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死の瞬間に立ち会う推理もの『オブラ・ディン号の帰還』

 しばらく前に話題になった推理もの『オブラ・ディン号の帰還(Return of the Obra Dinn)』をクリアしました。素晴らしいゲームでした。

 ……が、正直に書くと、全体の51/60まで自力で解いたところで、2日間ぐらい考えてどうにも先へ進めず、ネタバレを見て解いてしまいました。ゲームとしては非常におもしろかっただけに、後ろめたい気分でした。

 結局、3か所ぐらいネタバレを見て解いたのですが、ネタバレを見た感想としては「ああ、これは1週間考えても自分にはわからなかっただろうなあ」というものでした。謎解きのつくりがよくなかった、という意味ではけっしてなく、その解釈はきっと自分にはできなかっただろうという意味です。思考力と柔軟性の問題です(笑)。

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(引用の画像はNintendo Switch版です)

 で、自力で解けなかったのでお恥ずかしいのですが、じつにおもしろいゲームではあったので、今さらですが少し感想を書いてみます(明確なネタバレはないと思います)。

サイコメトリーで登場人物の記憶にダイブする

 『オブラ・ディン号の帰還』は、サイコメトリーの力を使って、ある船で過去に起きた事件の謎を解明する推理ものです。ゲームは誰もいなくなった船上で進行していきます。

 サイコメトリーとは、死者や物体などの残留思念から過去を読み取る超能力の一種です。このゲームでは、道具を使うことでその力を発動することができます。

 プレイヤーの手元には、60人の乗客および船員の名簿と顔イラストがあるのですが、最初の時点では名前と顔の対応がわかっていないので、それを一致させた上で、それぞれがどんな運命をたどったか、選択肢から選んで埋めていきます。全部正解すれば任務完了です。

 サイコメトリー能力で見ることができるのは、各人物の死の瞬間の“静止”画像と、その直前の数秒間の音声だけです。この静止画像がおもしろくて、プレイヤーはその空間をフル3Dで自由に移動し、好きな方向から見ることができます。時の止まった世界を闊歩するイメージです。

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 だから、このゲームの3Dシーンにはキャラクターのモーションが一切ありません。一切ないのに、緊迫した場面ばかりということもあって臨場感抜群で、登場人物が今にも動き出しそうに見えます。

 サイコメトリー中に移動できる範囲はかなり限られているのですが、カメラをいろいろ動かしていると、意外な場所や方向に重要な情報が見つかることもあります。

謎解きは絶妙な論理パズル

 推理のポイントとしておもしろいのが、死の瞬間を見ても、原則としてわかるのは死因だけで、その人の名前まではわからないということです。直前の会話中にその人の名前がストレートに呼ばれるわけではないので、間接的に誰なのかを導き出していきます(死因すらわからないことも多い)。また、誰かに殺された場合は、殺した人物の名前も特定しなければいけません。

 ゲームとしては論理パズルを解いている感覚でした。この人がこう呼ぶ相手はこの人しかいない、この人には船内に兄弟がいるからまずは名簿で同姓を探そう、ロシア人は3人しかいないからそこから絞り込める、この2つの時間の間に現場からいなくなったということは……等々、各サイコダイブを行き来しながら絞り込んでいく感じです。

 登場人物の職業と国籍は明かされているため、身なりや振る舞いも人物特定の大きなヒントになります。(自分には)あまり馴染みのない船員の職務も出てきて、なかなか新鮮でした。

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 UI関連がとてもよくできていて、一度見た情報はすべて事件が起きた時系列順に手記としてまとめられ、すぐアクセスできるようになっています。残りはどこを埋めればいいのかも、わかりやすくなっています。

 謎解きのヒントは、サイコメトリーの空間内だけでなく、手記にあらかじめ書かれている文章のなかにあったり、乗客の画家が描いた集合イラストが参考になったり、あちこちに散っています(でも物量は限られているので面倒ではない)。

 難しいのが、最初に書いたとおり、60人分の情報を埋めるわけですが、特定の3人ずつで1セットになっているらしく(プレイヤーには開示されていない)、セットで当てないと「調査が進展した(正解した)」ことをゲーム側から教えてもらえないのです。

 だから、たくさん穴埋めしてもなかなか進展しないこともあるし、埋めたうちのどれが正解で、どこを間違えているかがわからなくて、自分の推理に疑心暗鬼になる。この辺がうまくてイヤらしいところです。

 この「調査が進展した」アナウンスが流れたときの達成感がメチャクチャ気持ちよくて、その瞬間はホントに突然やってきます。たとえがえらい古くて唐突で恐縮ですが、セガの『シンドバッドミステリー』で、大体のアタリをつけていた宝箱を掘り当てた瞬間の手応えによく似ています。

 ちなみに、最初に書いた、ぼくが終盤で行き詰まったというのは、おおよそ静止画像の解釈の仕方でした。正解を聞いたあとでも「考え続けても、おそらくそういう風に見るとは思い至らなかった」というところが何か所かあって、本当に気付きませんでした。

プレイヤーの意にそぐわない展開がけっして起こらない

 遊んでいて非常に心地よく思ったのが、プレイヤーが、過去に起きた事件を「見る&聞くことしかできない」という点です(ほかにも同じような考えかたのゲームはあるとは思いますが、個人的にひさびさにADV系をプレイしたということもありまして)。

 このゲームでは、たった一人、調査員として過去の事実をサイコメトリーで確認していくというストーリーゆえに、誰にも話しかけることも質問することもできず、またその逆も起こりません。主人公は完璧に“観測者”でしかないんですね。

 だから、ストーリーもののゲームをプレイしているときにときどき感じてしまう、「話が(自分の意思と関係なく)勝手に進んでいく」「自分ならここでこういう言葉の返しをしたいのに」「もっと違う話が訊きたいのに」といった、会話時の違和感、ゲーム世界に対する心理的な乖離がほぼ起こり得ない。設定上、ごく自然にそうできているわけです。

 その上で、サイコメトリーシステムのおかげで、この上ない臨場感と没入感を味わうことができる。ドラマと遊びの親和性が非常に高いんですね。『オブラ・ディン号の帰還』には、そんな心地よさがありました。 了


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