見出し画像

落語聞いてる?

ひょんなことから落語を聞き始めた。落語を聞いたら、大人の仲間入りができると思ったのか。落語を聞いたら、頭が良いと思われると思ったのか。それとも、音楽以外に何か新しいものを聞いてみたかったのか。
家の近くに落語が聞ける場所はない。図書館で借りた落語のCDを聞く。名前も初めて知る噺家。扇子で蕎麦をすすり、キセルで煙草を吸う。扇子を大きく開き、酒を飲み干す。顔の向きで人物が切り替わり、何人もの人が現れる。何とも不思議な世界。
図書館のCDでは飽き足らず、CDショップでまだ聞いたことのない落語を探す。面白い話はないだろうか。地獄八景亡者戯。噺のタイトルに惹かれてCDを手に取る。

出囃子が始まり、拍手と混じり合う。桂文珍の少しガラガラとした声が聞こえる。マクラで笑いがこぼれる。少しチクリとする笑いも入って気持ちがいい。いつの間にか噺が始まる。鯖に当たって死んだ喜八とご隠居さんが目の前で話をしている。戸棚に鯖をしまうなんて。軽妙な掛け合いとともに、冥途への路を進んでいく。河豚を食べて死んだ若旦那一行も加わり、一層騒がしい。旅は陽気だ。三途の川では奪衣婆は現れず、鬼の船頭から三途の川の渡し賃をぼったくり。冥途筋の賑わいを楽しみながら、閻魔大王のもとにたどり着く。
気が付けば、ご隠居や喜八達の姿が見えない。今度は、医者、山伏、歯抜き師、軽業師とともに閻魔大王から裁きを受ける。地獄行きとは何てことだ。4人の連れが地獄でやりたい放題、人呑鬼を困らせる。閻魔大王に泣きつく人呑鬼。ダイオウ飲んでー。

ご隠居も若旦那も皆、目の前から消え、僕は目を覚ます。

コロナの影響で生活様式が一変した。以前は普通にできていたことが、できなくなった。電車で通勤しなくなった。家で仕事をするのが日常になった。外出する時は必ずマスクをするようになった。レストランでは、食事をするとき以外はマスクのままになった。生活が今までとは違うものになった。
そういえば落語は?生活の忙しさの中ですっかり忘れていた。以前友人と二人で新宿の寄席を訪れたが、今お客さんは入れるのだろうか。落語は今どうなっているのだろうか?

何の気なしにYoutubeを見ていたら、もじゃもじゃ髪の若い男が高座に上がってくる。出囃子はなく、代わりに小気味よいリズムが響く。お辞儀をして、羽織を脱ぎ歌が始まる。けだるそうな声で歌い始める。アジャラモクレン テケレッツのパー。手を叩く。死神が消える。リズムに乗り、男の歌は進む。蠟燭の火が消える。

いつの間にか落語が溢れている。Spotifyで落語を検索すれば、いくつもの落語プレイリスト。Amazon Primeでも多くの落語の映像レンタル。アニメじゃ、昭和元禄落語心中もやっている。Youtubeでは落語家が死神のMVについて話もしている。英語で落語をする噺家だっているぐらいだ。時が経ち、コロナの影響下であっても、落語は柔軟に様式を変えて、広がりを見せる。

ご隠居や若旦那が、また僕の目の前に現れる。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?