会社を辞めてから4年で合格できた私の司法試験合格法

平成14年,それまで勤めていた会社を退職して司法試験の勉強を始めました。大学は社会学部マスコミ学科,社会人で経験した仕事は営業と会計。法律を勉強したことも仕事にしたこともありませんでした。
そんな私が平成18年に司法試験に合格できた理由と実践した勉強法を書いておきます。どなたかのお役にたてましたら。

限りある貯金で法律知識ゼロからの合格を目指すためには,もっとも効率的な勉強方法を選択する必要がありました。
まずやったことは合格体験記を読み漁ること。司法試験予備校に行くと無料の合格体験記が置いてあります。数多く読んでいくと短期で合格した人に共通する勉強方法と思考方法が見えてきました。

・逆算で考える
・アウトプット至上主義
・弱点を作らない
・ホームランより内野安打
合格体験記から得た短期合格者の思考方法は、後の司法試験合格に大いに役立つことになります。

■逆算型の勉強

合格体験記を読み漁って気付いたのは短期合格者はみなゴール(試験問題)を意識した勉強をしていること。教科書を読んでいればいつか合格レベルに達するだろうという積み上げ型の勉強ではなく,早めに本番試験問題に触れることで合格レベルを把握し,合格レベルに達するために必要な限りの知識と答案作成技術を得ようとする逆算型の勉強。これこそポイントだと考え,教科書よりも先に過去問集を買って問題を解き始めました。司法試験には択一式(マーク式)試験と論文試験があるのですが,まず択一式の過去問集を買ってきました。
しかし..全く分からない。問題に書いてある日本語が分からない。法律のど素人であった私に司法試験の過去問が解けるはずはありませんでした。先に解答を読んでも1%も分かりません。法律用語≒外国語レベルだった私に,いきなり過去問を解くことは不可能でした。

目標を達成するための大枠は
1 目的地(合格ライン)を知る
2 現在地を知る
3 現在地→目的地まで辿り着く手段をゴールから逆算で考える
4 3で考えた手段を実行する
ことの繰り返しだと考えています。ただ現在地とゴールがあまりに離れている場合,ゴールを見てもゴールまでの遠さすら理解できません。勉強を始めた当時の私にとっては,現在地(知識ゼロ)とゴール(司法試験過去問)の距離があまりに離れていたため,いきなり過去問にあたるのは無理があったのです。まずは,現在地とゴールの距離を正確に測るための最低限の知識が必要でした。私は司法試験予備校に通うことにしました。

■アウトプット→インプット型を守る

司法試験予備校に通い始め,問題文と解説を読んで意味が理解できる程度の最低限の知識を得た後は,ひたすら以下のアウトプット→インプット型の勉強を繰り返しました。
1 問題を解く
2 分からなければすぐに解説を読む
3 解説を読んで分からなければ,教科書・参考書に戻る
4 1~3の流れで得た情報をノートに一元化するして残す
5 模試前やすきま時間に一元化したノート(4)を読み直す

インプット→アウトプット型の勉強、たとえば
教科書をひたすら読む→簡単な問題集をとく→過去問等の試験問題をとく
だと,教科書を読む最初の段階で最終ゴールを意識できないため,勉強が非効率的になるどころか、教科書を最後まで読むこと自体が目的になりかねません(教科書最後まで読んだけど何も覚えてないという陥りがちなワナは、インプット→アウトプットという誤った勉強の順序にあります)
インプットでは,必ずアウトプット(インプットする目的,自分はなぜいまこの情報をインプットする必要があるのか)を意識して勉強するようにしました。

■合格答案の型を意識する

アウトプットを繰り返してくると,良かれ悪かれ自分の文章の型ができてきます。この型に変なクセがついてしまわないよう注意していました。自分の型をできるだけ合格答案に近づけるべく,短期合格者の答案を定期的に読み,ときに写経していました。文章のクセは一度定着したらなかなか修正が難しいので,自分の型のチェックは怠らないようにしていました。

■手書きにこだわる

アウトプット(答案作成)する際は必ず手書きでした。司法試験の答案は手書きで作成するからです。答案をパソコンで作っている方もいましたが,本番が手書きである以上ひたすら手書きにこだわりました。
逆算思考を徹底し「できるだけ本番に近い状態でアウトプット」することが合格への近道だと考えていました。
インクを使い切ったボールペンの数は年間100本を優に超えていました。

■ときには本番以上の状況で

問題を解くときは必ず時間を計り,できる限り周りに人がいる状況(本番に近い状況)でアウトプットしました。
ときには試験本番以上の厳しい状況,たとえば制限時間を本番より短くするだけでなく,大混雑している喫茶店,電車内などで答案作成をしていました。タイガーウッズが幼少期にあえて高速道路近くで練習して集中力を高めていたと聞いたことがあり,真似していたのです(単純)
「エベレストを目標にして準備している人が富士山に登ることは容易だが,富士山を目標にしている人がエベレストに登れることは絶対にない」というエベレスト理論に大いに共感します。

