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【編集後記】 Dance for Cielo | 変わりゆくニューヨークで消えていく場所に対してできること(後編)

前編では、CieloというクラブとVoodoo Rayという人について、また消えていってしまった5pointsという場所について書きました。

後編では、そんな思い出のある場所に対して自分ができたことと、やってみて感じたことを残したいと思います。


消えていくかもしれない場所に対してできること

Cieloの内装工事を見てから、自分から行動を起こすことに対するモヤモヤした気持ちと、過去の経験から時間は待ってくれないことを理解している理性との間で少し葛藤しましたが、意を決して何か遺せるものを作ることを決めました。

ニューヨークのハウスヘッズ仲間であるNorryKazushiに事情を話すと、快く協力してもらえたので、ダンサーを募集することにしました。

Hi NYC dancers, hope y'all are staying well and healthy!
I'd like to let you know that I'm planning to do a dance shoot this weekend in front of Cielo.
I visited Ray's mural last weekend and saw there was construction going on inside the venue. I'm not sure if the venue will be taken down in the near future but I wanted to get together with dancers and record a memorial video with everyone before it's gone.
Please DM me for details if you want to dance for this project and share this information with your friends!
Thank you! - Kenji

ざっくり和訳するとこんな募集案内です。

NYCダンサーのみんなへ
今週末にシエロの前でダンスのシューティングをします!
先週末にレイの壁画を見にシエロに行った時に、内装工事をしてるのを見かけました。
この工事でシエロがなくなってしまうかは分からないけれど、手遅れになる前にダンサーのみんなで集まって記録を残せたらいいなと思ってます。
このプロジェクトに興味があったら、ぜひDMください!

という感じです。

このクラブが多くのダンサーやハウスミュージックを愛する人たちにとって大切な場所であることは分かっていたので、撮影を計画するにあたり、シエロでのイベントに関わっていた人たちや、ニューヨークのハウスダンサーOGには個別に連絡をして、プロジェクトの主旨を伝えるとともに、協力をお願いして回りました。

その結果、ニューヨークの第一線で活躍しているダンサーを含めて、総勢17人のダンサーが参画してくれました。

また楽曲はBoddi Satvaの “Tribute to Cielo” という、この場所への想いを込めている曲を本人の承諾をもらって使用しました。

ギャラを出せるようなプロジェクトではなかったにも関わらず、これだけたくさんの人が参画してくれたことに感謝しきれません。

しかし実際に参加してくれた人たちの動機は、Cieloという場所や、Voodoo Rayというレジェンド、ひいてはハウスコミュニティの愛の深さへの行動であることから、同じ気持ちでプロジェクトに取り組めたことを嬉しく感じました。


カルチャーに参画するということ

Voodoo RayがCieloで長らく主催していたFunkbox NYCというイベントがあります。

彼の死後、運営を引き継いでいるCynthia Roseもこのプロジェクトに参画してくれました。

彼女との撮影後、ランチをしている時に彼女がしてくれた話を聞いて、ハウスカルチャーとはどういうものなのか、カルチャーに参画するとはどういうことなのかということを教えてもらうことができました。

彼女いわく、ハウスカルチャーは誰もが参画できるカルチャーであり、その現場はクラブのパーティーです。

サイファーを囲む中で、どういう振る舞いをするべきか、みんなが安全に楽しく、自分らしく踊れる場所を作れているか、ということをお互いに確認しながら、何かトラブルがあった場合にはその場で指摘して教え合う。そういう場所がハウスのコミュニティであると。

ニューヨークという場所はとてもユニークな場所で、毎年たくさんのダンサーが本場のハウスカルチャーを学びに来ます。
やってくる人たちは、Dance Fusionに代表されるハウスダンサーのOGに歴史やカルチャーを学び、彼らに学べる機会があることを感謝してくれますが、OGの立場からしても、こうやってたくさんの人がカルチャーを学びに来てくれることに感謝していること、また自分が新参者だと思っても、主体的にこのカルチャーに対して参画してアクションを起こしてくれることに感謝しているということを伝えてくれました。

自分自身はニューヨークに来てまだまだ日が浅いし、なにかアクションを起こせるほど勉強できているとは言えない立場だと感じていたので、彼女の言葉を聞いて安心するとともに、やってよかったと感じることができました。


最後に

このプロジェクトを通して、自分自身にもたくさん学びがありました。

なによりも大きな学びは、ハウスカルチャーはどんなバックグラウンドを持っている人でもクラブの中では平等であり、音楽を通してその喜びをシェアする場所であるということ。愛を持ってお互いをサポートしていく場所であること。そしてたくさんの人がそれを日々現場で体現しているということでした。

日本から見えるニューヨークという場所は、エネルギッシュでクリエイティブな、新しい価値観を生み出し続ける場所という側面が強く伝わっていると思いますが、もちろんそういう側面だけではありません。

日々の生活がやっとな人、差別に苦しんでいる人、競争に負けてしまった人など、ネガティブな苦労を抱えながら過ごしている人もたくさんいます。そういう人たちにとってのセーフティネットとなり、自分を解放できる場所を作ることがハウスミュージックコミュニティの在り方であったのだと思います。

社会の変化とともにコミュニティの在り方や求められる要素は変わっていくと思うので、「ハウスミュージックコミュニティ」と一言で言っても、そのベースとなる国や都市、時代や参加する層によって、その実態はまったく別のコミュニティであることは十分に考えられると思います。

数あるハウスミュージックコミュニティの中で、僕はニューヨークのハウスミュージックコミュニティに惚れて、今こうしてそのカルチャーの一員としてこの毎日を過ごせていることに感謝が絶えません。

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