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限界集落の物件事情その1:物件情報が出ない古民家に住み着くまで

今回は地域の事業に何らかの形で関わることになった方で、実際にその地域に移住することになった場合に必要になる家探しについて、私の経験と見聞きした周囲の事例について紹介します。

対象地域は過疎化の進んだ、いわゆる「田舎」感の強い場所です。地方都市のような場所では当てはまらないと思います。

さて、限界集落のような田舎での家探しは一般的に想定されているものと大きく異なります。紹介する事例はそれぞれ事情が異なるので再現性としては高くないのですが、インターネットや不動産情報誌に物件情報が出てこないような場所への移住をご検討する際の参考になれば幸いです。

なお、私が今住んでいる物件は岐阜県の郡上市という地域の中山間地域にあります。築年数は75年程度とまあまあの古さで、太い柱や梁、かつて養蚕をしていたであろう二階の大広間、農機具や漬物樽などが置かれた大きめの納屋がある古民家的な要素が強い家です。

入居に際して手を加えたのは、風呂場へのガス給湯設備で、あとは不要品を一部廃棄した程度です。土地柄と物件の古さから賃貸価格としては都会では考えられないくらいの安さです。

物件情報は人づてに回ってくる

そんな家に住んでいる私はもともとこの地の出身かというと、東京からIターンした縁もゆかりもない地域おこし協力隊です。当然、その土地の事情、人間関係、空き家情報などは(ネットで得られるもの以外)知りません。

地域おこし協力隊の着任が決まった当初、勤務先の近くで入居できそうな物件は不動産情報として得られるものでアパート2、3室のみとかなり選択肢が限られていました。行政で運営されている空き家バンクも確認しましたが、ちょうどいい物件は見つかりませんでした。

地域おこし協力隊の仕事も任期が三年と先行き不透明でしたので、当初は「まあ、とりあえず近くのアパート入ればいいかな。」と思っていました。そんな矢先、突如舞い込んで来たのがいまの物件の情報です。

ここに住んでみないか?と話を持ちかけてくれたのが、現在お世話になっている地域団体の会長でした。

この物件が長らく空き家であることは地域の方はみんな知っており、今回地域おこし協力隊がくることになり物件を探しているなら貸してみてはどうか、という話になり大家さんに声がかかったようです。

大家さんとしては初めは知らない人を入居させるのは心配だなとか、家財や仏壇があり、時折自分も法事に戻ってくるからと迷っていたようですが、実際に地域の方を交えて話したり、家賃収入が入るといったメリットも感じて賃貸契約をすることとなりました。

同時に私としても、その家を見てから「せっかくならこの家に住んでみたい!」と思ったものです。

この一連のやりとりを通して田舎の物件は不動産情報に出てこない、空き家があることを地域の人は知っている、空いていても大家さんが貸すことに抵抗を持っている、といったことを知りました。

他の人はどうしているのか

周囲で同じように空き家探している移住検討者も人づてで物件探しをすることが多いです。私も移住後に地域内の空き家情報を得て来たので、友人から物件探しの協力を頼まれたこともありました。

一緒に地域を周り空き家を紹介したあと、その大家さんや空き家の近所の方に連絡をとって賃貸を打診しました。残念ながらその時は入居するに至りませんでしたが、このような形で入居される方は周囲を見ても多いです。

余談ですが、アメリカ出身の東洋文化研究者で大変日本に造詣の深いアレックス・カー氏は著書「美しき日本の残像」にて、自身が徳島県の秘境・祖谷で茅葺の古民家を見つけて再生した話や、京都亀岡のとある神社の境内にあった古民家を直接大家さんに入居を打診した話などを記しています。

これは1973年頃の話であることから、どうやら日本の空き家を取り巻く状況は約50年の間変化していないようです。(全て自力でやってしまう彼の方が遥かにすごいですが、このストーリーは今回の話にも大変参考になると思います。)

最初の二、三週間は大本の寮におりましたが、夏の終わりのある日、インスピレーションが閃きました。「今日僕は、家を探します!」と言って、友達と一緒に亀岡の町へ散歩に出ました。亀岡は盆地で、大本からちょっと行くと、山にぶつかります。その山に向かって歩いている途中、面白い家を見つけました。
(中略)
隣のおばあさんに聞いたら、近くの鍬山神社の神主がこの家の責任者であることがわかったので、その神主さんに会いに行きました。最初彼は驚いたようですが、家のことを説明してくれました。
(中略)
なぜあんな場所に住みたいのか神主さんは理解に苦しんだようですが、どうせ空き家だということで、その場で話が決まりました。
(アレックス・カー、美しき日本の残像より引用)

住んでから探すのがひとつの手

上記のように表に出てこない物件が過疎地には多くあります。そしてそれらの中には立派な古民家であったり、中にはほとんど手直しなしで使えるものもあります。ある意味宝の山です。

しかし、現地に知り合いがいなかったり人間関係がない状態ですと場合によっては不審者と思われる場合も(笑)ありますので、つてがない地域に移住する場合は一度市営住宅や近くの市街地に入居して地域の地理や人間関係などを知ってから物件を探すのが良いと思います。

一度住んでみると地域の方が空き家のことは知り尽くしていることがわかります。地域の人の集まりにいくと、「どこどこの誰がいま働きに街に出ていってしまって、あの家はどうするのか〜」といった話は日常的にされています。

物件の条件だけでなく周囲の環境もみる

さて、少しずつ地域のことがわかって来て物件情報入ってくるようになると魅力的な空き家に出会うかもしれません。

いい物件を見つけたらすぐ入居したくなるかもしれませんが、その前に物件の周囲にも目を向けることが必要です。田舎の場合は都会と違い集落の決まりや自治会活動などがあります。家賃の他に区費といって集落活動のためのお金を年間いくらか支払うことが多いです。

加えて地域によっては、農地を維持するための「日本型直接支払い制度」などに加入していて、空き家に付随する農地の管理や地域内の道路わきの草刈り仕事が必須になることもあります。草刈りと一口にいっても、場合によって何日もかけて、それも年に数回実施しなければいけない場合もありますので労力を考えると軽視できない項目です。

自然が美しいことは生活環境が過酷であるともいえます。田舎暮らしは常に自然災害と隣り合わせです(実際私の家の前の道路は大雨が降るとすぐに通行止になります)。

近年、田舎暮らしを薦める記事などでは田舎の自然環境の美しさばかりが強調されがちですが、よいことばかりに目を向けるのは危険です。魅力的な物件を見つけたとしても、近隣の方からの情報やハザードマップも参考にして自然災害へのリスクについても検討が必要です。物件のプラス面だけでなく、こういったマイナス面も慎重に考慮しましょう。

以上、限界集落にIターンした経験とその後の見聞きしてきたことを踏まえて、田舎の物件探しについて書いてみました。物件を探している方はの参考になれば幸いです。


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