運命はここに
仕事終わり、最寄駅に降り立ったその日は、なんとなくそのまま家に帰る気にならなかった。
遅い時間の出張や、車通勤の普段とは違う電車移動も影響していたのかもしれない。
ふと思い立って、最寄駅にある映画館に立ち寄ることにした。
目当ての作品があるわけでもなく、開始時間が一番早い作品を見つけ、チケットを購入した。
『僕は明日、昨日の君とデートする』
なんとなくCMで流れているのを目にしたことがあるような気もしたが、誰が出演するかも分からぬまま席についた。
レイトショーのため人はまばらで、各列に1人いるかいないかという程度の空席具合。
静かにのんびりと鑑賞するにはぴったりである。
予告の映像が終わり、作品が始まった。
ああ。福士蒼汰が出ている作品だったのか。
ここで初めて知る事実。
ああ。この子かわいいなぁ。一体なんて女優さんだろう。
この子が小松菜奈であることを知ったのは帰宅した後のことである。
初めのうちはただの恋愛映画のようで、美男美女が青春を送っているように見えた。
なんだかベタな恋愛映画なのであろうか。しかしこれはこれで仕事終わりには良いのかもしれないと思いながら作品の世界観に没入していく。
ところどころ表情や言動に違和感を覚えながら見進めていくと、その謎が解説される。
パラレルワールド。
ああ。もしかして『君の名は。』と同じ感じか。
当時『君の名は。』を観ていたものの、世間のブームほどハマりきれなかったので、二番煎じかぁと少しガッカリ。
しかしだ。パラレルワールドではあるものの、そのパラレルワールドの中身を理解した途端、溢れ出す涙を止めることはできなかった。
なんて切なく、悲しく、そして美しい愛に包まれているのだろう。
作品が終わった後も涙は止まらず、この館内に人がまばらであることに感謝した日は最初で最後かもしれない。
ふとした瞬間に流れ出る涙を拭いながら帰宅したあの夜。
ふとした思いつきで映画館に立ち寄り、あの作品に出会えた自分の選択は、人生の中でも大きな選択だったことに間違いはないだろう。
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