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NPO法人 訪問と居場所 漂流教室 理事 相馬契太さんインタビュー(後編・1)

前編から続く

ボランティアの感覚

杉本:利用者さんの感覚は次第に見えて来たんですけど、ボランティアさんの感覚はまだよく見えませんね。

相馬:俺もよくわかんないです。それぞれに何かしら思うところはあると思うけど(笑)

杉本:ブログで、「これでボランティアが終わりますけどこんな感じでした」といった感想に、よく相馬さんが「なるほどね」みたいなコメントしていますけど、その時、「ああ」と気づく感じなんですか。

相馬:そうですね。「なるほど、こんなふうに思ってたのね」と

杉本:それまでは気づかなかったんだ、やっぱり。

相馬:つつがなくやってくれれば、こっちとしてはそれ以上言うことはないですからね。

杉本:そうですよね。アクシデントが無いだけでも。

相馬:本人が負担を感じながらだと困っちゃうから、ボランティアや訪問を続けて負担じゃないかは気にしますけど。でも、活動の中での細かい心の動きはそれこそ本人のものなので。本人が話したければ話せばいいですし。

ただ、この「話したければ話せばいい」というのも曲者でね。話せない人もいますから。「話せない関係」にしといてそのまま終わってしまうのはまずい。一律にやってはダメです。いかに話しやすくするか努力はします。その上での「話したきゃ話しなさいよ」じゃないと。

杉本:ボランティアミーティングみたいなことはないんですか?

相馬:それがね。最近はできてないんですよね。

杉本:前はやっていたんですね。

相馬:ええ。新しく訪問を始めた人などもいるから。それは再開しないといけない。

杉本:共有するという感じなのかな。スタッフの人同士で。

相馬:そうですね。訪問先のことより、まず「自分の気持ち」ですね。

杉本:そういうことですよね。普通に話し合える関係というか、それがしやすい状況というか。それこそ心理的安全性で。ところでボランティアさんに謝金は?

相馬:ないです。交通費実費だけですね。

杉本:訪問先からお金もらってるんでしょう(笑)。

相馬:元が少ないですからね。交通費払った時点でもらってる分の半分くらい無くなっちゃう。あとは金銭授受によって変に責任感を持たないでほしい気持ちもあります。なにかあれば、まあ、なくても休みたかったら休んでほしい。

杉本:そうなんですか。ボランティアで卒業していく人たちはやはり心理、社会、教育関係の仕事に?

相馬:そういう人が多いですね。

杉本:やはり自分の未来の職業と関連づけてやっているんですね。

相馬:だから漂流教室のボランティアスタッフだった人たちが着々とこの界隈に増えてきて(笑)

杉本:ああ、それは成功ですね。

相馬:どう見ているかわかんないですけどね。「あそこでやってきたことはとんでもなかったな」と思ってるかもしれないし(笑)。「専門的見地から見るとだいぶまずいな」とか。

杉本:漂流さんの近辺で、自分の職業としてちゃんと成り立っているのであれば、十分価値のあるボランティアをやって来たということでしょうね。

相馬:まあ、彼らが単純に優秀なだけでしょう。

杉本:うーん。確かに有能そうな文章を書く人はいますよね。

相馬:面白いですよね、「何もしない」というのは。何か目的持ってとか、何かするためにじゃなく会う。それをずっと続けると結局自分のことを考えざるを得ない。目的があると、そのために相手をどうするかという話になってくるんだけど、それがないと「なんでこれをやってるのかな?」とか、「自分の関わりは一体なんの意味があるんだろう」と問わざるを得ない。そうやって自分を振り返って、自分を知って終わってくれると、まあ良かったなという気持ちになりますね。

杉本:それが一番理想的かもしれませんね。さらに言葉も見つけてみたいな形になればなお良いかも。確かにボランティアの人たち自身が学んでいる面はありそうですね。

相馬:それはこちらも同じですね。彼らから学ぶことや気づくことは多いです。

杉本:本当にそうなんだろうと思います。しかしながら、信念体系がすごいというか、確信がすごいなと思って。20年間ボランティアの人にお任せして、訪問を続けてもらって。やっぱり1年くらいですか、最低でも。

相馬:うん。

杉本:1年とか2年とかやってもらって、「これをやっている意味はなんだろう」と思う局面を経て、「なぜこんなことやらなくちゃならないのかわかんないです」とキレられることもなく、相手からも「何しに来てるかわからないんだけど?」と言われることもなく20年。これ、ちょっとすごくないですか?

