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自治体職員必須知識 その3:EBPMとはなにか

Evidence Based Policy Making の略であるが、まだマスコミ等にも大々的には取り上げられていないので、なじみのない方も多いと思う。が、ここ5~6年で少しずつ自治体関係のニュースなどに取り上げられるようになってきた。

内閣府のホームページでは
「EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)とは、政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすることです。」と紹介されている。政府としても2017年以降毎年、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に掲げられており、今後この流れは加速していくものと思われる。

他の先進国ではだいぶ以前から導入された政策で、2000年前後にはかなり普及している。アメリカにおいてもこの考え方は浸透しており、例えば毎年日本円で約1兆円の予算をつぎ込んでいるヘッドスタート(Head Start)は、1960年代の半ばから行なわれているプログラムで、低所得者層の3歳から4歳の子供(環境不遇児)を対象としたものである。これだけの金額が毎年つぎ込まれているのはなぜか?『それは、統計やデータに基づき、こうした「投資」がお買い得なものだと科学的に実証されているからだ。』(「統計学が日本を救う 西村啓 中公新書ラクレ」)
そう、利権でも、国民の支持率を上げるためでもなく、国益となることが科学的に立証された政策だからなのである。

逆に言えば日本の場合、過去の経験や思い込みや推測と言ったものによって政策決定がされ、予算化されることが多い。予算執行後、内部評価・外部評価を通して効果が検証されていることにはなっているが、残念ながらきちんと機能していないと言う話をよく聞く。
以前光明さんのインタビューで紹介したように、自治体で多用されているPDCA的な発想方法は今を維持することはできるが、環境変化に適切に対応するための自己変革は起こりにくい。これはPDCAの欠点であるが、残念なことにこれを認識している自治体は少ないのだ。
そのためにも、EBPMの導入は今後とても重要になる。

2023年7月現在、内閣府特命担当大臣(こども政策・少子化対策・若者活躍・男女共同参画)、女性活躍担当大臣、共生社会担当大臣、孤独・孤立対策担当大臣の小倉將信(おぐらまさのぶ)氏が政界におけるEBPMの第一人者としては有名である。彼の著書「EBPMとは何か 中央公論事業出版」には日本政府としてのEBPMの導入の件だけでなく、地方自治体におけるEBPM導入の事例として横浜市の事例が取り上げられている。
さらに、ナッジ(国民を適切な政策方向に後押しするための施策)の重要性や統計学の知識の大切さを語っている。
現政権がどれだけEBPMに基づく政策を実施できているかどうかはともかくとして、今後国政における浸透が強く期待される。

統計学については、総務省が一般向けに無償のオンライン講座『社会人のためのデータサイエンス入門』を実施している。一部自治体においてはこれを職員に推奨しているところも出てきた。内容は統計検定にも沿った形で展開されているので、検定合格を目指したい人にとっても入門講座として有用だと思う。NTTドコモの子会社が運営しているgaccoにて公開されている。今後自治体のEBPM推進に大いに活用されることと思う。

経済産業省が管轄する独立行政法人経済産業研究所(RIETI)においても、2022年4月1日に「RIETI EBPMセンター」(英語名:RIETI EBPM Center)を創設した。国内外のEBPMの実施事例等を公開していくとの事なので、チェックしておきたい。

さて、一通り紹介してきたがEBPMの導入さえすればよいのかと言えば、それは違うと言うのが今のところの私の考えだ。あくまでEBPMは政策立案と検証のための手法であって、政策立案プロセスそのものではない。
EBPMは時によっては民主主義的な合意形成の際に民意や議員諸氏の意見と正反対の結論が出ることもある。人間の知覚感覚と科学的データは必ずしも一致しないからである。その時にどのように国民を説得するか、議会運営をどう行うかが大切なポイントとなる。
そう、実はEBPMを導入する際は合意形成の在り方をきちんと整えていなければならないのだ。でなければ、EBPMを活用したはずなのに作られた政策は非科学的で効果のない政策になりかねない。そして、最悪『日本にはEBPMは合わなかった』と都合の良い結論で締めくくられてお蔵入りになってしまうだろう。
そうならないためにも、全国の自治体職員みなさんにはぜひ奮起していただきたい。私も様々な形で応援していきたいと思う。



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