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【動画紹介】ピクサーの映画音楽はなぜ泣けるのか?

今回はSideways氏の「How Pixar uses Music to make you Cry」を紹介したい。

・観客を泣かせるにはどうしたら良いか?
「悲しいシーンに悲しい音楽」ではなく、「悲しいシーンにハッピーな音楽」が正解だと、彼は述べる。
つまり、コントラストが重要なのだ。コントラストにより人の感情は良くも悪くも揺れ動く。相反するイメージにより、感情がかき立てられる。
ピクサーはそれをうまくやってのけるのだ、という。

・そもそもどうやって悲しい、またはハッピーな音楽にするのか?
×悲しい=マイナーキー(短調)、ハッピー=メジャーキー(長調)
「悲しい音楽ならマイナーキー、ハッピーならメジャーキー」という単純な話ではない。
そもそも「悲しい=マイナーキー、ハッピー=メジャーキー」というのは文化的な側面が多分にある。西洋音楽文化の中で育てば、このような関連付けは容易に行われる。しかし、決して人類共通のものではない。
例として、1950年代に録音されたネイティブアメリカンの子守歌が取り上げられる。(上記動画の1:16~1:40)
これは、西洋音楽的な耳からすれば、ブラームスの『子守歌』とはかけ離れた音楽で、子守歌にはなかなか聴こえない。
つまり、マイナーだから悲しい、というのは普遍的ではない。

・映像と「テーマ」を結び付ける
上で述べたように「普遍的に悲しい音楽」というのはなかなかない。しかし、映像と音楽を組み合わせることで、悲しい音楽、ハッピーな音楽をより確固たるものにできる。
つまり、音楽の「テーマ」を用いるのだ。「テーマ」とは、登場人物やその行動などに結びつけられ、物語の流れに影響を与えるものだ。
悲しい or ハッピーな場面とテーマの関連付けをうまく行い、観客に対して音楽を印象付けることができる。映像を見進める中で、「このテーマは悲しい or ハッピーなものだ」という関連付けが観客の側でなされていく。ピクサーはその関連付けが巧みなのだ。

関連付けをした上で感情を大きく動かすには、すでに述べたように観客の見ているものと聞いているもののコントラストが必要になる。

例1:『モンスターズ・インク』
「サリーとブー」のテーマが以下の場面で使われている
・サリーがブーの部屋に入る(穏やかなシーンでのテーマ使用)
・サリーが研修で怖がらせ方を新人に披露した際に、ブーを怖がらせてしまう(1つ目とは対照的なシーン、つまり穏やかではないシーンでの使用)
・ドアが壊される前のサリーとブーの最後と思われた交流のシーン。両者ともにお互い怖がる必要はない、と分かった(テーマの使用により、2人の関係性やこれまでの場面を思い起こさせる
・ドアが修復されてサリーとブーが再会する(同じテーマだが、ピアノが使われている。映画全体を思い起こさせる)
シーンが変わっても同じテーマが繰り返し使われることで、シーンとテーマとのコントラストが立ち現れてくる。
以下の動画の0:40~がこのテーマだ。

例2:『カールじいさんの空飛ぶ家』
主人公の妻エリーのテーマがポイントになる。
・エリーが冒険家のバッジを主人公にあげたとき(冒険へのモチベーションをエリーがくれたとき)
・子供が生めないと分かり落胆するエリーを、主人公が励ましているとき(冒険へのモチベーションを高めようとしているシーン)
・エリーの葬式(ソロピアノに編曲されたテーマ)
このようにこのテーマは「冒険心と、エリーがいない主人公の寂しい気持ち」を捉え、表すテーマとして映画の中で確立されていく。
次にテーマが使われるのは主人公が「私の冒険ブック」を押し入れから見つけた時だ。このときも「冒険心」を描写するテーマとして出てくる。

その後は、2つの重要なシーンでこのテーマが使われる。
1.冒険を諦めそうになったとき、「私の冒険ブック」が2人の思い出の記録で埋められているのを主人公が発見したとき(エリーのくれた冒険へのモチベーションを主人公が思い出した瞬間
2.主人公が昔エリーからもらったバッジをラッセルにあげるとき
どちらのシーンでも、テーマが流れることで、亡きエリーがくれた冒険心を観客に思い起こさせる。
ハッピーな場面で使われたテーマが悲しい葬式のシーンで使われ、葬式で使われたテーマが今度はその反対のハッピーなシーンでも使われている。ここでもコントラストだ。

Sideways氏は、『ベイマックス』で、テーマを使わないないことでもったいないシーンがあることを指摘する。
ベイマックスが主人公の兄タダシの映像を映し出すシーンだ。場面としては悲しいシーンだ。裏で音楽は流れているものの、このシーンの前までに、『モンスターズインク』のように「主人公と兄タダシのテーマ」が特に確立されていないため、場面と音楽とのコントラストの演出がうまくいっていないとSideways氏は考える。
もしこのシーンに、「悲しい」とは対照的な「家族の絆」を表すテーマとして大衆に認識されているハッピーなものを挿入してみたらどうだろうか。
他のピクサーの映画音楽で、まさに「家族の絆」を表すテーマがある。ファインディング・ニモの曲だ。父親マーリンと息子ニモの関係・絆を表すテーマだ。これを「主人公と兄タダシとの絆」を表すテーマに見立てて挿入してみようという試みだ。

以下、ニモの曲が上記『ベイマックス』のシーンに挿入された動画だ。こういったものであれば、より感情を揺り動かされるシーンになったに違いない。


「ただ音楽自体が良いから感情が動く」というだけではなく、どのようなシーンでどのような音楽が使われているか、が重要であるとSideways氏は述べる。
ピクサーの映画では、そのようにして音楽が効果的に使われているのだ。

以上、Sideways氏の「How Pixar uses Music to make you Cry」の要点だ。個人的にはもう少しコントラストの部分に焦点を当てて、順を追って説明をして欲しかった部分はある。

音楽や映像作品を文化的な側面から解説する動画が彼のチャンネルには多い。今回の動画が好きであれば、きっと他の動画も興味深く見ることができるはずだ。

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