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「会社の役割りを果たすWebサイトとは?」という「問い」から始まったプロジェクトで実感した「良質な問い」が持つ力

先日、私が企画・設計の部分でお手伝いさせて頂いたWebサイトが公開されました。

グランドデザインさんは、東京、上海に拠点を持ち、世界的なデザイン賞を数多く受賞しているクリエイティブ・ラボです。

今日、とてもタイムリーにグランドさんのFacebookにこんな投稿が。
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グランドデザイン制作の2作品がreddot Award2020にて『reddot賞』受賞しました!!今年の授賞式は残念ながらコロナで中止に涙。ドイツ行きたかったなぁ〜〜〜。。。
https://www.facebook.com/GrandHonolulu/posts/4672436686160274
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グランドさんとはかれこれ2年以上のお付き合いで、いろいろな形で大変お世話になっているのですが、今回はグランドさんのコーポレートサイトをリニューアルするというプロジェクトにお声がけ頂きました。

「会社を次のステップに進めたい」

という西さん(グランドデザイン代表)の思いがあり、そのために「どんなサイトを作る必要があるのか?」という企画を考えていく段階では、西さん、鈴木(私が所属するSignという会社の代表)、そして私の3人で、かれこれ3ヵ月ほど定期的に話し合いを繰り返しました。

サイトに関することだけでなく、「今までグランドさんが積み重ねてきたこと」「今、西さんが関心を持っていること」など、多岐にわたるお話しを伺いながらサイトの骨格、企画を考えていったのですが、これだけじっくりとクライアント企業の代表と話をしながら企画を考えられる機会はとても貴重で、学びが多く、かつ、とても刺激の多い時間でした。

今日はこのプロジェクトを事例としてご紹介しながら、ここ1年くらいずっと考え続けている「問いのデザイン」について書いてみたいと思います。

少し長い文章になるかと思いますが、何らかの「問題解決」に携わる人たちにとって「問い」の重要性について考えるきっかけになれば嬉しいです。

ゾウの鼻くそはどこに溜まるの?

誰か知っている人いますか?鼻の先っぽの方でしょうか?それとも頭の方ですかね?

これは安斎 勇樹さん、塩瀬 隆之さんの共著「問いのデザイン: 創造的対話のファシリテーション」に書かれている「問い」の一例です。少し本から引用しながら「問いのデザイン」についてご紹介します。

問いの基本性質において強調しておきたいことは、問いは人の思考だけでなく、感情をも刺激するという性質です。人は何らかを問われたら、答えるために考えようとする。これはアンケートや学校のテストなどの場面を想像しても、明らかな性質です。

けれども、人を「考えたい」と動機づけることは、簡単なことではありません。楽しさや好奇心、驚きなどの感情を刺激することは、「わかったつもり」を打破し、日常で凝り固まった認識を揺さぶるきっかけづくりとして、とても有効です。
……
動物園で子ども向けに実施したワークショップの事例を紹介しましょう。
……
子どもたちが動物ごとにじっくりと観察できるような仕掛けや問いかけを考えることになりました。
……
その中でも明らかに参加した親子の対話が劇的に変わったのが、「ゾウの鼻くそはどこに溜まるの?」でした。「先の方じゃないとほじれないんじゃない?」「いやどうせあの大きな前足では鼻の穴に指が入らないでしょう」「じゃあ奥のほうだ」「いや真ん中くらいに溜まっているのが、水を吸ったり吹き出したりするときに一緒に出ていくんじゃない」と次々と仮説が生まれると同時に、みんなの目線がゾウの鼻に向けられます。……

出典:問いのデザイン: 創造的対話のファシリテーション

面白いですよね。

何もなければ「ゾウさん大きいね~お鼻長いね~」で終わってしまうはずの「動物園でゾウを見る」という体験が、一つの問いの存在によって体験の質が変わってしまう。

問いが好奇心を刺激し「考えたい」という欲求を呼びおこす。その結果、同じものを見ているはずなのに、見えるものが変わる。認識している世界が変わってくる。

これが問いの持つ力です。

問いの「デザイン」というからには、何か意図を持って問いを「設計」する必要があります。

「問いを設計する」と言われてもイメージが掴みづらいと思いますが、先ほど「ゾウの鼻くそ」の例でご紹介した通り、「良質な問い」は人の思考だけでなく、感情も刺激して、固定観念を壊すきっかけをもたらしてくれる「アイデア創発の為の強力な武器」になります。

人の思考、感情を刺激する「考えたくなる問い」を設計していくことが「問いのデザイン」です。

ではどうやって「問い」をデザインするのか?

