アはアーケードのア 第30回『コズモギャング・ザ・パズル』(1992年/ナムコ
ツイッターで元『ゲーメスト』編集長の石井ぜんじさんが『コズモギャング・ザ・パズル』のことをツイートしてくださってるのを見ました。
『コズモギャング・ザ・パズル』は、1992年に当時のナムコから発売された、アーケードの落ち物タイプのパズルゲームです。自分がディレクションした仕事のなかでもとくに気に入っているゲームの一つなので、少し当時の思い出を書いてみます。
『コズモギャング・ザ・パズル』のアイデアは、当時流行していた落ち物パズルのほとんどで使われていた消しかたのルールから脱却した遊びがつくれないか、というところから始まりました。
たとえば、『テトリス』ならさまざまな形のブロックを隙間なく埋める遊びで、『コラムス』『ぷよぷよ』は同色のパーツを決まった数並べる遊びです。
そうじゃない消しかたの落ち物もまったくなかったわけではありませんが、ほぼその2つのパターンだったと思います。そこで、とにかくその2つのどちらとも違う消しかたはないだろうか、ということを思案しました。
最初は漠然と、カラーブロックを並べると岩のようなものに変化し、それが下へ落ちて、点在するお邪魔キャラクターをつぶすようなゲームがつくれないか、と考えていました。ブロックとお邪魔キャラクターをそれぞれ異なる方法で消すパズルということです。
これは、何とか新しい消しかたがつくれないだろうかと考えたのと同時に、恒常的に出現するブロックに複数の消し方・役割が混在すると、それはそれで新しい遊びになるんじゃないか、ということも考えてみたんです。『テトリス』も『コラムス』も『ぷよぷよ』もすべてのブロックは等価で、消しかたのルールが統一されています(魔法石のようなアイテムやお邪魔ぷよなどの特殊な存在を除き)。
このとき、ビジュアル的には、何となく『ディグダグ』のような遊びが頭のなかにありました(絵は最初からコズモで考えていました。前作『コズモギャング・ザ・ビデオ』のリソースもあったので)。
でも、これだけのアイデアだと、いくら考えてもまったく成り立たないんですね。複数のブロックをそろえたらそのまますべてが岩になるのか、それともまとまった1個の岩になるのか? 前者だと大味すぎるし、後者だとその岩がどの位置に生成されるのか、わかりやすい法則がつくれない。
そもそも、真下にお邪魔キャラがいる状況を狙って色をそろえるなんて、パズル的に無理があるだろうと。もっとロジカルな攻略ができる仕組みじゃないとダメだってところで数週間ずっと行き詰まっていました。
その一方で、まとめ(大量)消しのような概念は絶対に必要だと思っていたので、岩を強力にできないかというのはずっと考えていて、すべてのブロックを貫通して下まで落ちていったらとか、広範囲に爆発を起こすとか考え始めたらもうドツボで、絶対に大味で訳のわからないものにしかならないって想像がつく。何というか、いろいろ単純すぎるんですね。
それで、あるときハタと、落下するから単純なのであって、岩なら転がるという発想もあるんじゃないかって気づいたんです。そうすれば縦横の動きが生まれて、単純ではなくなるんじゃないかって。
でも、そのときはまだフィールドに重力があるという発想に行き着かなかったのと、そろえたブロックが岩に変化するアイデアのままだったので、ブロックの山のなかに発生した岩が、何らかの法則でお邪魔キャラをたどって“上下左右に”くねくねと転がっていく、みたいなイメージでした。
これもちょっと考えるとわかるのですが、お邪魔キャラの並びが分岐したりグチャッと固まっていたときにどっちに転がればいいか、説得力のある法則性がつくれない。
そこでやっと初めて、重力があれば転がる方向に明快な法則性がつくれるんじゃないかってところに行き着きました。でも重力に従って転がるということは、そこに何らかの足場が必要だ。いや、すでにブロックという足場があるだろって気づいて、コズモがジグザグにつながった画面がイメージできました。
