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適用拡大から適用除外規定の見直しへ
勿凝学問419
適用拡大が、先日の年金部会の議題であった(2023年5月30日)。そこで、次のように話している。
全世代型社会保障構築会議の報告書では、適用拡大というよりは、適用除外規定の見直しと書かれています。つまり、被用者に対して、適用を除外している規定そのものがおかしいのであって、適用をどこまで可能なのかという、適用拡大のアプローチはもうやめていいよねという表現に似ています。
第4回年金部会での発言
あの日の全文を――いや、まだ発言しないつもりでいたら、いきなりさされてしまい。
議論の優先順位
○菊池部会長 ありがとうございます。
権丈委員はよろしかったですか。
○権丈委員 僕は手を挙げていなかったけれども、先ほど〔厚生年金ハーフの話題の中で〕私の名前がでてきたこともありますので、発言しようかなというのがあります。・・・
資料2の「次期制度改正に関する主な検討事項(案)」についても発言していいですか。
前回、原委員から加給年金について、そして、原委員と島村委員から遺族年金についての詳細な説明がありまして、私は2人の意見に賛成するという意見を述べたので、「家族と年金制度の関わり」のところに、最初に遺族年金があるけれども、その次に加給年金を置いてもらいたいと思います。一昨年の2021年の「年金学会シンポジウム」でも、遺族年金と加給年金の改革が、これからのなすべき年金改革の最優先に位置づけられていました。「加給年金は、可及的速やかに改革をすべき」と言って滑っているのもいましたけれども、年金に詳しい人たちは、大体遺族年金と加給年金をしっかり改革していくのは、次の課題であるなというのが落ち着いている話です。
いわゆる「年収の壁」とかを年金部会で話し合うのは、素人丸出しでちょっとあれだなというのもあるのですけれども、いろいろ年金局の事情もあるのだろうからと思いますが、年金部会が持つ限られた時間を効率的に使うという目的を掲げるとすれば、遺族年金と加給年金を最優先に置くべきではないかと思います。
適用拡大から適用除外規定の見直しへ
今日のテーマの適用拡大についても、コメントしておきますと、適用拡大は、本当に政治力学を学ぶ上でのよい教材になるわけですが、この種の議論をする際に、2つのアプローチが考えられます。1つは、次の一手をどうするかというアプローチがある。これまで取られてきた適用を、どの範囲まで拡大するかという2004年前夜から取られてきた手法はこれです。もう一つのアプローチは、目指すべきゴールを先に描いて、それに向けて、みんなで時間をかけて努力していこうというアプローチになります。
今回は、全世代型社会保障構築会議の報告書がベースになっているので説明しておくと、この報告書は後者のアプローチを取っています。資料3の12ページを御覧ください。黒い星の3つ目に、週労働時間20時間未満の短時間労働者への適用拡大が書かれています。
第1段落の最後のほうに、「そのための具体的な方策について、実務面での課題や国民年金制度との整合性を踏まえつつ」とあります。これ、線を引かなければいけないぐらい大事なところですね。
この文章は何を意味しているかを説明したいので、次に、資料3の15ページを御覧ください。最後の文章に、「20時間未満の短時間労働者について、国民年金制度との整合性等を踏まえつつ、被用者保険の適用拡大を図るためには、厚生年金の事業主負担のみを課す形にならざるを得ないのではないか」と書かれています。この発言は、この年金部会で私がしたわけですけれども、第2回会議でしたのは、議事録を見ると、「事業主負担のみを課す形になるといいますか、そうならざるを得ません」と発言しています。事業主負担のみを課す形になるように、全世代型社会保障構築会議の報告書は書かれています。20時間未満は別に被用者保険の適用拡大されていないので、1号の人は1号、3号の人は3号、その上に厚生年金の事業主負担が載るというものなので、この制度を不公平と言うのであれば、今の制度は不公平ということになるわけです。
そういうことで、当時、昔は「1.5号」と呼んでいたけれども、全然受けもしなかったので、香取さんがあるときから「4号」と言い始めたから、この前は「ハーフ」と言って、それで、みんなの記憶に残ったかなという段階ですね。だから、20時間未満のところは、1号も手をつけない、3号をも手をつけない。ただ上に載せるというだけの話ですね。全世代型社会保障構築会議の報告書は、その事業主負担のみを20時間未満に課す形になっていて、構築会議の報告書に基づくと、事業主負担の形にどうしてもなるのですね。なるというか、そういうふうになるように書いているわけです。
岸田内閣の下で言われている「勤労者皆保険」は、岸田さんが政調会長をしていたときにまとめていた報告書に、「所得の低い勤労者の保険料は免除、軽減しつつも、事業主負担を維持することなどで、企業が事業主負担を回避するために生じる見えない壁を壊す」と書かれています。これは、私は、第2回年金部会で話した「厚生年金ハーフ」を、20時間未満のところに適用するという話になります。だけど、ここは被用者保険を適用拡大してないのだから、国民年金1号との整合性を持って、20時間未満には適用拡大していないのだから、昔のままで被保険者による選択肢もない。全世代型社会保障構築会議の報告書では、適用拡大というよりは、適用除外規定の見直しと書かれています。つまり、被用者に対して、適用を除外している規定そのものがおかしいのであって、適用をどこまで可能なのかという、適用拡大のアプローチはもうやめていいよねという表現に似ています。
そういう「勤労者皆保険」という目標に向かって、今の年金政策は進んでいると。そこに、事業主負担を新たに迫られる人たちが、いかに抵抗していくかというレントシーキングが展開されて、そうした状況の中で、労働市場では、本格的に労働力希少社会が始まり、労働力を獲得するために、支払余力のある企業が、適用除外規制によって守られて、言わばダンピングしているような企業に対して、容赦ない勝負を仕掛け始めているというのが現状かなと。
そうした状況を眺めながら、年金局は、この案件を進めていくために、年金部会をどのように活用していくかを考えているだろうけれども、これまで、年金部会はあまり役に立たなかったんだよねというのがある。今回は、役に立ちたいなと思っています。
こうした状況を理解したメディアは、どこまで弱者の人生を救えるかという課題を担っているわけですが、そういうドラマが展開されているものとして、年金回りの政治経済学的な動きを、これからも楽しませてもらおうと思っていますということで、終わりたいと思います。
以上です。どうも。
被用者保険の適用除外規定は図を描いて考えたらいい
適用除外規定の見直しは、図で考えるのがいいと思う。以下に貼り付けている図は、2007年に出した『医療政策は選挙で変える――再分配政策の政治経済学Ⅳ』に描いていたものである。したがって、現行制度は、2007年時点を意味している。その後、次の適用除外規定の見直しが行われてきた。
