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小説【ガール・プログラミング】第4章:「胸の高鳴り」

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 世の中には相入れないものがある。水と油。犬と猿。インデント派とタブ派。そしてデザイナーとエンジニア。

 若干18歳で社会人経験もない小娘の私でもわかるくらい、見た目と機能は喧嘩する。でも仲良くできればこれほどヒットメーカーとして君臨出来るコンビネーションも、ないものだ。

 帰りの電車の中で、私は今日あったことを反芻する。

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 私の企画を目黒部長が参加してくれること。関口さんが参加してくれること。辰巳副部長が参加してくれること。小川さんが参加してくれること。

 つまり5人全員揃って「with HSP」の開発に参加するということ!

 それぞれのやりとりはこうだった。

 目黒さんは

「C#オンリー、つまりコード”だけ”に頼らずやる、っていう手法も、もちろん知ってはいたが、おもしろそうじゃねぇか……なぁ、辰巳? 当然リリース周りは任せても良いよな?」

 辰巳さんは相変わらずパソコンをやっている姿勢を崩さないまま

「私が得意なAzureを活かせたら最高なんだけどね〜〜でも何だっていいよ〜。手伝ったげる〜販売サービスサイトで売るでもスマホリリースでも〜〜」

 関口さんがそこに乗り出してきて私に言った。

「部長ももちろんだけど、辰巳副部長もすごいんだよ。この大学のWebページのサーバーやクラウドサービス網羅しているの辰巳さんなんだから」

 私はそれがどのくらいすごいのかがよくわからないけれど、とりあえずインフラ関係は十八番だということは理解した。

「私も絵なら描けるよ」

 そう発言したのは、ゲームを自分から電源をOFFにして話に加わってくれた小川さんだった。

「うん! とっても心強い!」

 私はやや大袈裟に彼女に愛嬌を振りまいた。彼女は悪い気はしない、と言わんばかりににやけた。しかし実際その通りだ。

 関口さんも負けじと

「もしコード量が多くなったり、複雑なプログラミングでおっつかなくなったら私も出来るよ。HSPのことについても調べるの手伝う」

「わかってるよ関口さん。頼りにしてる」

 彼女も微笑んだ。

 船頭多くして船山に登る、とは言ったものだけど、もしこれが全員HTML・CSS・PHP(またはRuby)しかできないと言う状況だったら、ゲームアプリ制作はいろんな意味で難航していただろう。この状況に本当に感謝せんばかりだ。

「頼むよリーダー!」

 小川さんが言った。私も

「ええ、部長。部長がいてくれれば百人力です。是非私たちのーー」

「何言ってるの桑谷さん。あなたがリーダーじゃない」

 はい? 

 と私は呆気にとられた。

「言い出しっぺはお前だろ? リーダー」

「リーダー、かっこいいじゃないですか〜〜」

「そうよ、桑谷さんがみんなのやる気を奮い立たせてくれたリーダーじゃないの」

 他の3人も口々に言った。私がリーダー。そんな自覚は全くないのだが……

「いえ、私はそんなガラじゃ……」

「「「「リーダー!!!!」」」」


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 と言うわけで、私はリーダーとなってしまった。ついでにみんなの連絡先も交換した。

 自宅で動画をのんびり見つつ、心は動揺している自分がいる。

 確かに。私がそのアプリを作りたいと言ったのだし、そもそもHSPに対する理解を得つつ舵取りをしなければならないのは他ならぬ私だ。プログラミングなどの技術はあくまで手段に過ぎない。例え1年生だろうが、プログラミングがそれほどうまくなかろうが、Unityをあまりふんだんにいじったことがなかろうが、言い訳は無用。やらなければいけない。

 まず、状況を整理しよう。


 目黒部長:いろんなプログラミング言語が得意。特にWeb系技術。
 辰巳副部長:インフラ技術やリリースの手法などに優れる。部長の片腕。
 関口さん:プログラミングに対するアルゴリズムや文法に自信を持っている。
 小川さん:絵が描ける。その他ゲーム性の出来不出来の判断やデザイン周りも任せられそう。