■「自分だけ知らない」を無くす

試験一般に言えることですが,難しい問題はどうせ誰もできないので差がつきません。逆に皆ができる問題なのに自分だけできないのは致命傷になります。皆が知らない難しいことを知っている必要はないのです。皆が知っているのに自分が知らないことをどんどん無くしていけば自然と合格ラインを超えられます。なので教科書や参考書はできるかぎり多数派が使用するメジャーなものを使うようにしていました。教科書参考書選びにおける無駄なこだわりは、合格において一切の邪魔になります。好きなマイナー系教科書があるなら合格してから読んで下さい。

■長いものには巻かれる

択一式(マーク式)試験の必勝法としてよく言われることですが,全受験者がもっとも多く選んだ選択肢をマークすれば(つまり多数派であり続ければ)合格点に到達できます。
受験者で多数派に常に入っていれば択一式試験は合格できるのです。択一式試験で悩んでどうしても答えが出なかったときは,安易にサイコロを振らず「周りの受験生だったらどちらを選ぶか」と想像して肢を選ぶようにしました。必勝法は長いものには巻かれるです。

■「ヤマがあたる」は慎重に

ヤマがあたったときこそ最も慎重になるべきです。ヤマがあたった勢いに任せて,覚えていたこと,準備していたことをそのまま吐き出してしまいがちなのですが、司法試験本番においてヤマが100%あたることはまずありません。よくて6割,通常はかする程度。こういうケースでヤマが当たったと判断して覚えていたことを吐き出そうとすれば,必ずや問題文を無視したエゴな答案ができあがるはずです。
司法試験は覚えていることを吐き出して合格できる試験ではなく、その場で考えることが求められる試験。ヤマがあたったと感じたときこそ逸る気持ちを抑え,素直に問題文を読む、出題者の意図を読み切ることを心がけていました。

■資格試験も商売も基本は同じ「顧客視点」

商売では、自分のエゴで売りたい物、買ってほしい物を並べても売れません。顧客が欲しい物を提供するから売れるわけです。
資格試験における顧客は出題者。顧客を無視したひとりよがりな回答を書いても合格できません。頑張って暗記したことだから答案に書くってのは、お客が欲しくないのに在庫が余ってる商品だから店に並べるのと同じ。「問いに答える」とは、出題者が欲しい回答を提供することに尽きます。

■内野安打を積み重ねる

司法試験に上位で合格するのではなく司法試験に合格するのが目的であれば,ホームラン答案(上位数%高得点)を狙う必要はありません。ホームランを狙う場合,バットを強振するような「攻めの答案」を書くことになりますが,その分空振りするリスクも増えます。
とにかくバットに当てる、ボールを前に飛ばす「守りの答案」。全打席で内野安打,バントを積み重ねれば,司法試験の合格は見えてくると考えていました。

■「守りの答案」とは

・問題文にきちんと答える(自分の書きたいこと,覚えていることを書くのではなく出題者が書いてほしいことを書く
・明らかなウソを書かない(条文,最高裁判決と矛盾するとか)
・論理が破綻していない(高校生が読んでも理解できる程度の単純明快な論理展開)
・規範(抽象)→あてはめ(具体)の流れを愚直に守る
これらを守っていれば学説や何やらの難しいことを書かなくとも,合格水準には十分に到達します。

■足(肢)にスランプはない

司法試験には択一式(マーク式)試験と論文式試験があるのですが,論文は難しく,どれだけ勉強しても全く分からない問題に出くわすことも少なくありませんでした。論文式は勉強量と結果が比例しにくい試験であり、計算が立ちづらい試験でした。そこで勉強量と結果が比例しやすく計算が立ち易い試験である択一式(マーク式)試験を徹底的に勉強することにしました。

野球でいうならば論文式はバッティング、択一式はベースランニングです。バッティングは相手のピッチャー次第(設問次第)で全く打てないときもありますが,ランニングは常に安定した実力が出せます。足(肢)にスランプはありません。

私が受験した平成18年度司法試験は合計4日間のスケジュール。1日目が択一式,2~4日目が論文式,双方の総合点で合格が決まる方式でした(当時)。1日目の択一式は計算を立て易く、勉強量さえ重ねればそれなりの点数をとれる見込みがあります。初日の択一式でコケると,後の2~4日目に心理的影響が出てしまう懸念もありました。

初日の択一式を集中して勉強することにより,択一式で上位をキープしてその貯金で2~4日目の論文式をしのぐ「先行逃げ切り型」で勝負することにしました。結果的にこの作戦は成功しました。