私はこの質問に対する明確な答えをまだ持っていませんが、ヒントになりそうなことは分かってきているので、整理してご紹介します。

ちょうどいいサイズの「問い」を考える

ここでは元IDEO TOKYOの石川 俊祐さんが書いた著書「HELLO, DESIGN 日本人とデザイン」から「問いのサイズ」に関する一文をご紹介します。

日本企業のコンサルをしながらヨーロッパやアジアの企業とも仕事をする中で、ぼくがいちばん気になったのは「問い」の設定の仕方が違うことでした。
当時の日本企業が立てるのは「どうすればこの掃除機を○万台売ることができるか?」といったものばかり。問題解決を行っていくには、いくぶん「小さすぎる」サイズの問いでした。
一方、ほかの国では「どうすればモノが多い家でもストレスなく掃除できるか?」「どうすれば掃除にかける時間を短くできるか?」「そもそも汚れない家はつくれないのか?」といった、良質な問いがバンバン立っていたんです。
問いの質は、アウトプットの質に直結します。「良質な問い」をつくれているGoogleやIDEOといった企業は、「連続的に」イノベーションを起こしているのです。

出典:問いのデザイン: HELLO, DESIGN 日本人とデザイン

他にも菓子メーカーの明治からチョコレートのパッケージデザインを依頼された際のエピソードも紹介されていました。

明治の担当者からきた依頼内容①
「高級路線のチョコレートをリニューアルするにあたって、もっとプレミアム感のあるパッケージを作ってほしい」

>石川さんの答え
「NO」「その仕事ならいいグラフィックデザイナーを紹介しますよ。彼に頼んだほうが、コスパもいいですし。」
明治の担当者からきた依頼内容②
「チョコレートの消費量を上げるにはどうすればいいか?」

>石川さん、IDEO共同創業者デビット・ケリーの答え
「I have an idea」「アーモンドチョコレートのボックスに3粒足せばいいよ。そうしたら、消費量は上がるでしょ?」

※「問い」がまだ練りきれてないことへユーモアをこめた返しですね。「消費量を上げたいなら、一箱に入っているチョコレートを増やせばいいんじゃない?それがあなた達のやりたいことなの?」という意味の。
明治の担当者からきた依頼内容③
「子どもだけではなく、大人がチョコレートの時間を愉しむ。この新しいチョコレートカルチャーの創出を、一緒に考えてくれませんか?」「そのカルチャーが広まることによって、結果的に消費量を増やしていければと考えています。」

始めは表層的な「造形作り」の依頼だったものが、何度も「問い」をブラッシュアップすることで最終的には「新しいカルチャーを創るにはどうしたら良いのか?」という「良質な問い」に変化していく。

「問い」に対する「解決策」を考える側の視点で見ると、①は良くあるけどあまり面白い問いではないですよね。②も端的に言えば「売上を伸ばしたい」という話だし。

③の問いになると一気に「新しいカルチャーを創るにはどうしたらいいんだろう?」と、問いによって思考、感情が刺激されるのが分かります。ちょうどいいサイズの問い。良質な問いの力ですね。

会社の役割りを果たすWebサイトとは?

これが今回のWebサイトリニューアルプロジェクトでグランドデザインの西さんから頂いた「問い」でした。

通常、企業のWebサイトをリニューアルをする場合には「お問合せを増やすにはどうしたら良いか?」「求人への応募者を増やすには?」といった「問い」を頂く場合が多いのですが、今回は通常とはかなり切り口の違う「問い」に答える企画を考える必要があります。

コロナの影響で働き方、会社の在り方が大きく変化する中で、西さんが考えたのは「Web上に会社を作れないか?」「会社の役割りを果たすWebってどんなものだろう?」という、問い。

企業のwebサイトというのは基本的な「型」が決まっていて、ページ内の構成だったりデザイン、表現が変わっても、情報構造に大きな違いはありません。TOPページ、会社の特徴&強み、サービス&商品紹介、会社概要、採用…etc

こんな感じでサイト全体の構造、企業のWebサイトが言うべきことは既に一定レベルの最適解が出ている為、どうやって「独自性を出すか?」というのはかなり難しい問題です。

「企業のwebサイト=こういうもの」という固定観念を壊さないと、サイトを見たユーザーに「おっ??」と思わせるサイトを作ることはできないのですが、今回のプロジェクトでは西さんから「良質な問い」を頂いたおかげで、思考、感情が刺激され、ワクワクしながら「答え」を探っていくことができました。

考えている時はこんな感じでmiroを使ってアイデア、思考を整理していきます。miro便利。

いろいろなアイデアを考えてみたのですが、実現性、ユーザーへの訴求力、効果などを考えながら絞り込んでいき、最終的に私が考えた「会社の役割りを果たすwebサイト」は「会社のメンバー間で情報共有できる場として機能すること」というものでした。