 こんなところだろうか。と、なると、なるほど、プラットフォームを作って、それを形にして、さらには全体像を見渡す必要がある、そんなリーダー的な職務をやるべきなのは私だ。


 次の日になって、早速ちょっと小川さんに捲し立てられた。

 彼女曰く

「リーダー。ゲームを作るってのはわかったし、ゲームエンジンでいろいろオブジェクトを操作していくのもわかった。でもまず私たち、ゲームの根幹にある、そのHなんちゃらとかいう性格について説明してもらわないとやりにくいかな。実際それなんて言うの」

「え、えっと……」

 私がまごまごしているうちに、相変わらず後ろに座っている辰巳さんが、説明してくれた。

「HSPのことでしょ〜〜。Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)のことで、とっても感受性が強くて敏感な人のことだよ〜〜。普段からいろんなことを感じ取れて、でもそうでない人からはその特性から『わがまま』『変な人』って思われていて、とても生き辛い思いをしてしまうの〜。リーダーはそういう偏見を無くしたいがために今回の企画を考えた〜それで合ってるかな〜〜?」

 合ってます合ってます、と、私は辰巳さんの方を向いて心の中で感謝しながら頷いた。すると相原さんはツインテールの髪の毛のてっぺんを弄りながら

「うーん。まあ今の説明でなんとなくわかったけど、私がイラストを書くとしてそういうデザイン出来るかなぁ。そりゃまあ、苦手じゃないけど、そういうセンセーショナルなこととか人とかを思いついたり描いたりするの。でも、まずリーダーがシーンとかテキストとか、ある程度仕上げた後だとこっちもわかりやすいかも。そこをきっちりしとかないと、いつまで経ってもリーダー待ちになっちゃう」

 私はまいってしまった。私のUnityでの知識は、まだローカルでコンポーネントを自由にいじるくらいの初期段階ができているだけだ。しかしこのままだと私の進捗の遅さが全体の進捗の遅さにつながる。

「いいや、それは違うぞ」

 いつの間にやってきたのか、部室の入り口の付近には目黒さんと、後ろには関口さんもいた。

「桑谷もといリーダーは自分の得意な言語で、しかし慣れないゲームエンジンを使って開発しようとしているんだ。そこは私だって同じだと以前も言った通りだ。でもだからこそお互いがお互いの得意なところで勝負し合って、最高のものを作り上げていく。それも今回の目的の一つなんだ、と私は思うぞ。そのためにはまずは各々が出来ることの他に楽しめることをやる。お前も同じ考えだろ、リーダー」

 私は少し目頭が熱くなった。あんなに怖い顔をしていた部長がいきなりフォローに入ってくれて、しかもまとめようとしてくれているなんて。私は勢いよく

「はい! ありがとうございます!」

 とお礼も込めて言った。

 小川さんは

「ちぇー、わかりましたよ部長。そうと決まったら、リーダー、とりあえず私、そのHSPのこと調べていっぱいデザインを練ったりイラストも出来るだけ描こうと思うから。リーダーも少しずつでいいから頑張ってゲームエンジンの操作覚えたりしてきて欲しい……」

「もちろんよ。ありがとう!」

 後ろにいた関口さんは

「UniryはC#の知識が必要になることも結構あるからね。何ならコーディングは全部私に任せてもいいくらいよ、桑谷さん。C#は得意だと言っていたけれど、何かあったら私を頼って」

「ありがとう! 関口さんとっても頼りになる!」

 私はついに、このサークルに入ってよかったと心から思えた。


(今日の柚木さんとのチャット)
私:「聞いて聞いて。今の私の所属しているサークル、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックとビル・ゲイツとポール・アレンが、私の他に4人いるようなメンバーなの。すごいでしょ?」

柚木さん:「すごいけど驚きはしないよ。きっと君の力でそれらの人達の心や情熱を動かしたのだなって、思うから。僕も桑谷さんの優しさに何度も救われたしね」

 柚木さん……いつの間にこんな感動的なこと言えるようになったのね(泣)


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