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「ハートで感じる音楽理論」~人生・生活のアナロジー~

音楽理論を勉強していても、無機的な法則や聞き慣れない用語の集まりで、結局によくわからない」「頭ではある程度理解したけれど、だから何?って感じで何にも結び付かない」というのはよく聞く話だ。

そこで、誰もが経験して身近な概念でよく知っている「人生」「生活」などと結び付けて音楽理論を捉えてみたらどうだろうか。文字通り、音楽理論に「生」を吹き込んでいきたい。無味乾燥だった音楽理論にも少しは物語を感じられるはずだ。説明していこう。

※基礎的なレベルの音楽理論を取り扱うため、「単純化しすぎ」「例外もたくさんある」「厳密に言うとその術語は正しくない」「別の理論体系では全く違う捉え方だ」「分かりにくい例えだ」「理由はないが、気に食わない」といった意見も多々あるかとは思いますが、予めご了承ください。

1.キーは「住んでいるエリア」

実際の世界においては、住めるエリアは無数。一方、音楽においてはたった24エリア(24キー)。12のメジャーキーと12のマイナーキーだ。そして、ポップスの8、9割以上がメジャーキーなので、12キーのうちのどれかになる。ポピュラー音楽においては、メジャーキーの方が、その名の通りメジャーな(大多数が住む)エリア群なのだ。

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もしキーがCであれば、「エリアC」に住んでいるということになる。
勤め先や学校はもちろん、普段行くレストランなども同じエリア内にある。生活基盤はすべてエリアC内にある、ということだ。

2.トニック、ドミナント、サブドミナントはそれぞれ何に?

さて、エリアCで生活していく中で、働いたり、外食したり、家で休んだり、いろいろなことをする。それぞれの場所によって、感情の動きや気持ちはもちろん異なってくる。
キーの中で作られるコード(大きく分けて全部で7つ)にはそれぞれ機能がある。トニック、サブドミナント、ドミナントというものだ。
(以下の画像では、Tがトニック、Dがドミナント、Sがサブドミナントを意味する。Emが「DまたはT」となっているのは、状況によって機能が変わる可能性があることから。)

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それぞれに対して、生活の中で登場する場所を当てはめていってみる。

- トニックは「家」
何よりも安心・安定感があるのは家だろう。基本的にはくつろいでホッとできる。それがトニックだ。

- ドミナントは「勤め先」「学校」
集中力が必要で、仕事でも授業でも緊張感がある。多くの授業や仕事をこなした後は、家(トニック)に帰りたくなる。これがドミナントだ。

- サブドミナントは「移動時間」「レストラン」「ジム」
移動時間やレストランで食事しているとき、もしくは習慣的な習い事やジムにいるときは、家にいるときほど安定・安心しているわけでも、学校・職場ほど緊張もしていない。少しそわそわとするかもしれない。また、浮遊感もあるかもしれない。

~コードのクオリティの違い~
家にいても不安なときはあるし、会社でも比較的リラックスしているときもあるだろう。
キーがCのときに、ただのCメジャーコードではなく、Cmaj7を鳴らすとどんな感じだろうか。トニックのCのコードでありながら、どこかアンニュイな感じがする。それはまさしく、家(トニック)にいても完全に安心しているわけでもなく、不安あるいは物思いに耽るようなイメージだ。
また、同じトニックでもCとAmではかなり違う雰囲気だ。
このように、実生活の雰囲気や感情の機微にも似たイメージを、音楽理論へ当てはめることができる。

3.転調は「引っ越し」や「旅行」

生活していれば、引っ越し住んでいるエリアを変えることも当然あるだろう。また、気分転換に旅行別のエリアを訪れることもある。音楽では転調や部分転調がそれにあたる。

- 曲中における別のキーへの転調は「引っ越し」
曲の最後のサビで転調したり、1番のサビで別のキーに行ってからまた、2番のAメロで元のキーに戻ったりすることがある。
これは、別のエリア(キー)に住んで生活が始まる(コード上の展開がある)ので、引っ越しということになる。
引っ越し先は、国内の別のエリアかもしれないし、遠い海外かもしれない。それは、元のキーから近いキー(関係調など)か、それとはまったく別の”遠い”キーなのか、と同じことだ。

- 部分転調や借用和音などは「旅行」「遠出」
セカンダリードミナントやサブドミナントマイナー、借用和音は一時的に他のキーの雰囲気を感じるが、そのキーに留まっているわけではない。
旅行などがこれにあたる。一時的に別のエリアには留まるが、そこで生活をするわけではない。
上記の「引っ越し」と同じように、国内旅行なのか海外旅行なのか、規模や距離が異なる。部分転調にもいろいろな規模・種類がある。

4.実際の曲で感じてみよう

ホイットニー・ヒューストンの「I Will Always Love You」を使ってみる。
(以下の動画の2:55~3:24あたり)

コード進行はこのような感じだ。

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※わかりやすくするために、元のコード進行から変更あり。

上の段がキー:Aメジャーで、下の段がキー:Bメジャーだ。途中で転調があることを意味する。
最初から見ていこう。
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A=トニック → E=ドミナント → A=トニック → C#m7=ドミナント → F#m7=トニック → C#m7=ドミナント → D=サブドミナント → E=ドミナント
―転調―
B=トニック → G#m7=トニック → E=サブドミナント → F#=ドミナント → B=トニック 
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(エリアAでの生活)
家 → 会社 → 家 → 会社 → 家 → 会社 → ジム → 会社
―引っ越し―
(エリアBでの生活)
家 → 家 → ジム → 会社 → 家 

これだけだと、なんだかとても退屈な流れのように見える...。
ただ、エリアBでの最初の2つの「家」の間にもコードは「B→G#m7」と変わっている上に、2つ目はマイナーコードで7thがついているので、そこに何かストーリー性を感じる余地は十分にある。そこは皆さまの想像力次第ということで...。

重要なのは、これらのアナロジーを使うことで、「無機的な音楽理論」から「ハートで感じる音楽理論」のイメージに持っていくことだ。また、このアナロジーによって、音楽理論をある程度、体系的に整理できると思う。

これを発想の起点として、自分なりに音楽理論と様々な事象を照らし合わせてつなげていき、考えてみてほしい。

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