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自治体職員必須知識 その5:デジタル化は思考をWhat→Whyに!

若い頃業務システム開発に関わったことがあるので、行政のデジタル化についてはちょっと関心を持っている。いまだに未練がましく日経BPのIT系雑誌に目を通してしまったりしているのだが、行政のデジタル化についてはいつも、「大丈夫か、これ?」と思うことが多い。

マイナカードのトラブルについては聞くたびに、「そもそもシステム統合の仕方(戦略)が間違っているから、末端の仕様(戦術)でトラブルが起きて当然だろう」と思ってしまうし、
2016年10月に導入された法制執務業務支援システムe-LAWSは導入された当初5年間、ほとんどまともに使われていなかったなんて話を聞くと、「システム化しても現場の思考と行動がアナログのままでは意味ないな」と心の中で毒づいてしまう。

実際に国や自治体のシステム開発に関わっている大手ソフト会社管理職の友人からは、契約主(自治体等)は発想や思考がアナログのまま開発を進めようとし、システム化はソフト会社に丸投げ状態と言う話を聞いたことがある。
最近のソフト開発は「アジャイル」と言う概念をベースに開発されることが多く、その中でもチームワーク重視型の「アジャイル・スクラム」などが良く使用されている。以前使われていた「ウォーターフォール」に比べて、俊敏で迅速な開発ができ、スクラムを展開する中で「パラダイムシフト(=革新的なアイデアで状況を進化させる)」が起きることも期待できる。
しかし、実際の開発現場ではこの「スクラム」の中に職員が入ってこない、もしくは入ってこれないので開発が進まないというのだ。

システム開発者にとっては当たり前の思考なのだが、彼らは【具体→抽象→具体】が骨身に染みついている。新人の時にER図(エンティティ―・リレーション図)の作成を学び、物事の在り方・人の動きなどの具体的な存在や行動を全て一度抽象化してから、それをプログラムと言う具体に置き換えるのだ。このとき頭の中で常に浮かぶのは「Why(なぜする)?」である。なんでこのような作業図になっているのか、なぜこの帳票を書かなきゃいけないのか、なぜ管理職の認証が必要なのか。こうすることにより時には無駄や余計なプロセスを発見することができ、さらにデジタル化によってその生産性が大きく躍進することになる。
ところが、自治体職員と話をすると話がかみ合わないらしい。みんな、どうしたらよいのか、何をすべきか、どうすればいいのか、と言う対処的な話ばかりをすると言う。ひと言でいえば思考が「What(なにをする)?」なのだ。これでは話がかみ合うわけはないし、システム開発は前に進まない。

同じことは「問題解決研修」を行うと良くわかる。
業務や地域の問題点を発見するために、物事を抽象化して原因を突き止める手法を教える研修を行うのだが、当然これは「Why?」で思考しなければならない。しかし、研修当初ほとんどの受講生は、「こうすればいい」「こんなやり方がある」「これで大丈夫」と具体的な回答をすぐに返してくる。そう、「What?」の思考が身にしみついてしまっているのだ。2日間の研修の最後のころにはほぼ全員が「Why?」思考が身につくことを考えると、彼らは決して抽象化能力がないわけではなく、習慣がないのだなと思う。本当は、この抽象化能力がないと真の意味で「公共政策の立案」はできないのだが…。こうなってしまっている理由はいくつか考えられるが、本日は深堀せずまたそのうちに述べることとする。

結局、システム開発関係者にとっては常識で当たり前の思考が、自治体職員にとっては慣れない異質な思考となっているのだ。
デジタル化の現場では『抽象化思考』が大きなカギを握る。これを担当レベルのみでなく、管理職を含む隅々までいきわたらせる必要がある。外注に任せておけば問題ないなんて思っている人がいたらとんでもない。システム開発は失敗がつきもので、大手が絡んだ開発も損害賠償請求訴訟が絡む大問題になるケースが結構あるのは業界の常識。
そしてその失敗を避ける一つの大きなカギが、依頼主(自治体)がどれだけ抽象化思考に追いついていけるかなのである。
「自分はデジタル化担当ではないから」なんて他人事にならず、ぜひともしっかりと、「具体→抽象→具体」思考を身につけていただきたい。

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