「会社」を構成するさまざまな要素の中で、もっとも本質的な価値を生み出しているのは「生産的なコミュニケーションの場としての機能」だろう、と的を絞って考えてみたのです。

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今回のプロジェクトにおける私の役割りは「企画・設計」でしたので、西さんと対話を重ねながら練っていったアイデアを企画書、WFという具体的な形に落とし込み、グランドデザインの皆さんに共有できる形に整理しました。

(宣伝):「こんなこと一緒にできないかな?」的なご相談などありましたらお気軽にご連絡下さい。プロジェクト管理、ディレクションとかも得意な領域です。
Mail : kenmochi@signcorp.jp
中途採用もやっています:「日曜日の夜が憂鬱じゃない会社で一緒に働きませんか?

アウトプットのご紹介

先ほどまでのプロセスでサイトの基本的な方向性、構造が整理されたので、ここから先はグランドさん内部のプロジェクトチームが更に企画を練り上げ、具体的なコンテンツ、デザイン制作が進んでいきました。(最終的に私が想像していたものよりもずっと素敵なサイトができてとてもうれしい!)

https://www.grand-design-tokyo.jp/work/
まず、事例紹介のページがあります。サイトを訪れた見込み顧客に対して「こんな実績あるよ!こういうことが得意だよ!」と伝える、デザイン会社として必須のページです。

https://www.grand-design-tokyo.jp/laboratory/
そしてこちらが「情報共有の場」として企画したLaboratory(実験室)のページ。その名の通り、Workを生み出すまでの過程、実験、試行錯誤の記録をアーカイブしていくページです。

Laboratoryは2つの役割りを持っています。

① サイトを訪れた見込み顧客に対して、最終的なアウトプットが「どういう過程、実験を経て生み出されているのか?」を公開することによって、表層的なデザインの美しさ以上の「グランドデザインの価値」を伝える役割。
② リモートワークが増えた中で、離れたところで働くメンバー間の「情報共有の場」として、それぞれがどんなことを考えながら最終的なアウトプットを生み出していったのか?という過程を共有する役割。先輩→後輩(逆もあるかな?)へのナレッジ共有的な側面も持つ。

そして、私が企画を考えていた時には無かったのですが、グランドさんの内部で企画がブラッシュアップされ、Factoryというグランドデザインが進めている「自社プロジェクトを公表する場」もコンテンツとして追加され、Work、Laboratory、Factoryという3つの切り口で自分たちの仕事、考え方、活動を発信する機能を持ったサイトができあがりました。

3つの特徴的なコンテンツの関係性を整理するとこんな感じでしょうか。

Laboratoryでの実験で得た知見がWorkやFactoryに活用され、WorkとFactoryは相互に影響しあってアウトプットの質を高めていく。

これらは全てグランドデザインの中で今までもやってきたことですが、今回のプロジェクトをきっかけにその関係性をより分かりやすく整理し、見える化することで、「会社を次のステップに進める」という目的を叶えるための「仕組み」を作るお手伝いができたのでは?と思っています。

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長くなってしまいましたが、最後に「問い」の重要性について書かれている本をもう一冊だけご紹介して終わりにします。

悩みの本質とは「解決策が見つからない」ことではなく、何が「真の問題」かわかっていないこと

こちらは「哲学コンサルタント」という、とても珍しい肩書を持つ吉田幸司さんの著書、「課題発見」の究極ツール 哲学シンキング 「1つの問い」が「100の成果」に直結する、からお借りした言葉です。

すごく真理を突いた言葉だなと思っていて、ときどき見返しています。

「"A"という問題があるので"B"という手法を使って解決してください。」

これは一番よくある仕事の依頼です。でも、「"A"という問題を解くためには"B"ではなく"C"の方が解決策として効果的なのでは?」という場合も多くあります。

そして更に深堀りすると、「"A"という問題があると言っているけど、本当の問題は"Z"なのでは?」ということもあります。

"A"という問題を解決するための手段として"B"や"C"がありましたが、真の問題が"Z"だったとしたら"B"や"C"という解決策はあまり意味がありません。そもそもの問題設定が間違っているからです。

悩みの本質とは「解決策が見つからない」ことではなく、何が「真の問題」かわかっていないこと

この言葉を常に頭の片隅におきながら「本当に解くべき問題は何か?」を問い続けること。そういう姿勢を大切に、本当の意味での「問題解決」に繋がる「問い」を見つけられるようになりたいな、と日々模索を続けています。


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