ニノミヤユイさんと「Dark seeks light」、そして"リアルな表現"について

3年前、アニメ「#暗殺貴族」主題歌として提供させていただいた、Dark seeks lightが、一千万再生を突破した!!!!!めでたすぎる。
https://youtu.be/CL8ihD3rPC4

作家として基本的にはどの仕事にも愛あるんだけど、この曲は"自分のターニングポイントになった"という意味でも、凄く思い出深い楽曲。

自分がずっとトラップという音楽ジャンルが好きで、この時期は特にトラップ的なビート・メイキングに沢山挑戦していた時期だ。ただ、「どのようにしてトラップを自分のものにするか?」というのはずっと悩み続けていた。(というか、世の音楽スタイルを自分のものにする……というのは全ての作家にとって永遠の悩みであり奥深い課題だろう)

ベーシックなトラップという音楽ジャンルはビートが一定で催眠的、よれよれで中毒性が高い加工処理されたラップ(猥雑な表現アリ)が入るのが一般的なわけだが、ケンカイヨシがそれをそのままやってもリアルな表現にはならない。様々なチュートリアルをYouTubeで見れたり勉強する手段が多い今、精度の高いジャンルの模倣ってのは割と誰でも出来る時代なのだけれど、大事なのは"リアルかどうか"だと思う。海外のトラップで成功してるラッパーは現場でもそのスキルとフロウの反復性で評価されてたりするし、例えば千葉雄喜(KOHH)やBAD HOPがリアルなのは、自らの生き様も含めて現場からの"ヒップホップを演っている"ところにある。

それに対してケンカイヨシは、ごく普通に勉強して学校を出た、ネット文化とR&Bが好きなヲタクである。過酷なイジメられ経験はあるけど別にどの時期も友達いたし、超サブカル野郎とかでもなくポルノグラフィティやSMAPとかも好きで、雑多に文化をつまみ食いして楽しんできた普通の雑種成人男性だ。趣味でラップは嗜んで一回だけフリースタイル・バトルで優勝してはいたが毎回現場でガチバトルするとかでは無かったし、専ら俺の居場所というのはWindowsの前のサンプリング・キーボードで、そういう人間が、オートチューンかけてラップしてEy! Ey!って言っても、それはコスプレになってしまう。

だからこそ音楽制作でそのジャンルを取り入れる場合は、敬意を払って、あくまで自分にとって自然体な形で、借り物では無い表現をするべきだと思う。「Dark seeks light」は俺の視点から見たトラップの解釈だ。「K-POPを感じる」というコメントも多かったけど実は特に影響受けてない(好きだけど)。オフビートで決めるパーカッションは俺が好みの位置に置くとそうなるのと、どちらかというとJanet Jacksonの影響だと思う。「Trust A Try」って曲が素晴らしくて、オーケストラ、R&B、ヒップホップ、テクノ、ロックなど様々な要素が入り混じっているのだが、ジャネットの怒りの感情をしっかりと捉えてリスナーを戦慄させる大名曲である。

ヒップホップ、R&Bには他の様々なジャンルを自由に組み込んで、飲み込んで新たな分子へと進化していくジャンルとしての根本的な力があると思っている。「Dark seeks light」はもう一度"人生という物語"に対峙する殺し屋の心象を表現するために、トラップだけでなく、オーケストラ、ロック、古来のアニメ劇伴、フュージョン、フューチャー・ジャズ、ドラムンベース、アンビエントなど本当に様々な要素をミクスチャーした。それは横浜の郊外で雑多に音楽に夢中になってきた平凡な男の子であったケンカイヨシのリアルなのだろう。(まあでも、こういうことは理屈で考えながら創るのではなく、後から分かる)

何よりも楽曲の目的はニノミヤユイさんの声の魅力を引き出すことだった。彼女の声はガラス細工のように繊細なのだけれど、ひとたび感情の波に支配されて劈くように叫んだとき、千切れるギリギリの瞬間、人の心を最も動かす力がある。彼女自身のとてもナイーブで優しい、しかし内側に怒りの炎と情念も灯した魅力的な性格が反映されてるのだと思うけど、彼女の
最も魅力的な瞬間は"声楽的に正しくなくなった時に"訪れる。そんな彼女の魅力を引き出すために、「すいません!!!高いけど頼むからこのキーでお願いします!!!」と懇願した。笑

この楽曲は、殺し屋であるルーグがもう一度自分を生く物語であると同時に、アーティスト"ニノミヤユイ"がその声を持って生命を叫ぶエモーションにしたかった。彼女自身とってリアルなのはK-POPやトラップよりもボカロやアニソンだと思うし、だからこそ、この楽曲は『それぞれのリアルが交差した』傑作になったのではないだろうか。誰の真似もしない、ニノミヤユイだけの歌になったと思う。

まあともあれ一千万再生のヒット、満員御礼はめでたいことである!
またアニソン仕事したいな~(雑にここで終わり)


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