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ただしい医療との付き合い方「どこへ行ってもよくならない」を解決する方法 その2 様々な医療体系について

その1からの続きです。今回は「病院の治療と鍼灸院の治療ってどう違うの?」といった医療体系、エビデンスについての話になります。


1,多元的医療体系(システム)

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一般的に日本をはじめとする先進国の病院では、薬物療法中心の治療でエビデンス(根拠)に裏打ちされた合理的な治療が提供されます。医学は科学技術の発展とともに様々な病因の分析や治療法の開発がなされ今日まで進歩してきました。安全性や効果があるものが「通常医療」や「標準医療」とよばれています。ある疾患に対する治療法の推奨度はガイドラインとしてまとめられていたりもしています。保険診療で安価にそして標準的な診察が受けられ効果が高い薬を受け取れるようになっているのは日本の医療の素晴らしい点ではないかと思います。

一方で生活習慣やストレスなどに起因する精神疾患、アレルギー疾患、がんなどについては必ずしも容易には克服できない状況が続いています。全員が通常医療で解決できるわけではない治りづらい、解決が難しい疾患が存在するのです。そのような背景からも健康食品やマッサージ、鍼灸など通常医療に組み込まれないいわゆる「補完代替医療」が広く国民に利用されているという現状もあります。補完代替医療とは通常医療を補完代替するための医療という意味です。

このように一つの社会に複数の医療体形とそれを支える信条が多様的、多層的に存在していることを医療社会学や医療人類学の分野では「多元的医療体系(システム)」と呼ばれます。★1

また、この補完代替医療という言葉はアメリカ発の考え方です。

アメリカは国家的な取り組みとして1998年にNational Center for Complete mentary and Altanative Medicine(NCCAM)を設立しています。当初NCAAMは補完代替医療をComplementary and Altanative medicine=「一般的に通常医療とみなされない医療、ヘルスケアシステム、施術、生成物などの総称」と定義していました。もともとこの分野ではAltanative medicineという言葉が使われていましたが、これは代替医療の訳で通常医療を否定する意味合いがあることから「Complementary health approaches」すなわち「補完代替医療」という用語を用いるようになってきました。★2 

そして近年では統合医療(Integrated medicine)という言葉も使われるようになりました。これは医師管理のもと通常医療・西洋医学にさまざまな補完代替医療を統合し患者中心の医療を行うものです。

それにしてもなぜアメリカで代替医療が生まれたのでしょうか?もともとは70年代のアメリカのヒッピー思想であるニューエイジ等が元になっていると思われます。日本でも医療制度の違いなど様々な要因はありますが、「現代医学に対する不信感・カウンター」もあるのではないでしょうか。

★1:多元的医療体系 解説 池田光穂

★2:医歯薬出版「補完代替医療とエビデンス」より

2,誰が行うか?資格による分類や注意点など

日本においては2011年より厚生労働省による「統合医療のあり方に関する検討会」が開催され、初めてこれらの用語が整理される流れとなりました。そこでは民間資格の整体やカイロと同じく鍼灸は相補・代替療法という言葉で説明されています。明確な分類がある訳ではないものの、種類の例として以下のような説明がなされています。

国家資格・国の制度に組み込まれているもの:はり灸、あんまマッサージ指圧、ほねつぎ、漢方医学の一部、サプリメント(栄養機能食品など)

その他:カイロプラクティック、整体、ヨガ、音楽療法、アユルベーダ、ホメオパシーなど

この各種療法は誰が行うのでしょうか?

医師がサプリメント販売などを行う場合もありますし、私のような国家資格を持つ鍼灸師が鍼灸(鍼や灸による施術)を行う場合もあります。整体施術などは資格が特に必要ないです。法律にあてはめて考えれば、医師が行えば医療行為・治療行為にもなりますが医師以外の行為だとあくまでも施術という考え方もできます。

また相補・代替療法と一口に言っても本当に様々です。鍼灸や漢方などは国内、海外ともに研究データが豊富で厚生労働省の管理する「統合医療情報発信サイト(eJIM)」にもたくさんのエビデンスが掲載されていますが研究があまりなされていないような方法もたくさんあるのです。民間療法・代替補完医療というと同じように聞こえる方もいるかもしれませんが千差万別で全く効果や安全性が証明できないものもたくさん存在します。よくチェックされることをお勧めします。

私自身の考えですが、以下のことに注意すると良いでしょう。それは「通常医療を理解していない人が発信する情報は無意味」ということです。それどころか害が大きいかもしれません。なぜらば、どこからどこまでがセルフケアや補完代替医療の領域で、どこからどこまでが医師や病院に頼るべき領域なのか?わからないと健康被害なども大きくなる可能性が高いからです。臨床試験のこと、薬のこと、医学用語など・・・理解していない人が発信する情報は疑ってかかることをオススメします。そして、逆もまた然り。補完代替医療を十把一絡げにして頭から否定してくる人もまたおかしいです。お互いを尊重する態度でありません。

医師や薬剤師は通常医療の勉強をしっかりとしている人が多いですし、選択の順序がおかしくなる事は比較的少ないです。一例をあげます。高血圧の方で現代医学の薬に不信感を持っている人がいて漢方や鍼灸での体調管理・血圧コントロールを希望していたとします。管理するのが現代医学やいわゆる東洋医学にも明るい医師の場合なら本人の希望を考慮しながら漢方で症状をコントロールすることを第一選択とし、定期的に診察を行いながら症状が悪化するなどの変化が見られた場合、現代医学の薬へ切り替えることを勧めたりもできるでしょう。

ところがサプリメントの販売業者などで現代医学の勉強が足りず理解していないと、「どこまでが自分の守備範囲か?どこからが現代医学や医師に頼るべきか?」そのラインがわからずクライアントに不利益を与えることもあるのです。