![](https://assets.st-note.com/img/1686930471859-Sdyuqty4G5.png?width=1200)
なお、以下は、2007年の本の「勿凝学問67 映画「サンキュー・スモーキングのすゝめ――天高く空に舞い日本中に知れわたれ、パートへの厚生年金適用拡大問題」に書いていたものである。今回の「こども未来戦略会議」の時も、担当の若い記者達には、映画「サンキュー・スモーキング」を勧めていた。たとえば、次のように・・・。
Sent: Saturday, April 29, 2023 12:21 AM
To: 'kenjoh@keio.jp' <kenjoh@keio.jp>
Subject: 映画「サンキュー・スモーキング」のすゝめ
こんばんは。昨日の第2回こども未来戦略会議の後に勧めた映画は次です。是非。
Amazon.co.jp: サンキュー・スモーキング (字幕版)を観る | Prime Video
・・・
ここでひとつ問を。
連帯基金の話は、日本だと、労使が揃って反対することははじめから見えている。それは太陽が東から昇るのと同じくらい当たり前の話と、先日の日本記者クラブで話しています。その彼らが、取りやすいところから取ると言って反対する場合、その政治経済現象は何を意味するのか?
なにか考えたら、連絡してきて下さい。
ということで、以下では、「情報操作(スピン)」というような話もでてくる。それは、2007年に出した本では、パートへの厚生年金適用拡大の話を、次の文章から書き始めていたからである。
![](https://assets.st-note.com/img/1687611322881-szfIoutcrf.png)
![](https://assets.st-note.com/img/1687611414071-7Irab9EhZw.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1687611461368-eWrhsd5YIj.png)
こういう調子の文章の延長線上に、以下の文章はある。
![](https://assets.st-note.com/img/1686930896102-gbc29Q7wL2.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1686930873977-rH8yFlDySo.png)
![](https://assets.st-note.com/img/1686929863257-zMsqN0g6fb.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1686930940788-VjpAP7213z.png)
![](https://assets.st-note.com/img/1686930999892-KzOBkBMeud.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1686931045151-uLG5cbI5qP.png)
![](https://assets.st-note.com/img/1686929889337-qMwZYaVIV7.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1686931108606-X3aIzM1EmC.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1686931146992-pN0MCmxZA5.png)
ここでスピナーとは
次の「スピン(情報操作)」を行う人のことである。
![](https://assets.st-note.com/img/1686931393358-tD8ZTvxGsa.png)
![](https://assets.st-note.com/img/1686929918855-fYBrvC9YXJ.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1686931511931-2VdsfLhAxM.png)
![](https://assets.st-note.com/img/1686931568612-Ihy4T1GejI.png)
労務コスト線から屈折点をなくす
![](https://assets.st-note.com/img/1686929950836-9NpiKhNBRg.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1686931626449-j764C2LiqF.png)
働く人たちからは見えない壁
さて、2007年の頃、屈折点をなくす話をしていたわけだが、2015年に出した『年金、民主主義、経済学――再分配政策の政治経済学Ⅶ』では、「見えない壁」の話をしている。
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![](https://assets.st-note.com/img/1686932553337-Ks0XSf290E.png?width=1200)
ここで、2007年の文章に戻ろう。
![](https://assets.st-note.com/img/1686929972511-q5EIlOElVf.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1686931775866-oHSQCa7nic.png)
![](https://assets.st-note.com/img/1686933273173-N8MVi97nlt.png?width=1200)
社会保険の生んだドイツでは、労使折半の原則を修正して「見えない壁」を設けないようにしているところなど、日本は参考にしてもいいところだと、はるか昔から思っているところである。
世の中まんざら捨てたもんじゃないことを教えてくれる退職者団体
なお、次は、日本退職者連合による、政府への2017年要求である。
![](https://assets.st-note.com/img/1687611918285-Wr6qFplXJo.png?width=1200)
退職者連合の人たち・・・そもそも、本来、社会保険というのは労使折半であって云々などと言わず、ずいぶんと頭が柔らかい。良い感じである。なお、同年、次のも、退職者連合は、政府に要求している。二重取消線の文章は、前年度からの削除である。
![](https://assets.st-note.com/img/1687612175273-M35NWs856B.png?width=1200)
このあたりの詳細は、『ちょっと気になる社会保障 V3』の「知識補給 世の中まんざら捨てたもんじゃないことを教えてくれる退職者団体」をご笑覧あれ。
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