相馬:ははは(笑)

杉本:すごいと思いますよ。

相馬:すごいかすごくないかは知らないけど、「何だかわからんな」とは本当に思います。

杉本:訪問を受けた人はその後どうなったんでしょう?

相馬:どうなってるんでしょうね。たまに顔を見せにくる人もいますけど、9割方わからないです。まあ、どうにかなってるんじゃないですか。

杉本:何かねえ。自分はロマンで見ているんだなあとあらためて思いますね。そう、感覚的には学生寮で過ごした1~2年みたいな感じかな。でも、学生寮ならもっと密度が濃いだろうけど、そんなに距離を詰めるわけじゃないだろうし。確かに行きずりの感覚ですね。ちょっと困っている人へ会いに行き続ける。で、お互いに「これ何?」と思いつつ、それでも「意味があるのかも」と探索して。でも、実際に訪問先の子がどう思っているかはよくわからない。

でも、その子はきっとボランティアの人との関係で何かをわかっているはずですよね。言葉にしづらいけど、相手を知って、何かを見つけていると思うんです、続けているということは。でもそれもお別れがあって、記憶の中ではなんとなく薄れていく感じになって。うん。ロマンないなあ。

相馬:ははは。つげ義春のマンガみたいでいいじゃないですか。

杉本:ははは(笑)

相馬:出会って、別れて。

杉本:なるほど、いい距離感で。利用者の人もおそらく学生ボランティアさんとの時間は限られているとどこかで理解して会ってくれるんでしょうね。この人とは2年先には別れるんだという。時間の区切りがあると意識して。でも、いま自分にとっていてくれた方がありがたいお兄さん、お姉さんなんだと。

その点は、常勤スタッフだとずっと続けるケースもあるだろうから、もっとじっくり付き合う感じはあるかもしれないですね。極端な話、10年でも20年でも。まあ、ご両親がどう思うかは別にして。


秘密を分かち合うということ

杉本:漂流教室さんのやり方はだいたい見えてきましたかね。しかし、率直に言ってやはりミステリアスな感じが残るな。

相馬:それでいうと「秘密」って面白くて。まあ悩み事とかを話をするのもそうなんだけど、ちょっと秘密の共有みたいなところはありますよね。秘密を分かち合うって「そこだけ」の話ですから、関係を深めるポイントになります。特に重要な話じゃなくて、子どもの頃のちょっとした失敗とかでも。

杉本:確かにそうですね。

相馬:前提として、その子が何を言い、何を言わないかというのはその子次第です。「言わないぞ」と思っていることは言わなくていい。その「秘密」を持っていること自体が、その子の個人としての証しじゃないですか。誰とも分かち合いえないものを持っている。でも、ずっと抱えているのも大変だし、やっぱり誰かに知ってほしいという気持ちもあって打ち明ける。2人共有の「秘密」になって、今度は関係の証しになりますね。

でも、同時に裏切りのタネみたいなものもはらむ。その秘密を誰かに話したりするかもしれないと、不信感も芽生えるわけで。だから「秘密」をどこまで抱えどこまで打ち明けるかみたいなところは、関係づくりとして面白い要素ですね。

杉本:そうですね。

相馬:以前、あるボランティアスタッフが「話さないことでも秘密は伝わる」と言っていて。会話自体はたくさんしているのに、学校の話だけが出ないとなると、かえってそこが浮き彫りになるじゃないですか。

杉本:そうか。学校のことを意識しているからこそ、その話がまったく出てこない。

相馬:そうそう。学校の話が出てこないというのは、あえてそこを避けている。それが見えてしまう。

杉本:なるほど。

相馬:その形でも共通の秘密になりますよね。「言わずに伝える秘密」みたいな。そういう話を聞くとね、「なるほどね」と思う。

杉本:確かに。大事なことだから、抱えてあげなくちゃいけない部分ですよね。そこを語らないということはね。「あ、語れないことがあるな」と気づいたとしても、聞いている側としてはそこは守ってあげなくちゃいけない秘密と思うべきでしょうね。

相馬:ええ。だからあえて言わない、あえて聞かない。おそらく互いにわかってるけれど、それでも聞かない、言わないみたいなもの。

杉本:うんうん。そこは信頼の話になりますね。

相馬:そうですね。面白いなと思って。

杉本:そうなるとボランティアも、こういうタイプの人は難しいかもしれないというケースがあるのでは?

相馬:うーん。それがね、そんなにないんですよ。

杉本:やはり向いている人が来る?

相馬:いや。おそらく研修の時点で何か違うなと思って去っていく。

杉本:あ、関心を持って来たけれど、さきに先方のほうが気づいちゃう感じ?

相馬:うん。


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