がんやアトピーが治らないのは製薬会社の陰謀、などと極端な話をする人もいます。専門分野だけでなく「通常医療」という基礎の部分を理解している人に相談をするといいでしょう。まじめな人は必要な場合、すぐに病院での治療や検査を勧めてきます。通常医療を簡単に否定する、根拠なく「治る・良くなる」という人や方法は信用しない方が良いです。よく検討しましょう。

3,選択する上で大事なこと、順序

このnoteの主題でもあり私が訴えたい事でもありますが「上手に医療を利用しよう。」という事で、以下の考え方も大切です。

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①極端に盲信しない

通常医療以外の方法も素晴らしい面もたくさんあります。が一方でがんなどの重病にかかった有名人が「怪しげな民間療法にハマリ通常医療を受ける機会を逃しかえって悪い結果になってしまった」というような残念なニュースをきくこともあります。大切なのは通常医療を否定しないという考え方です。

以下、国立がん研究センターの「補完代替療法に興味を持ったときには」から大切な考え方を載せておきます。がんだけでなくすべての疾患に当てはまると思いますので参考にされるとよいでしょう。

(以下抜粋)

● この補完代替療法は、あなたが行っている治療に悪影響を及ぼさないことが確認されているか
● この補完代替療法について、担当医に相談して、賛成が得られたか
● この補完代替療法について、家族や経験者、第三者など冷静な意見を得られる人に相談したか
● この補完代替療法の効果を自分は冷静に判断しているか
● この補完代替療法は本当に自分にとって負担になっていないか。お金や時間、快適さの点で無理をしているところはないか

● 補完代替療法を受けるオフィスやスタッフに不快な気分を感じなかったか
● この補完代替療法の専門家は、標準的ながんの治療について、信頼できる発言をしているか。補完代替療法の効果を過度に宣伝してはいないか

補完代替医療にはたくさん時間とお金をかけたら改善率が上がるという性質はありません。時間やお金を沢山使い極限まで期待値やプラセボ効果を上げるような考え方はカルト宗教と同じです。盲信せず無理なく続けられる事を選びましょう。

②選択の順序が分かればラクになる。

細かい話は後述しますがまずは以下の事を覚えたおいて下さい。「まずは標準医療から。その上で、合わなかった場合の代替手段、補助的手段としての別の治療法も検討する。」シンプルに、これが基本的な考え方になります。

前述の通り普通の病院で行われている治療は確立的に1番良くなる可能性が高いです。それからまずは原因を調べることも大事です。もちろん原因が不明な事もあるでしょうがまずは大きな病気のリスクがないか?確認が必要です。

街の病院(クリニック)で原因がわからない場合でも大学病院などに検査を依頼できるような仕組みがあるのです。まずは街の病院(クリニック)へ行ってください。まずは病気でないか?の確認をし、病気でないことが確認されたが調子が悪い場合のセカンドチョイスや、現代医学的な治療の補完として別の方法を試すという道筋が安全ですのでそちらを勧めています。「

ケースバイケースでさまざまな考え方がありますが上記の2点をまずは基本的な考え方にすると良いかと思います。

③どの補完療法から試すのが良い?

症状や好みにもよりますが、もしも通常医療のお薬以外の選択肢を試したいとき何がオススメか?と言えばズバリ、漢方です。理由は漢方は歴史的にも長く、効果や安全性に対する研究が豊富、日本においては一部保険適応だから安価な部分から試しやすい、という理由からです。

まずは漢方を処方してくれる医師に相談するのがいいでしょう。医師は人から紹介してもらう方法もありますが、そのような機会がない場合には漢方内科など漢方という名前が付く科を標榜している病院を探すのがいいでしょう。飲み合わせによっては漢方も副作用があるので自己判断ではなく相談しながら試すことをオススメします。医師は問診・触診、検査などを行い患者さんの希望も考慮しながら、現代医学の薬も含めなんの薬が相応しいのか?相談に乗ってくれるはずです。
*漢方を補完代替医療としてとらえて良いかどうかは議論がありますがここでは現代西洋医学以外の選択例として挙げました。

4,科学だけが正しいのか?

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価値観をめぐるとてもセンシティブな問題ですがこのことについても少し書いていこうと思います。

例えば、「科学的根拠がない医療デマを信じてしまったがゆえに健康被害にあってしまった」ひどい場合には「死期を早めてしまった」という残念な話を聞くことがあります。それらはトンデモ医療・ニセ医学などと揶揄されることもあります。

科学を重視する医師や研究者がこの問題について啓発しようとすると命を救いたいという熱意からか「どうしても、否定が行き過ぎてしまう」傾向にあります。しかし、そもそも患者が医療デマと言われるようなものを信じるに至るまでには必ず経緯があり、物語(ナラティヴ)があり、理由があるはずです。それは家族を医療事故で亡くしたことかもしれないし、現代医学に対する不信感かもしれないし、何か嫌な経験があったのかもしれません。

またそもそも科学的に正しい話、事実が人の意見を変えることはないという多くの実験や証拠があります。★3 科学的事実だけで相手を説得できることはないのではないでしょう。

現在は厚生労働省も情報サイトe-JIMなどでも情報公開を行って補完代替医療との付き合い方を啓発しています。価値観の問題は押し付けることが出来ません。しかし医療者としては科学的根拠を伝えることも重要です。ですので患者さんとよくコミュニケーションをとり、対話し何が最善なのか話し合って意思決定を行うことが大切かもしれません。★4

その3へ続きます。

★3:事実はなぜ人の意見を変えられないのか?にもたくさんの論文が掲載されています。:よくわかる医療社会学(ミネルヴァ出版)

★4:患者と医療者の協働意思決定と診療ガイドライン


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