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バディとの出会い

人生では、親友、恋人、大切な人との出会いがある。出会いは、いつやってくるのだろうか?

この問いを考えると思い出すのは、中学生の時に担任だった青島(チンタオ)先生のことだ。チンタオ先生曰く、
「出会いは、思いがけず、突然やってくる」
さらに、こう続けた。
「出会いは、丸いツルツルのボールみたいなもんだ。掴もうとしても掴むのがすごく難しい」

カナダの林業学校での初日を終え、寮に戻った時、3年間のカナダ生活を忘れられない経験にしてくれたかけがえのない友人と出会うことができた。チンタオ先生の言う通り、その出会いは思いもかけず突然やってきた。

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初日のオリエンテーションとファースト・エイド講座は、散々ではあったけど、何とか乗り越えて寮の部屋でボーッと過ごしていた。クラスが始まるのは週明けだから、この週末は課題もなく手持ち無沙汰だった。車もないし、もしあったとしても見知らぬ町でどこに行っていいかわからない。頭と心がパンク寸前で、とりあえず体を動かして何かしなくてはと部屋の中をウロウロする。
昼間、森の中でファースト・エイド講座に参加し、倒れこむ役で地面に寝転がったから、服は土やホコリまみれだ。他にすることもないので、ランドリー室に行って洗濯することにした。洗濯機は、25セントしか使えなかったので、1ドル札でソーダを買って25セント硬貨を手に入れる。汚れた服を洗濯機に突っ込み、洗い終わるまでランドリー室で待つことにした。
「これからどうなるのかな?」
そう思いながら立ちすくんでいると、カナダ人がランドリー室に入ってきた。カールしたモジャモジャの髪に、若干ぽっちゃりした体型。背は自分よりも少し低くて、タバコ臭い。林業学校の生徒のほとんどは、高校を卒業したばかりの18、19歳の子たちが多いので彼みたいなオールドなのは珍しかった。お互いオールドだ。
「ヘイ!」
とお互いに挨拶を交わした後は、ぎこちない沈黙が続く。彼も服を洗濯機に突っ込むが、洗剤の入れ方がわからないようで右往左往している。
「ここに洗剤入れるんだよ」
と見かねて伝える。
「ありがとう。アジア人?どこの国から来たの?」
と彼が聞いてきた。

◆彼は一体何者だ?

「アジア人。日本から来た。」
と答えると嬉しそうに自己紹介をしてくれた。彼の名前は、ジム。43歳で、今季入学した生徒の中では最年長らしい。
「お互いオールドだから、浮いてるよな」
と笑いながら話が弾む。この林業学校に来る前はアジアにいて、韓国と台湾で合わせて11年間、英語の先生をやっていたとのこと。
「英語の先生としての仕事も充分やりきったし、カナダに戻ってアウトドアで働きたかったから、まずは勉強し直そうと思ってさ」
と話してくれた。
「やることないからランドリーに来たらアジア人がいるから懐かしくなって声をかけたんだよ」
ジムは、ハッキリわかる英語を喋ってくれて、僕が会話についてこれてない時は、言い直したり、ゆっくりしゃべってくれた。初日でカナダの英語の速さに叩きのめされたばかりだったから、会話がとても楽しかった。
「日本のテッパンヤキは最高だよ。何回食べに行ったか覚えてない」
「日本人は鉄板焼きそんなに食べないよ」
たわいもない会話だったけど、本当に嬉しくてもっと喋りたいなと思いながら、洗濯を終えて部屋に戻った。少し経つと、隣の部屋の住人も戻ってきたようで、ドアの前でゴソゴソしている。
「隣人は、どんな人だろうな」
好奇心に駆られてドアを開けると、そこに見慣れた顔があった。
「ヘイ、キミ。」
「ヘイ、ジム!」
カナダに来てから落ち込みっぱなしだったけれど、こんなに嬉しいのは始めてだ。ドアの前に散らかったジムの服を一緒に片付けながら、後で晩飯を食べに行こうぜと約束をした。

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林業学校で勉強している間も、測量会社に就職した後も、彼とはずっと仲が良い。彼がいなかったら学校を卒業することは多分無理だった。カナダで過ごして本当に良かったなと今思えるのは、心から信頼できる友人ができたからだろう。
あの時、ランドリー室で洗濯をしていなかったら、ジムとゆっくり話す機会がなく、お互いを知り合う機会を逃して、親しい友人になっていなかったかもしれない。もしかすると、カナダでの生活に挫折して別の人生を歩んでいたかもしれない。

かけがえのない友人との出会いは、予想もしていない時にやってくる。ツルツルして掴みにくい上に、すごい速さで一瞬のうちに走りさっていく。掴みとるための準備も大切だけど、その出会いのチャンスが目の前に現れたら、ガムシャラに掴みとろうとしてみて。その出会いは、きっと人生を変えてしまうほどのインパクトを持っているかもしれないから。

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