」と言ったものが実は写真で、反対にこれは良い写真だと言ったものがCGだった、という話もあります。その真偽はさておき、多くの消費者が写真かCGかなんて意識していないことでしょう。

 フォトグラファーという肩書を持ちながら、写真に執着していない自分。お客さんが伝えたいことを伝えるお手伝い、というのが本当の仕事なのですが、たまたま大好きな写真というメディアを使っていただけなのでした。でも、写真よりももっと効果的に情報を伝えることのできるツールを見つけました。それがCGです。


バーチャルフォトグラフィー

 CGの良いところは、思いどおりの画がつくれることです。場所から照明に至るまで、あらゆる要素を思いのままコントロールできます。まずは、自分のスタジオを3D化して、バーチャル環境で撮影ができるようにしてみました。建物の構造や素材がほとんど同じになるように制作し、VRヘッドセット越しに見ると、現実と同じ世界が広がります。

3DCGでスタジオを再現した。

 このバーチャルスタジオの中に、手持ちの機材と同じ照明を用意し、8K解像度でスキャンされた器のモデルを配置。現実と同じように機材を並べてバーチャルカメラ撮影してみました。すると、現実と同じような質感の写真ができました。もし後になって、やっぱり影を強くしたいと思っても、スタジオや器を再手配して機材を再配置する手間もなく、PC上のファイルを開いて数回クリックするだけで照明を変更することができます。

フォトグラメトリで生成した3Dモデルを、現実と同じライティングで撮影した。

 照明を変更するだけでなく、照明を固定して、複数の商品を撮影することもできます。たとえばECサイトなどでは、商品の一覧に一つだけ明るさの異なる画像があると統一感がなくなってしまいます。明るさを揃えて撮影するのは簡単なようで大変で、セッティングに時間を取られてしまいます。けれども、CGであれば前回のプロジェクトファイルを開き、被写体のファイルを置き換えるだけ。1分で完成という速さです。

一度テンプレートを作ってしまえば、データを差し替えるだけでバリエーション写真を作ることができる。

 正直なところ、いまはまだ商用撮影に耐えられる3Dモデルをつくるのは簡単なことではありません。けれども、近い未来には、世界中のあらゆる場所やモノ、ヒトが誰にでも簡単に3Dデータとして扱えるようになっている気がしています。撮りたいものを簡単に3Dスキャンして、ワンクリックでプロが用意したプリセットで撮影できる。そうなれば、ますますCGの優位性は高まっていくでしょう。

低コストかつ高速でお客さんの伝えたいことが伝わるのなら、写真である必要はないと、僕は思います。


写真にしかできないこと

 では写真はいらないのかというと、そうではありません。写真にしかできないのは、フォトグラファーの想像しなかったシーンを写すことです。思いつくものならCGで作れてしまいます。まだ誰も見たことのない景色、見たことない表情。それを残すことができるのは写真だけです。

写真を撮る時に「笑って」なんて言いません。笑ってと言われて見せる笑顔なんて、きっとAIでつくれるから。

美肌補正なんてしません。理想の顔なんて、CGでつくってしまえばいいから。

Meta Human(Unreal Engine)を使用して、CGで制作したポートレート。近い将来、自分の顔を簡単にスキャンして3D化し、表情データをインポートすれば自由に動かすことができるようになる?


写真にしかできないこと 2

写真にしかできないもうひとつのこと。それは、写っていないものも写すこと。そして、写した前と後にも時間が広がってくこと。写真に写るのは数百分の1秒だけ。けれども
、写真を撮った日のできごとや、10年前のこと、あるいは10年後の姿までもが1枚の写真から浮かんできます。

「この時のパパ、すごく慌てた顔だったよね」とか。

「こうやって暴れまわって、すぐに疲れて寝るんだよね」とか。

 だから僕は、何十年か経った時に、記憶がはっと目の前に浮かぶ写真が撮りたいと思うのです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?