小説【スペース・プログラミング】第9章:「愛に命を」
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目が覚めると、そこは月の表面みたいに暗い天に、辺りが照らされた夜の街のような場所だった。
何故こんなところにいるんだろう? 僕は全く見当がつかない。
だって今日だってーー
下校時間。
「三谷くんをいじめたら許さないんだから」
多くのクラスメイトに注目されつつ彼女に圧倒され、天童は後方にのけぞった。如月さんのパワーは、ガチで喧嘩をしても勝てそうな、そんなオーラを秘めていたからだ。
「……チッ」
「チッ、じゃないでしょ!」
彼女は天童の左頬に平手打ちをした。一気に鼻と唇から血をだらだら流した。その場で蹲り呻き声を上げる天童。AIロボットの力がどれくらいなのかは僕も知らないが、さすがにやり過ぎだ、と判断し、僕は止めに入った。
「もういいよ、如月さん。これ以上はやり過ぎだよ」
「三谷くん、優しいのね。いいわ、三谷くんが言うなら今回はこれで許してあげる。でも、もう一度言うけど、今度三谷くんのこといじめたらこの4096倍じゃすまないから」
僕は目を丸くした。そして注目している周りの目も気にせずに、如月さんの方を見た。
「ちょっとはしたないところ見せちゃったかしら……そんなことない?」
「ううん、それより下校時間だから帰ろう」
「うん、それじゃあいきましょう」
僕は彼女に右腕を抱かれた状態のまま、一緒に歩いて行った。
帰りに、警備員の柚木さんを数メートル先から見た。手を振ろうとしたら、柚木さんはびっくりするようなことを言った。
「君、そこの娘さんについて話があるんだが、ちょっといいかい?」
僕は右腕にひっついている如月さんに「ちょっといいかい? 警備員さんが僕に話があるみたいなんだ」と言って、振り解いてもらって、少し離れたところで待ってもらった。
僕は、柚木さんに「何?」と聞くと
「あの君の彼女さん、人間じゃないだろう、おそらくAIロボットか何かかだな」
僕は度肝を抜かれた。
「僕は趣味でAIゲームを作っている者なのだが、彼女の動向には気をつけたほうがいい。まだ生まれてから数ヶ月と間もないと見える。どうか彼女を守ってやってくれ」
僕は、ただ無言で頷いた。
彼女のもとに戻って、用事はすんだ? と聞かれたので、再び彼女はギュッと右腕を抱きしめてきた。「さあ、帰りましょう、さよならー柚木さん」
柚木さんは黙って手を振った。
確かに、彼女はまだこの世に生まれて日にちが経っていない。如月という名前からつけた、ということは、まだ生まれて4ヶ月半程度だ。いつ小さな子供のように突拍子もない行動をするかわからない。それにADHDという診断が出ているとも。最もこれは、最初からそう意図的に作られたのか、作られた後に実際の病院に行って診断を受けたのかわからないが。
「あ、見て三谷くん! 子猫が道路を渡ろうとしているよ!」
考え事をしている僕の腕を離して猛スピードで彼女は前を走って行った。目の前を見てみると、彼女が子猫を捕まえようとしている場所は、赤信号の交差点! 僕は一目散にそっちに向かって走って行った。
「危ない! 如月さん!!」
僕は車道に立つ如月さんと彼女が抱いた子猫を、猛ダッシュしてその場から押し除けた。彼女達は歩道側に倒れ込んだが、僕はその場で足を挫いてしまい、倒れ込んだ。その時、大型トラックのクラクションが鳴り響き、僕の視線を暗く染める…………。
「よっ、お前新参者か。いや”死んだ者”か。全く嫌になるな、ここの雰囲気は」
僕は、その豚だか猪だかわからない顔で人間の体をした者に肩を叩かれ、そう言われた。死んだ者、そうか、僕は死んだのか。
……生前の記憶が蘇ってくる。間違いなく僕は、如月さんと猫をかばい、大型トラックに轢かれて死んだ。今際の際に聞こえた
「三谷くん! いや! 死んじゃいや! 私のせいで……。
いやあああああああああああああああああああああ!!!…………」
彼女の声が聞こえたのも束の間、僕はここにいたのだった。
↓続き
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