たぶんこの辺りで、このゲームにカラーブロックは不要なのではと気づいて1種類のコンテナにして、岩も落ちてくるパーツのなかにそのまま含めばいいじゃないかってなりました。で、世界観的に岩というよりボールかなってことでビジュアル案も変えました(ボウリングっぽいイメージでした)。
じゃあコンテナはどうやって消すんだろうって考えると、横一列にコンテナが並んでいたら、その下にボールが届かない。消去法で『テトリス』のように横一列にそろったら消えるルールしかあり得ないってところに帰結しました。ここまで来てルールが整いました。
ボールが降ってくる法則に確率(乱数)要素を入れるかどうかもここで考えたのですが、ボールがないと詰むゲームなので、一定周期で規則的に降ってくるようにし、戦略が立てられるようにして、その周期自体を可変の難易度パラメータにしました(レベルが上がるほど出現周期が広がっていく)。これも理屈としてほぼほかの選択肢があり得ない。
それで、このとおりの企画案をプログラマにつくってもらったら、一発でゲームとして成り立って、しかもおもしろかったので本当にうれしかった。あくまでベースは既存の落ち物の枠組みに乗っかった仕組みですが、正直、自分の仕事で後にも先にもここまでワンアイデアがきれいにハマって気持ちよかった企画はほかにないです。
『コズモギャング・ザ・パズル』の仕様のなかで、どうしてもしこりが残ってるのがボールの矢印です。このゲームは着地したボールが左右どちらに転がり始めるかで展開がまったく変わるので、たとえばスティックで自分の意思で決められる等も考えたのですが、余計な操作が入るのでイマイチだなと思いました。
それに左右どっちのボールが来るかでプレイヤーが対応を変えないといけない、というほうがパズルとしておもしろいんじゃないかとも考えました。ただ、問題だったのは転がり始める方向をプレイヤーにどうやって知らせるかです。
結局、ほかに思いつかなくて、ボールに矢印を描いたのですが、これが説明的な表現に思えて、当時すごく引っかかりました。でも、たとえば左は赤いボール、右は青いボールのようなアイデアなら見た目はエレガントですけど、それもつくり手の自己満足で遊び手本位の表現じゃないというか。
『コズモギャング・ザ・パズル』が何をすればいいゲームかわからない人がいる、という指摘があると聞きました。これはぼくもよくわかります。発想の元が、異なる属性が共存する落ちものパズルというところから始まっていて、コズモ・コンテナ・ボールの意味・役割が3つともまったく異なるので、それは戸惑うと思います。
世界観としてコズモが敵だということも知らないといけない、ということもホンのちょっと関係してるかもしれないですね。後に『パックアタック』なる移植版がつくられましたが、矢印問題も解決されていて、モンスターもイジケて青くなったり、なるほどと思いました。これはエレガントですね。
※一部記憶違いがあったので文章を少し修正しました(2023年1月19日)
※以下の文章を追加しました(2024年9月19日)
『コズモギャング・ザ・パズル』と『エメラルディア』を考えるときに、落ち物パズルを片っ端からプレイしていて、『洗脳ゲーム TEKI・PAKI』も参考にさせていただいた覚えがあります。ブロックがL字型で落ちてくるというのも『TEKI・PAKI』がなかったらたぶんやってなかったと思う。
『ソルダム』は『コズモギャング・ザ・パズル』が完成したころに見たんですけど、ぼく自身、横一列を隙間なく埋めるもしくは縦横斜めに決まった数の色を揃える「のじゃない」落ち物が作れないか延々考えてたころだったので、ああいう方向(リバーシ)でキッチリ遊びになってておもしろくて唸りました。
昔読んだ『パネルでポン』の開発者インタビューで、研究のためにプレイしたパズルゲームの一つで『コズモギャング・ザ・パズル』を挙げてくださってて、すごく光栄に思ったのを覚えてます。パズル物って比較的短期間で研究しやすいこともあって、当時はみんなかなりチェックし合ってたんじゃないかな。 了
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