■試験本番、初日の択一試験

平成18年5月,司法試験に臨みました。初日の択一式。擦り切れるほど読んだ判例六法や知識一元化したノートをお守り代わりに持参し試験会場に入ります。平成14年に会社を辞め勉強を始めてから4年間,毎日10時間以上,直前期には14,5時間は勉強していた日々を思い出し絶対に合格すると固く誓います。
択一式試験スタート。対策をしていた甲斐あり確かな手ごたえがありました。

■2日目の論文試験

午前は倒産法。ほぼ予想どおりの問題。ヤマが当たったことに歓喜せず粛々と解答を作成します。

午後,憲法・行政法。行政法の問題を一読しましたがさっぱり分かりません。「こんな問題やったことない」頭が真っ白になります。迫り来る終了時間。まずい、パニックになりかける。ここで初日の択一試験を思い出しました。
「初日の択一で貯金ができているはず」
「行政法はしのぐことに徹しよう」
初日の択一に精神的拠所を得ていたことで落ち着きを取り戻し,行政法では守りの答案,すなわち
・ウソだけは書かない
・ホームランを狙わない
・内容は薄くとも,一応の論理は流れている
という加点はされにくいが減点もしづらい答案をめざしました。

■行政法終了。択一の貯金の大半を使った感がありましたがその半面で守りきった充実感もありました。引き分け時間切れを狙うような「守りの答案」の練習をしていたことが本番で生きたと思いました。

2日目が終了し,試験日程の半分が経過。ちょっと良いものでも食べて帰ろうと思った矢先,体に力が入りません。まっすぐ帰宅したものの,症状は悪化するばかり。以後最終日まで,高熱とも戦うことになります。

2日目の晩から,高熱でダウンした私。幸い,2日目と3日目の間に休日が設けられていたので丸一日寝ていたのですが,一向に熱は下がりません。39度弱、勉強はほとんどできませんでした。

■3日目の朝。体調は全く戻ってませんでしたが,試験を休む選択肢はありません。体温計を見ても仕方ないと思い熱は測らず出かけました。

試験会場に着くなり気分が悪くなり,医務室に連れていってもらいます。着いた先はパイプ椅子を並べただけの急造「医務室」。私以外の受験生が,既に5,6人いました。「自分だけじゃなかった」安心感と連帯感を覚え,少しばかりの勇気が沸いてきます。

「医務室」から試験会場に行くと,2日目までには無かった空席がちらほら出来ていました。試験内容は,ほとんど記憶にありません。額に冷えピタを貼りながら「医務室」と試験会場を往復していたことを覚えています。

■4日目。体調は変わりません。「医務室」はパイプ椅子の部屋から畳の部屋に昇格していました。

試験会場の空席は更に増えていました。もうダメなんじゃないかという不安と,今日で試験が終わる嬉しさが入り混じります。試験中は「初日の択一は出来たはず」「諦めたらそこで試合終了」と,初日の択一の手応えだけを心の支えにしていました。

■全日程終了。あれだけ楽しみにしていた試験終了後の打上げも顔を出すだけにして,すぐに実家に急行。緊張の糸が切れたのか,そこから丸3日間寝込みました。

■試験から4カ月経った平成18年9月。合格発表の日。合格していました。ただただほっとしました。支え続けてくれた家族や勉強仲間,友人に心から感謝しました。択一試験の成績は,全受験者の上位5%に入っていました。

問題の行政法に加えて3日目以降の成績がぱっとしませんでしたので「初日に作った択一の貯金で逃げ切る」作戦が結果的にあたった結果となりました。

■私が伝えたいのは「択一がんばったでしょ」「病気したけど合格できたすごいでしょ」ということではなく,
・勉強量と結果が比例する分野,計算が立つ科目に徹底的に時間を投資し得意分野としておく(私の場合は択一試験だった)
・予期せぬトラブルや焦りが生じたときは,得意分野を精神的拠所として乗り切る
・計算が立ちづらい分野においては,最低限守りきれる方法,しのげる方法を確立しておく(加点されにくくとも減点もしづらい守りの答案作成に慣れておく)
という考え方です。現在の司法試験では試験制度が当時と異なるため、上記が現在も機械的に妥当するわけではありませんが,計算が立つ分野に時間を投資してあらゆる出来事に対応できる耐性を作っておく考え方自体はあらゆる試験に応用できると考えています。

■私の司法試験合格法をまとめると
・合格のためには波及効果が強い(レバレッジが効く)勉強方法を選択する
・波及効果が強い勉強方法はすべて短期合格者の合格体験記に書かれている
・勉強方法が定まればスケジュールに落としこみ,後はひたすら実行する
です。
私自身,生まれつき勉強が得意な人種ではありませんが(高校の数学で6点とったこともあります)それでも何とかなりました。今回書いた勉強方法も、多少なりとも今後受験される方々の役に立つのではないかと思い,ここに残しておこうと思いました。
今回の記事も,とある元受験生のいち合格体験記として資格試験や仕事のヒントとなれば嬉しく思います。

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