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アンチエイジング・サイエンス①

前回の記事では、
・オーブリー・デグレイ博士、ビル・アンドリュー博士の「不死への野望」
・エリザベス・H・ブラックバーン博士の「健康に生きる重要性の主張」
・ローラ・デミングCEOの「周囲に喚起する生き方」
・今井眞一郎博士の「製品に落とし込む力」
に触れました。

今回は、ローラ・デミングCEOの調査結果を参照しながら、

老化の科学そのものに切り込んでいきます。
今回(前編)は、
・カロリー制限
・インスリン関連遺伝子の改変
・パラバイオーシス    についてお話しします。

敬愛するWIRED誌に倣い、共通用語を用いて解説していきます。また、より詳細な科学議論については、ここでは求められていないものと仮定して進めていきます。

以下、予想所要時間:6分


カロリー制限

「単純なカロリー制限が健康を促進するわけではない」

カロリーとは、生体の活動に必要な、食品の栄養価の単位です。
一般に、タンパク質・脂質・炭水化物の合計を示します。

「食べ過ぎは良くない」と言われる所以は、1930年にまで遡ります。当時の科学者たちはマウスを長生きさせる方法が「食事を通常より控えさせること」だと知り、それを公表しました。単純な方法ですが、それ以来我々は飼育している動物を長生きさせることができるようになりました。

しかし、近年の研究ではさらに重要なことがわかっています。
単純に「カロリー」の制限をするのではなく、遺伝子や状況に合わせて、各栄養素の摂取のコントロールこそが重要だということです。

その証拠に、上述の単純なカロリー制限では、明らかな効果が現れたのは被験体の1/5程度だったというのです。

ちなみに、「長生き」と「健康」は言うまでもなく一体の関係にあります。
健康をキープするためには、おおざっぱな食事制限は厳禁だと心得ておく必要があります。タンパク質・脂質・炭水化物に分ける、さらにはタンパク質も各アミノ酸に分けて考えて摂取量を考えましょう。筆者も更なる調査を行います。
ちなみにヒトが過食に走るのは、太古の時代に食べ物がなかなか手に入らなかったことの名残だと言われています。

インスリン関連遺伝子の改変

「生物の遺伝子を変異させ確実に長生きする個体がつくれる」

シンシア・ケニョン博士の研究結果が非常に有名です。
博士は、上記を証明する事実を突き止めました。

どういうことかと言うと、
線虫、ハエ、マウスに対して「『daf-2遺伝子』の活性化」という措置を加えると、個体の寿命が伸びることが分かったのです。

すい臓から分泌される、インスリンという言葉をご存知でしょうか。
ヒトがかかりやすい病気のひとつでもある糖尿病に関わるホルモンなので、少し有名かもしれません。
詳細な話、我々は、インスリン成長因子と言われる『IGF-1』というホルモンの受容体を持っています。その受容体をコードする遺伝子が変異したものが『daf-2遺伝子』であり、『daf-2遺伝子』が活性化した個体は長生きします。

世界で行われている調査では、ユダヤ人のうち90-100歳まで長生きする人々は、『daf-2遺伝子』が活性になっている可能性が高いそうです。
博士は、『daf-2遺伝子』が活性化している状況と同じ状況を作り出す薬をヒト細胞で実験し開発中です。

ちなみに、『daf-2遺伝子』が活性化している個体は、ガンになりづらく、なったとしても悪性になることが少ないそうです。

パラバイオーシス

「若い血を手に入れれば、若くなるかもしれない。ただし・・」

Nature, https://www.nature.com/news/ageing-research-blood-to-blood-1.16762 より

1970年代。老いたマウスと若いマウスを繋ぎ、血液を循環させる実験をすると、老いたマウスの寿命が伸びるという結果が出ました。
さらに2000年代になって、追加実験により、若い血液の注入は「筋肉機能」「脳機能」「心臓機能」の改善にも役立つことが発見されました。
これらの実験方法を、パラバイオーシス(Parabiosis)と呼びます。

これらが示唆するのは、臓器や組織の機能を回復する何らかの分子が、若い個体で生成される血液中に存在するということです。「何らかの分子」のことをバイオマーカーと呼びます。

バイオマーカーの特定は、容易ではありません。なぜなら、マウスの寿命は通常4年程度。仮に長寿に関わるバイオマーカーを特定するとすれば、4年以上の時間を持って研究に臨まなければなりません。
特定されるバイオマーカーが、これまでの研究により既に特徴が明らかになっている有名なものである可能性もあります。

作り話から来ているような、原始的とも言える実験ですが、その魅力に取り憑かれたスタートアップは、テクノロジー企業エリアに続々と増えて来たようです。
以下は、研究結果を客観的な立場で報じているNatureの記事と、スタートアップの調査記事です。

おわりに

最後のテーマにて紹介した2つ目の記事にありますが、現在FDA(アメリカ食品薬品局)においては「老化」は「疾病」とは見なされていません。
すると収益化が難しく、折角いいアイデアがあってもプロジェクトが停滞してしまいます。
老化が疾病と見なされていないのは、解決すべき課題と認識されていないためです。

ただし、マインドセットを変化させるとなれば、話は老化の科学に留まることはないでしょう。より長く生きたいと願える生活ができる社会づくりも、同じくらい重要だと考えます。
私は幸運なことに、「絶対に長生きしたい」と思っています。これは、本当に幸運なことです。

だから私は、長寿をはじめとした科学研究、よりよい人生を送れる社会を実現するための事業、人生を主体的に生きるための芸術を、全て行い続けていきます。

★おまけ漫画☆「それぞれ」

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著者プロフィール
水谷健
1992年11月生まれ、三重県桑名市出身。
名古屋工業大学工学部卒、東京大学大学院工学系研究科卒。
さまざまなタッチで漫画を描くことを好む。
研究家と漫画家と事業家の三本の矢で進むことを夢見る。
養老孟司氏、茂木健一郎氏、堀江貴文氏、伊藤穰一氏、イーロン・マスク氏の話題が好き。
Twitter:

https://twitter.com/mizutanikenken

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